ぷらいべったーより再掲。
ワンライ参加作品です。お題「怒る」
ガウリイが怒ると言ったら盗賊いぢめからのお説教コンボですよね!
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「……リナ」
びくり、と肩が跳ねた。聴き慣れた相棒の声。呼ばれ慣れた名前。
――なのに。
あたしは今、振り向くのが怖い。
確かに。あたしはちょっと、軽率だったかもしれない。
昨夜、宿の食堂で耳に挟んだ盗賊団の噂。絶好のカモ。……最近路銀も少なくなってきたし。こんな寂れた村に出る盗賊なら、きっと大したことはない。
そんな根拠の無い自信から、あたしはガウリイの打った釘を無視した。
そして。今の有様といえば。
あたしは危うく両手足を縛られて、猿ぐつわまで噛まされる所だった。……あ、ちょっと今あんまり遠くない昔を思い出してしまった。
――いやいやだってまさか。こんな肝心な時に「あの日」が来るなんて。よりにもよって頭目めがけて火炎球の一発でもかましてやろうという時に。
「リナ」
それをすんでの所で助けてくれた自称保護者ガウリイ君は、絶対怒っているに違いなかった。あたしを取り囲んでいた賊達を、次々に斬り伏せて。次いであたしを縛る縄も切って。
それでもあたしはそのまま動けない。身体が痺れて動かないのだ。
「……おいリナ」
だって声が凄く低い。いつもよりワントーンくらい低い。それにちょっぴりドスが効いている。たぶん絶対怒っている。めちゃめちゃ怒っている。……うう、怖いよう。
「リナ!」
「ひゃいっ」
鋭い声に、思わず小さく飛び上がった。恐る恐る振り向けば、そこには仁王立ちする自称保護者。その顔は……想像よりは柔らかかった。
「なんだ、動けるんじゃないか」
言って、溜め息一つ。そして彼はあたしの腕を引いて立ち上がらせる。その拍子に、あたしの太ももあたりにぴりりと軽い痛みが走った。どうやら切ったか擦りむいたかしたらしい。
「痛っ……」
思わず声を漏らして顔を顰める。それを見て、ガウリイも同じように顔を歪めた。
「どっか怪我してるのか?」
「いや、ちょっと擦りむいただけよ。大丈夫――」
治癒の呪文ですぐに治る。思わずそう続けようとして、あたしは口をつぐんだ。――今、魔法使えないんだった……。
「……」
そんなあたしを見つめる、ガウリイの目。その青い目が、静かに怒っていた。
あたしは、彼のそんな目に弱い。怒鳴りつけられるよりも、泣き付かれるよりも、その目でじっと見つめられるだけで、あたしは降参してしまうのだ。
申し訳なさで、どうしようもなくなって。
「……ごめん」
「分かってるなら、良い」
ぶっきらぼうに返された言葉。あたしは俯いて彼の隣を歩きだした。
――分かっている。あたしが悪い。彼はあたしを心配して怒っている。
ああ、でも。だけど。
普段穏やかに笑う相棒の、怒った顔と冷たい声を向けられるのは。……きっついなあ。
――……ごめんなさい。
黙ったまま、あたしは胸の内でもう一度そう呟いた。足の痛みよりも、ずっと胸がずきずきと痛い。
「……はああ」
そのとき、隣でガウリイがさっきよりも大きく溜め息をついた。どきっとして思わず足を止める。そんなあたしの頭の上から降ってきたのは、覚悟していたお小言でも説教でもなく。
くしゃり。
軽い音、そして掌の温かさ。いつもみたいに、ガウリイはあたしの頭をくしゃりとかき混ぜた。
「――でも、無事で良かった。リナ」
その声が、さっきよりもずっと優しかった。不意に鼻の奥がつんとして、少し動揺する。
「……ん、ごめん。ありがと」
もっとしっかりした声を出すつもりだったのに。口から出た声は、思った以上に弱々しく響いた。
「ん。……どーいたしまして」
俯いたままのあたしにも、今ガウリイがどんな顔をしているのか、なんとなく分かる。
きっと、困ったような顔で笑っているのだ。
終わり
ワンライ参加作品です。お題「怒る」
ガウリイが怒ると言ったら盗賊いぢめからのお説教コンボですよね!
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「……リナ」
びくり、と肩が跳ねた。聴き慣れた相棒の声。呼ばれ慣れた名前。
――なのに。
あたしは今、振り向くのが怖い。
確かに。あたしはちょっと、軽率だったかもしれない。
昨夜、宿の食堂で耳に挟んだ盗賊団の噂。絶好のカモ。……最近路銀も少なくなってきたし。こんな寂れた村に出る盗賊なら、きっと大したことはない。
そんな根拠の無い自信から、あたしはガウリイの打った釘を無視した。
そして。今の有様といえば。
あたしは危うく両手足を縛られて、猿ぐつわまで噛まされる所だった。……あ、ちょっと今あんまり遠くない昔を思い出してしまった。
――いやいやだってまさか。こんな肝心な時に「あの日」が来るなんて。よりにもよって頭目めがけて火炎球の一発でもかましてやろうという時に。
「リナ」
それをすんでの所で助けてくれた自称保護者ガウリイ君は、絶対怒っているに違いなかった。あたしを取り囲んでいた賊達を、次々に斬り伏せて。次いであたしを縛る縄も切って。
それでもあたしはそのまま動けない。身体が痺れて動かないのだ。
「……おいリナ」
だって声が凄く低い。いつもよりワントーンくらい低い。それにちょっぴりドスが効いている。たぶん絶対怒っている。めちゃめちゃ怒っている。……うう、怖いよう。
「リナ!」
「ひゃいっ」
鋭い声に、思わず小さく飛び上がった。恐る恐る振り向けば、そこには仁王立ちする自称保護者。その顔は……想像よりは柔らかかった。
「なんだ、動けるんじゃないか」
言って、溜め息一つ。そして彼はあたしの腕を引いて立ち上がらせる。その拍子に、あたしの太ももあたりにぴりりと軽い痛みが走った。どうやら切ったか擦りむいたかしたらしい。
「痛っ……」
思わず声を漏らして顔を顰める。それを見て、ガウリイも同じように顔を歪めた。
「どっか怪我してるのか?」
「いや、ちょっと擦りむいただけよ。大丈夫――」
治癒の呪文ですぐに治る。思わずそう続けようとして、あたしは口をつぐんだ。――今、魔法使えないんだった……。
「……」
そんなあたしを見つめる、ガウリイの目。その青い目が、静かに怒っていた。
あたしは、彼のそんな目に弱い。怒鳴りつけられるよりも、泣き付かれるよりも、その目でじっと見つめられるだけで、あたしは降参してしまうのだ。
申し訳なさで、どうしようもなくなって。
「……ごめん」
「分かってるなら、良い」
ぶっきらぼうに返された言葉。あたしは俯いて彼の隣を歩きだした。
――分かっている。あたしが悪い。彼はあたしを心配して怒っている。
ああ、でも。だけど。
普段穏やかに笑う相棒の、怒った顔と冷たい声を向けられるのは。……きっついなあ。
――……ごめんなさい。
黙ったまま、あたしは胸の内でもう一度そう呟いた。足の痛みよりも、ずっと胸がずきずきと痛い。
「……はああ」
そのとき、隣でガウリイがさっきよりも大きく溜め息をついた。どきっとして思わず足を止める。そんなあたしの頭の上から降ってきたのは、覚悟していたお小言でも説教でもなく。
くしゃり。
軽い音、そして掌の温かさ。いつもみたいに、ガウリイはあたしの頭をくしゃりとかき混ぜた。
「――でも、無事で良かった。リナ」
その声が、さっきよりもずっと優しかった。不意に鼻の奥がつんとして、少し動揺する。
「……ん、ごめん。ありがと」
もっとしっかりした声を出すつもりだったのに。口から出た声は、思った以上に弱々しく響いた。
「ん。……どーいたしまして」
俯いたままのあたしにも、今ガウリイがどんな顔をしているのか、なんとなく分かる。
きっと、困ったような顔で笑っているのだ。
終わり