不埒な天国 ~Il paradiso irragionevole

道理だけでは進めない世界で、じたばたした生き様を晒すのも一興

Gli scippatori

2004-08-08 12:15:05 | 日記・エッセイ・コラム
土曜日、友人宅での夕食に招かれていて
約束の時間ギリギリになってしまったので
駅前からバスに乗り
バスが動き出したところで友人に電話。
「あと10分くらいで着きます。」

バスは駅前を出てドゥオーモを越えて
通常通り、なんの異常もなく運行。
ドゥオーモの裏手を抜けてすぐの停留所。
停留所に着いたので、
前後と中央の全ての扉が開かれたその瞬間に
バス後部座席のほうからイタリア人男性の叫び声。
 おじさん「ドアを開けないでくれ。閉めてくれ。」
何度も同じことを繰り返し叫ぶおじさん。

ナニゴト?

運転手はとりあえず後ろの扉を閉めましたが
中央の降車専用(一応)扉は開いたまま。
その開いた扉から二人の男性がそそくさと降りて行った。
 おじさん「ドアを閉めろ、スリだ。スリ。」
叫ぶおじさんの手は一人の若い男性を捕まえている。

どうやらバスに乗りこんでいたスリ団は男性三人組。
日焼けした肌からは国籍は分からないけれど、
話すイタリア語のアクセントから
アラブ系の人だろうかと推測。
開いている中央の扉に
先に降りていった二人のうち一人が戻ってきた。

 おじさん「そいつもグルだ。スリだ。」
 男A「そいつはなにも持っていない。離せよ。」
 おじさん「もう一人はどこだ。」
 男A「とにかくそいつを離せ。
   そいつはなにももってないぜ。」
 おじさん「誰か警察に通報してくれ。スリだ。」
 男A「盗った奴はもうとっくに逃げたんだ。
   そいつを離せよ。」

こんなやりとりが続くので
様子をみていたのだけれど誰も通報している気配がないので
私は自分の携帯電話を取り出してとりあえず通報。
まぁ、警察の対応は暢気なモノだったし、
なんとなく外国人の私が(しかも当事者でない)通報しても
信じてもらえていない気がした。
さてどうしようかなと思っているときに
捕まえられていた男が手を振り切って逃げ出した。
中央扉から飛び出した男を追いかけて
二人の男性が一緒に飛び降りていって体当たり。
ちょうど扉の前にあったエノテカの店外メニューに激突して
メニューが入っていた額のガラスが割れ当たりに散乱。
それでも先ほど捕まえていたおじさんは
逃走を試みた若者の足下にしがみつき再捕獲。

この時点でエノテカは
店の備品破損という被害を被っているので、速攻通報。

そのころバスの中では
みんな自分のお財布が無事かどうかをチェックし
そのバスがしばらくは出発できそうにないことを悟ると
降りて歩き出す人も出てきた。
私も友人との約束があるので、
いつまでもそこにいるわけにもいかず
席を立って降りようとしたら、近くにいた別の男性が
「君がたぶん第一通報者だろう。
ここにいて証言しなくちゃだめじゃないか。」と。

いやいや。

私は確かに通報したけれど、
第一通報者かどうかはわからないし
当事者である盗まれた本人と
盗んだ一団の一人がそこにいるのだから
とくに証言は必要ないだろうし、
今エノテカの人も通報しているみたいだったし
証言するならバスの運転手でいいじゃないの、と言って
バスを降り、バスの前方に向かっていって
そのバスの運転手を探すと、
ちょうど彼自身が携帯電話で通報しているところだった。
電話が終わるのを待って
そのバスはしばらく出発しないのか確認すると
警察が来て事情徴集するまでは動かないと言うので
私は歩いて友人宅に向かった。
10分では辿り着きそうにありません…。

先に逃走した二人も含め
全員逃げようとしているのだから、
なにか後ろめたいものがあったんだろうし
やっぱりスリの一味だったのだろうけど。

私も何度かスリの被害に遭いそうになり
そのうちの何回かは犯人を捕まえて
警察に突き出したこともあったけれど
それを友人に話したら
「被害はなかったんだろう?
それならそっとしておくべきだよ。
警察に突き出したりなんかして奴らの恨みを買ったら
モノを盗まれるどころじゃ済まなくなる。」
と諭されたことがあります。

確かにそういうことも考えられるけど
自分の鞄に触られた不快感はあるわけだし
正義感がどうこうではないけれど
なにか泣き寝入りみたいなやりかたは
やっぱり私は好きじゃないなぁ。

体を張って一団の一人を取り押さえていたおじさんは
あのあとどうしたのだろう。
ちゃんと警察は出動してきたのかしら?