ゆるい感じで。

「スレイヤーズ」のガウリナメインの二次創作ブログサイトです。原作者様、関係者様には一切関係ございません。

静かに怒る。(ガウリナ)

2016-08-07 18:19:43 | スレイヤーズ二次創作
ぷらいべったーより再掲。
ワンライ参加作品です。お題「怒る」

ガウリイが怒ると言ったら盗賊いぢめからのお説教コンボですよね!

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「……リナ」
 びくり、と肩が跳ねた。聴き慣れた相棒の声。呼ばれ慣れた名前。
 ――なのに。
 あたしは今、振り向くのが怖い。

 確かに。あたしはちょっと、軽率だったかもしれない。
 昨夜、宿の食堂で耳に挟んだ盗賊団の噂。絶好のカモ。……最近路銀も少なくなってきたし。こんな寂れた村に出る盗賊なら、きっと大したことはない。
 そんな根拠の無い自信から、あたしはガウリイの打った釘を無視した。

 そして。今の有様といえば。
 あたしは危うく両手足を縛られて、猿ぐつわまで噛まされる所だった。……あ、ちょっと今あんまり遠くない昔を思い出してしまった。
 ――いやいやだってまさか。こんな肝心な時に「あの日」が来るなんて。よりにもよって頭目めがけて火炎球の一発でもかましてやろうという時に。
「リナ」
 それをすんでの所で助けてくれた自称保護者ガウリイ君は、絶対怒っているに違いなかった。あたしを取り囲んでいた賊達を、次々に斬り伏せて。次いであたしを縛る縄も切って。
 それでもあたしはそのまま動けない。身体が痺れて動かないのだ。
「……おいリナ」
 だって声が凄く低い。いつもよりワントーンくらい低い。それにちょっぴりドスが効いている。たぶん絶対怒っている。めちゃめちゃ怒っている。……うう、怖いよう。
「リナ!」
「ひゃいっ」
 鋭い声に、思わず小さく飛び上がった。恐る恐る振り向けば、そこには仁王立ちする自称保護者。その顔は……想像よりは柔らかかった。
「なんだ、動けるんじゃないか」
 言って、溜め息一つ。そして彼はあたしの腕を引いて立ち上がらせる。その拍子に、あたしの太ももあたりにぴりりと軽い痛みが走った。どうやら切ったか擦りむいたかしたらしい。
「痛っ……」
 思わず声を漏らして顔を顰める。それを見て、ガウリイも同じように顔を歪めた。
「どっか怪我してるのか?」
「いや、ちょっと擦りむいただけよ。大丈夫――」
 治癒の呪文ですぐに治る。思わずそう続けようとして、あたしは口をつぐんだ。――今、魔法使えないんだった……。
「……」
 そんなあたしを見つめる、ガウリイの目。その青い目が、静かに怒っていた。
 あたしは、彼のそんな目に弱い。怒鳴りつけられるよりも、泣き付かれるよりも、その目でじっと見つめられるだけで、あたしは降参してしまうのだ。
 申し訳なさで、どうしようもなくなって。
「……ごめん」
「分かってるなら、良い」
 ぶっきらぼうに返された言葉。あたしは俯いて彼の隣を歩きだした。
 ――分かっている。あたしが悪い。彼はあたしを心配して怒っている。
 ああ、でも。だけど。
 普段穏やかに笑う相棒の、怒った顔と冷たい声を向けられるのは。……きっついなあ。

 ――……ごめんなさい。
 黙ったまま、あたしは胸の内でもう一度そう呟いた。足の痛みよりも、ずっと胸がずきずきと痛い。
「……はああ」
 そのとき、隣でガウリイがさっきよりも大きく溜め息をついた。どきっとして思わず足を止める。そんなあたしの頭の上から降ってきたのは、覚悟していたお小言でも説教でもなく。
 くしゃり。
 軽い音、そして掌の温かさ。いつもみたいに、ガウリイはあたしの頭をくしゃりとかき混ぜた。
「――でも、無事で良かった。リナ」
 その声が、さっきよりもずっと優しかった。不意に鼻の奥がつんとして、少し動揺する。
「……ん、ごめん。ありがと」
 もっとしっかりした声を出すつもりだったのに。口から出た声は、思った以上に弱々しく響いた。
「ん。……どーいたしまして」
 俯いたままのあたしにも、今ガウリイがどんな顔をしているのか、なんとなく分かる。
 きっと、困ったような顔で笑っているのだ。


終わり

ヒトの体温。(ガウゼル!)

2016-08-07 18:16:36 | スレイヤーズ二次創作
ぷらいべったーより再掲。
※うっすらで分かんないかもですが、ガウゼル的な要素があるので、
苦手な方は御戻りくださいませ。

NEXT温泉回のその後の話。

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「今更だけどさ。ゼルの身体って、ほんとに不思議だよなあ~」
 あまりにもあっけらかんとした口調で、目の前の男はそう言った。

「……喧嘩でも売ってるつもりか?」
「いやいやいや、まさか。ただ純粋にそう思っただけだよ」
 俺の返答に、ガウリイは少しだけ慌てたように手を振って否定の意を示す。眉を下げ、きょとんとしたようなその表情に悪意や含みのようなものは見えない。
 ――とはいえ。
「……」
 金色の髪に青い瞳。そこら辺の女たちなら黄色い声を上げる容姿、鍛えられた体躯。そんな男からのそのひと言は、例え含みが無かったとしても俺には嫌味のように聞こえた。
 ……分かっている。ただの僻みだ。
 邪妖精と岩石人間を合成された己の身体。奇異の目で見られる事には慣れているが、気にしていないわけではない。こちらだって、身体は鍛えているつもりだが。
「悪かったよ。まあそう怒るなって」
 癖なのか人差し指で頬を掻きながら、ガウリイは片手で俺の背中をぱしぱしと軽く叩いた。その掌の感触はやはり「ヒト」のもので、俺の手とは少し違う。そんな事を無意識に考えてしまって、俺は小さく溜め息をついた。
「別に、そこまで怒っているわけじゃないが……」
「そうかあ?」

 リナに執着しているらしい怪しい女、マルチナ。その女のせいで、せっかく風呂に入ったというのにまた汗をかくハメになってしまった。そうして結局、騒動がひと段落してからまた温泉で汗を流す事になった。
 男二人、並んで露天の湯に浸かる。
 竹垣の向こうは女湯らしい。かすかに、リナとアメリアが騒ぐ声が聞こえてくる。基本的に、ガウリイも俺もあまり口が達者な方ではない。自然に、その場を沈黙が支配した。

 その沈黙を唐突に破ったのが、先ほどのガウリイの一言だ。……せっかく、気持ちの良い沈黙に身を任せていたというのに。
 肩を竦めて濡れた髪を撫でつけたら、ちゃぷ、と音を立てて熱い湯が波立った。肩から上を撫でる風が冷たく、心地が良い。
「でもさ」
 さっきよりも静かな声で、ガウリイは言った。そして俺の手を取った。ごつごつと硬い、岩の肌。
「……なんだ」
 金色の濡れた髪から覗く青い瞳が、まじまじと俺の手を見つめている。そんな事は初めてで、酷く落ちつかない気分になった。触れられた手が、じわじわと熱を帯びる。
「ほんとに、不思議なんだよ。ゼル」
「?」 
「ゼルの手は、硬くて強くて。でも、あったかくてちゃんと血が通ってるのが分かる。今は風呂入ってるから、ちょっと熱いな」
 そう言って、ガウリイはにっと笑って見せた。その笑みは呆れるほど屈託がない。まるで少年のようで、少し眩しい。――いい大人だろう、あんたは。
「そんな不思議体質とも、そのうちおさらばしてやるけどな」
 必ず、俺は元の姿に戻ってみせる。ちゃんと、人間の姿に。目の前の男と同じように。

 ――……だから、そろそろその手を離せ。
 ずっと男に手を握られている状態というのはあまり嬉しくはない。そう言外に目で訴えてみるのだが、ガウリイはその意図には気付いた様子はなさそうに、にこにこしたまま俺の手に触れているのだった。
「そうか、そうだよな。ゼルの元の姿も見てみたいし」
 うんうん、と一人で頷きながら、彼はそう口にした。――まさか俺の姿が戻るまで一緒に居るつもりか?
「……」
「今の姿もオレはなかなかイイと思うけどなあ~。戦う時は頑丈で便利そうだし……、ん。どうしたゼル?」
 ようやっと、黙ったままの俺の様子に気が付いたらしい。はあ、と溜め息をついて、俺は目の前の兄ちゃんをジト目で睨んだ。
「……いい加減手を離して欲しいんだが」
「ああ、悪い悪い」
 やっと俺の手を離したガウリイは、その手で濡れた前髪をかきあげる。
 改めて、大きな手だと思った。同性ではあるが、体格の上では俺よりもガウリイの方が恵まれていると言えるだろう。頑丈さで言えば、勿論こちらの方に利があるけれども。
 大きな手は、その分何かを掴むという動作に有利だ。言うまでもなく、剣を扱うのにも。
 その手が、普段はリナの頭をわしゃわしゃと撫でるのを知っている。剣の手入れをする時の手つきは、意外にも繊細だ。
 その手が俺の手と触れたのは、そういえば初めてだったかもしれない。質感はともかく、掌の温度は、今は俺とそう変わりはないはず。ヒトの体温。

「……」
 つらつらとそんな事を考えていたら、ふと目があった。何を思ったのか、ガウリイはふっと面白そうに笑う。
 さっきまでの屈託の無い笑顔ではなくて、それは少し……意地の悪い笑みだ。
「もしかして照れてるのか? ゼルガディス」

「…………違う。変な事を言うな」
 思わず少し詰まったのは、別に図星だからというわけではない。唐突な問いに戸惑っただけだ。……断じて、図星ではない。
「あはは、顔赤いぞ? やっぱり面白いな~、ゼル」
 途端に子供みたいな顔で声をあげて笑う男は、何を考えているのやら、よく分からない。こちらをからかっているつもりなのか、それとも天然なのか。
 天然だとしたら、それはそれで性質が悪くはないか?
「俺は面白くない……」
 低くぼやけば、ガウリイは何故だか嬉しそうにくすくす笑った。


終わり


抜け出せぬ旅の途中。(ゼルアメ)

2016-08-07 18:14:45 | スレイヤーズ二次創作
これもぷらいべったーより。
めがちゅうさんのお誕生日プレゼントに捧げたもの。
短いです~。

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 ふと、夜中に目が覚めた。
 ひんやりとした夜風が、開いた窓から宿の狭い部屋を通り抜けていく。虫の声すら聞こえぬ夜は静か過ぎるほどに静かだ。
 真っ暗な部屋に挿し込む月明かり。それに照らし出される、傍らに眠る少女の寝顔。
「……」
 俺は、その健やかな寝顔をしばらくぼんやりと眺めていた。ゆっくりと呼吸によって上下する彼女の胸、艶やかな黒髪は寝返りによってあちこち跳ねている。
 ――アメリア。
 声に出さずに、俺は彼女の名を口の中で呟いた。

 俺の身体を元に戻す。その旅に、彼女は付いて来た。
 本当に良いのかと、彼女に何度問いかけたか知れない。それでも、彼女の目はいつも真っ直ぐに俺を見据え、そして同じ言葉を返した。
 ……結局のところ、俺はこの奔放で真っ直ぐなお姫様を突き放すことが出来ず、そしていつの間にやらそんな彼女に絆されてしまっている。
 ――それで本当に、良かったのだろうか。
 自分の中で何度繰り返したか知れない、煩悶をまた繰り返す。
 例え己の寿命が尽きようが、俺は最後まで人間の身体に戻る事を諦めないとそう決めた。……つまり、本当に己の寿命が尽きるまで、元の姿に戻れないという可能性も、否定は出来ない。
 ――そんな旅に、俺はどこまでアメリアを付き合わせるのだろう。
 彼女を、この絶望的な旅の道連れにする事を、俺は許容できるのか。今すぐ振り切って、一人旅に戻った方が賢明なのではないか。そんな思いが頭を過るのは、もう何度目か。

「……それでも」
 ――俺は、お前も諦められない。
 人間の身体を取り戻すことも、一人の少女と共にいることも。どちらへの想いも、断ち切れない。捨てられない。あさましくも、どちらにも手を伸ばしている自分がいる。
 すうすうと寝息を立てているアメリア頬に、俺はそっと手を触れた。人肌のぬくもりが、冷たい岩の手にも伝わってくるのが分かる。
「情けないな。俺は……」
 苦笑して、その手を滑らせ彼女の髪を撫でた。ゆるゆると髪を撫で続ける。その行為に、自分の心が徐々に凪いでいくのが分かる。――ずいぶんと俺は、このお姫様に依存しているようだ。

 そのとき、アメリアはふと眠ったままその唇を緩ませた。
「んふ……ゼルガディス、さん……すう」
「……」
 そのいつもよりも柔らかな声が、静かな部屋にふわりとこだまして、それから直ぐに消えた。何か良い夢でも見ているのだろうか。嬉しそうにすら見えるその寝顔に、俺は悩んでいたことも脇に置いて笑ってしまう。
 彼女の『正義』と、いつか俺が対立する日が来るかもしれない。決別の日が、やってくるかもしれない。
 ――でも。
「今はまだ……このまま。許してくれ、アメリア……」
 彼女の額にそっと唇を落として、俺は窓を静かに閉めた。


終わり

はんぶんこ。(ガウリナ/現パロ)

2016-08-07 18:12:51 | スレイヤーズ二次創作
ぷらいべったーより再掲。
一つしかないパジャマをはんぶんこするガウリナが書きたくて。

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「おじゃましまーすっ!」
「あーあー、濡れたなこりゃー」
 ばーんと音を立てて部屋に入って、あたしとガウリイは顔を合わせて苦笑いした。ドアの外から、ざあざあと鳴り止まない雨の音が聞こえて来る。まさかこんな土砂降りになるなんて予想していなかった。――今朝の天気予報は一体なんだったってーのよ!

 久しぶりのデートだというのに、突然の雨で色々とご破算になってしまった。昼までは綺麗に晴れていたというのに、日が沈んだ途端にひどい雨である。
 慌てて、近くのガウリイの住むマンションに逃げ込んだのは良いのだが。
「……ああーおろしたての服があ~」
 あたしは濡れた頭を抱えて呻いた。気に入って買ったばかりのワンピースが、雨のせいでびしょ濡れである。幸い、泥などは跳ねていないようだが……。
「まあ、こんな雨じゃ仕方ないさ」
 肩を竦めて、ガウリイが苦笑した。そんな彼も、長い金髪が色濃くなるほど濡れていて、Tシャツも肌に張り付いている。ぽたぽたと、滴が零れて床に落ちる。
 先に玄関から部屋へと上がったガウリイが、ラックにかけてあったタオルをあたしに投げ渡した。
「せっかくだし、今日泊ってけよリナ」
 服、明日になんなきゃ乾かないだろ。そう言うガウリイには他意は無さそうで。
「……ん。そうさせてもらうわ」
 あたしは素直にその言葉に甘えることにした。



「……それで」
 あたしの地を這うような低い声に、ガウリイがきょとんとした顔で首を傾げる。
「うん?」
「なんで着るものがパジャマ一組しかないわけ……?」
 なぜか。この男の部屋には、今着られそうなものが綺麗さっぱりなかったのだった。……パジャマ一着以外。
 男の一人暮らしで、何がどうなったらそうなるわけ? あたしのジト目の追及に、ガウリイは笑って頭を掻く。 
「いやあ、すまんすまん。そういえば今朝一気に家着洗濯機に放りこんだの忘れてたんだよ。後はジャケットとかスーツみたいなのしかないし……」
「なんでそうなるのよ!?」
「ははは。オレにもわからん」
 この脳みそ増えるワカメ。あたしはがくりと肩を落とす。
 そもそも、一回の洗濯で着られるものがなくなるって、元々の普段着の数が少なすぎではないだろうか。同じ服何日も着てるわけ……?
 早急に、何か服を買いに行かなくてはなるまい。――次のデート先はユ○クロに決定!
 ……なんて事を考えていると、ガウリイは特に気にした風もなく、あたしにそれを押し付けた。……ガウリイのパジャマの上半分。淡いブルーで、柔らかいコットン素材のそれ。
 追記。めちゃくちゃでかい。
「まあ、今はこれで我慢してくれ。オレは下の方履くから。半分ずつ、な。」
「……」
 まあ、仕方がないのは分かるんだけどね。
 自分の今着ているワンピースを見降ろして、あたしは小さく溜め息をつく。さっきまでふわふわだったそれは、今は水気をたっぷり含んで、絞ればたぶん床に水溜りが出来る。
「風邪引くといけないから、シャワー浴びるだろ? それとも風呂沸かす?」
「……お風呂入りたい」
「りょーかい」
 納得がいかずに頬を膨らませてみせるあたしの頭を、ガウリイは笑ってわしゃわしゃと撫でた。その拍子に、水滴が跳ねる。
 ――ああ、犬になった気分。  



 やっぱり、ガウリイのパジャマはあたしには大きすぎた。
 上だけなのに、丈が長すぎてあたしの膝をすっぽり隠している。まるでシャツワンピースを着ているような。
 そして、パジャマの下だけ履いてくつろぐガウリイの、裸の上半身が目に入ってとてもやり辛い。
 ――うう……なんか凄いヤだ……。
 気恥ずかしいのも勿論あるが、ガウリイとの体格差を嫌でも思い知らされて、あたしとしてはちょっと複雑だった。なんというか、傍から見れば大人と子供みたいに見えそうで。
 そんなあたしの内心を知ってか知らずか、ガウリイは凄く普段通りだ。ベッドに座ってテレビを付けて、携帯を弄って。まるで余裕なその態度が、ちょっと腹立たしい。
 むっとして、あたしはそんなガウリイの背中に思いっきり寄りかかった。
「……リナ?」
 どうした? と言外に問うガウリイに、あたしはつんとして言い返す。
「べつになーんでもありませんよー」
 少しは照れるとか気恥ずかしいとか、そういう感情ないわけ? なんて、あたしは言えないのである。第一、くらげなこの男にそんな感情があるわけないか、と諦めの境地もあるわけで。
「リ、リナー?」
「……」
 ぐりぐりと頭でガウリイの背中を攻撃していると、不意に後ろの背中がいなくなった。――あっ、逃げた?
 気になって振り返ろうとしたあたしは、でもそれが出来なかった。
 後ろから両手が伸びてきて、あたしをホールドしたからである。
「……あ、え?」
 きょとんとして顔を上げると、至近距離でガウリイがあたしを見つめていた。
「……リナ。あんまり可愛いことされると、オレとしてもちょっと困るんだが……」
 困ったような、苦笑いの彼の顔が、少しだけ赤い。
「……、ええっと……その」
 背中越しに感じるガウリイの体温が、熱い。それは、彼が上半身裸なのもあるかもしれない。そんな事を考えて、あたしも動揺する。どくんどくんと鳴る心音はあたしのか、それとも彼のか。
「あーもう。せっかく頑張って平静を装ってたのに……リナのばか」
「ば、ばかって何よー!」
 強がって言い返してみるけれど、あんまり意味はないだろう。顔が真っ赤なのはあたしもで。
 お互い様だった。――ガウリイも、ほんとはちょっとドキドキしてた?
 そうだとしたら。……それは、すごく、嬉しいかもしんない。

「リナ、目瞑って?」
 至近距離でそう問われれば。
 あたしは、淡い期待を抱いてそっと目を閉じた。


終わり 

続きはこれから。(ガウリナ)

2016-08-07 18:07:04 | スレイヤーズ二次創作
ぷらいべったーより再掲。
キスシーンの練習に書いたもの。むっちゃ恥ずかしいですが、とりあえず…

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 はじめて、リナと長いキスをした。

 いつもは唇を合わせる短いキスをするだけで、リナはすぐに顔を真っ赤にしてオレから逃げ出す。
 慌てて何かしゃべりだしたり、照れ隠しにわざと怒ってみせたり。そうやって空気を替えてしまうのだ。
 そんな時、オレは苦笑してリナの頭を撫でる。
 それで、もうその場は終わりという合図。残念だと思わない事もないが、そういう時のリナの、ちょっとだけ申し訳なさそうな、でも安心したような顔にオレは何も言えない。
 ――リナは照れ屋だから。
 分かっている。ずっと保護者として隣に居たオレが、リナと今の関係に至るまでの過程を思えば、こんな問題は些細な事で。
 恥ずかしそうに目を閉じてオレの手を握る姿とか、短いキスをした後の、照れて顔を背けた真っ赤な横顔とか。そんなリナの可愛い所を独り占めしている、それだけでも幸せなのだ。

 でもやっぱり。
「我慢は体によくないよなー」
 ばあちゃんもよくそう言っていた。……たぶん。
「……なにが?」
 きょとんとした顔のリナに笑いかける。そして、そっとリナの頬に手を触れた。



「!」
 慌てたように目を丸くして、でもリナは何も言わずにぎゅっと目を閉じた。その顔が真っ赤で、可愛いな、と思う。
 ふ、と唇が近づいて互いの吐息が感じられると、リナは閉じた瞼を震わせた。
 そのままそっとキスをする。ちゅ、と軽く唇を合わせて、すぐに離れた。
 それで終わりかと思ったのか、目を開けたリナに至近距離で笑いかける。まだこんなに近くにオレが居る事に驚いたのか、リナは元々大きな瞳をさらに大きくした。
「ガウ、リ……?」
「リナ」
 名前を呼んで、もう一度唇を合わせた。

 触れるだけの短いキスを何度も繰り返して。なにかいつもと違うと思ったのか、離れようとするリナを逃がさないように後頭部にも手を添える。
「ん、んん…!? ちょ、ちょっとガウリイ?」
 抗議の声が上がる。でもいまは聞いてやらない。
 もう一度、唇を合わせて。今度はリナの小さくて柔らかい唇を、自分の唇でそっとはんだ。
「!?」
 柔らかい唇が、ぷるりと震える。これはリナが震えているからだろう。ほとんどゼロ距離で目を合わせると、リナは目を回しそうな程に混乱していた。
 普段なら、こんなリナを見たら「大丈夫か」とすぐに心配してしまう自分がいるのに。今日はそれが出来ない。
 オレはもう、自分で自分を止められなかった。

「……んんう」
 泣きそうな声を上げるリナの、合わせた唇をちろりと舐める。驚いたのか、小さく開いたその唇の中にオレは舌を挿し込んだ。
「!」
 びくり、とリナが震える。腰が引けるリナを、でも今日は逃がしてやる気は無い。頬に添えていた手を、彼女の背中に回して更に自分に引き寄せた。
 歯列をなぞり、上顎を舐め上げて、それから。リナの口の中で縮こまった、小さなピンク色の舌と自分のとを触れ合わせる。その蕩けるような感覚。 
「んふっ……あ」
「……は、」
 びりびりと頭の中が甘く痺れていく。
 長いキスなんて初めてではなかったが、その相手がリナだと全然違う。オレから逃げ回るリナの舌は、でも簡単に捕まえられて、絡んでは離れる。唾液が甘い。
 その感覚に夢中になっていたら、リナが不意にオレの腕をぎゅっと掴んだ。
「んん、んーっ!」
「……は、」
 どうしたのかと唇を離せば、涙目のリナがオレを睨んでいた。はあはあと荒い息を吐いている。
「が、ガウリイ…! ばか、息できな……は、はあ」
「あー、すまん。こーいう時は、呼吸は鼻でするんだぞ?」
「……っ」
 赤い顔のままで黙ったリナに、もう一度顔を近づければ、リナは困ったように左右に視線を彷徨わせ、それからまたぎゅっと目を閉じた。
 どうやら逃げないでくれるらしい。凄く、嬉しい。
「……リナ」
 もっかい。囁くようにそう言えば、リナは目を閉じたままオレの服の裾をぎゅっと握った。 



 最初はオレのなすがままにされていたリナも、そのうちおずおずとオレの動きを真似て、舌を自分で動かすようになった。
 絡まるそれの感触。くちゅ、と耳の奥で響く音。
「ん、ん……はっ、ん」
「……はっ」
 まだ息継ぎが上手くできないリナの、荒い息にまぎれて漏れる声を耳にするたび、腹の奥がじわりと熱くなる。
 ――ああ、だめだ。これ以上は、色々とまずい……。
 オレの頭の中で、もう一人のオレの声がした。たぶん理性の声だろう。
 だけれども、そんな声が耳に入らないくらい、オレは夢中になっている。
「ンン、は……んむっ」
 鼻に抜けるリナの高い声が、オレの頭の中をぐちゃぐちゃに掻きまわしてしまうのだ。

「……、んっ。は、ガウリイっ!」
 何度目かの息継ぎの時、リナがオレの名前を呼んだ。
 それに気付いてようやく顔を離すと、互いの唇をきらりと光る銀糸が繋いだ。どちらのものとも言えない、飲みこみきれなかったのだろう唾液が、口端から零れてリナの顎を伝っている。
 そのなんとも刺激の強い光景をぼうっと見つめていると、リナは唇を自分の腕で拭ってしまった。その拍子にぷつりと切れる銀糸。
 ――ああ、惜しいなあ。
 少し残念に思いながら、だけれども内心ちょっとだけほっとした。
 オレとしても、ここでこれ以上先に進むつもりはなかったし。そして、その気がなくても引きずりこまれてしまいそうな程に気持ちの良いキスが、ちょっと怖かった。

「……リナ、どした?」
「……」
 努めて落ちついた声を出したオレに、リナは何も答えない。黙ったままのリナは、じっとオレを見上げていた。
 そのとろんと潤んだ瞳を覗き込んでいると、知らず心拍数が上がる。
 ――落ちつけ。オレ、落ちつけ。いつもの通りに……!
「……ガウリイ?」
 何かを窺うように、リナが低くオレの名前を呼ぶ。その意味が分からずに、オレはきょとんとして首を傾げてみせる。
「んん? どうした? ――腹でも減ったか?」
 その瞬間、リナは自分の手で顔を覆った。
「……はああーーーーっ」 
 聞こえる程に大きな溜め息をついたリナは、そのままオレに向かってくたりと倒れ込んで来る。
「リナ?」
「……も、無理。死んじゃうかと思った。ばか。ガウリイのばか」
 オレの胸に顔をうずめたまま、リナが小さく呻く。その台詞と弱々しい声に、オレは苦笑した。リナの栗色の髪の間から、真っ赤になった耳がちらりと見える。
「はは、ごめんなリナ。……でも、気持ちよかったろ?」
「……ノーコメント」
 笑って頭を撫でてやると、リナは何も言わずにオレの胸をぐりぐり頭で押してくる。その仕草が少し子供っぽくて、でもとても可愛らしい。
 宿屋の狭い部屋に、いつもの空気が戻ってくる。その空気に安心している自分が居る。
「……はあ」
 思わず、オレも小さく溜め息をついてしまっていた。
 結局、先に進めないのは自分の意気地が無いからかもしれない。それに気付いてしまった。
「――なによ、その溜め息は」
 顔を上げたリナが、ジト目でオレを睨む。
「いや、オレも腹減ったな、って」
 ごまかすように適当な事を言えば、リナはがくりと肩を落とす。
「脳みそ温泉卵……」
「……それはひどくないか」

 なんだかんだ、やっぱり先は遠そうだ。

    
おしまい。