ロッキングチェアに揺られて

再発乳がんとともに、心穏やかに潔く、精一杯生きる

2013.6.13 「星1つ」より、「星3つ」

2013-06-13 19:51:22 | 日記
 4月から読売新聞の医療サイトyomiDr.に高野先生の連載が始まった。4月25日には、このブログで「がんとともに生きる方法」をご紹介したが、そこでいくつか挙げられたキーワードのうち、「イメージとセンセーショナリズム」についてどんなお話があるのか掲載されてからのお楽しみにしたい、と書いた。

 まさに先週あたりからその論点になっている。先週は「情報の波を乗りこなすコツ」ということで、センセーショナリズムに惑わされず、情報の波をうまく乗りこなすための4つのコツ-(1)情報の根拠を読み取る、(2)情報の送り手の意図を想像する、(3)強い言葉を使っている情報は疑う、(4)信頼できる「エビデンス」を知る-についてのお話だった。
 そして今週の記事、である。長文だが、以下転載させて頂く。

※  ※  ※(転載開始)

【がんと向き合う~腫瘍内科医・高野利実の診察室 エビデンスの格付け】

 情報の波にうまく乗るために、「エビデンスに基づく医療(EBM)」の考え方が役に立つという説明をしてきました。

「エビデンス」というのは、
 ・「臨床研究の結果」のことで、
 ・「意思決定の根拠となるもの」であり、
 ・「その信頼度の基準が決まっているもの」です。

 レストランを、「星なし」「1つ星」「2つ星」「3つ星」という星の数で格付けするガイドブック(ミシュランガイド)は有名ですが、エビデンスにも、格付けがあります。ミシュランガイドの判定基準はベールに包まれていますが、エビデンスの判定基準は明快で、覆面調査員ではなくとも、誰でも判定できます。

3つ星エビデンスとは
 3つ星エビデンス:ランダム化比較試験
 2つ星エビデンス:ランダム化比較試験以外の臨床試験
 1つ星エビデンス:観察研究
 星なし:専門家の意見、動物実験、試験管実験など

 実際の格付け(エビデンスレベル)は、もう少し細かく決められているのですが、ここでは、ある程度簡略化していることをご容赦ください。

 「専門家の意見」や「動物実験・試験管実験」は、エビデンスとしては、「星なし」です。どんなに権威のある教授の意見であっても、どんなに素晴らしい理論であっても、ノーベル賞級の研究であっても、臨床研究の結果が伴っていなければ、実際の医療には当てはめられないということです。
 臨床研究というのは、実際の患者さんを対象とした研究のことで、患者さんに治療などの介入を行って、その結果を調べる「臨床試験」と、すでに行われた治療の結果などを観察する「観察研究」があります。

 「私の患者さんがこんな経過をたどりました!」「○○療法がよく効いた患者さんを知っています!」
 こういった報告は、「症例報告」と呼ばれ、臨床研究の一つの形ではありますが、「1つ星エビデンス」である「観察研究」の中でも、信頼度の低いエビデンスと認識されています。

標準治療は3つ星
 信頼度が高いのは、きちんと「研究実施計画書」に基づいて治療と解析がなされた「臨床試験」で、中でも、「ランダム化比較試験」は、信頼度の高い「3つ星エビデンス」です。
 ランダム化比較試験では、試験に参加した患者さんを、「くじ引き」で、AとBの2つのグループに分けます。このグループ分けは、患者本人の意思や、担当医の意思とは関係なく、あくまでも、「ランダム(無作為)に」行われます。
 「グループA」に入った患者さんには「治療A」が、「グループB」に入った患者さんには「治療B」が行われ、2つのグループの治療成績を比較することで、治療Aと治療Bの優劣が判断されます。
 「くじ引き」と聞くと、エッと思うかもしれませんが、どちらがよいのかわからない2つの治療法があるとき、「ランダム化比較試験」で比較するのが、その優劣を判断する最も信頼度の高い方法だと考えられています。
 現在、標準治療として確立している数多くの治療法も、国の承認を得て医療現場で使われている医薬品も、そのほとんどが、「ランダム化比較試験」による評価を受け、有効性と安全性が確認されています。
 逆に言えば、「3つ星エビデンス」がなければ、標準治療にはならず、新薬として承認されることもないということです。

マスメディア情報は主に「星なし」
 この事実を考えれば、「3つ星エビデンス」にもっと関心が高まってもいいと思うのですが、マスメディアが主に取り上げるのは、「星なし」の「専門家の意見」や「動物実験・試験管実験」であったり、「1つ星エビデンス」の「症例報告」であったりします。
 「3つ星エビデンス」どころか、怪しい「1つ星エビデンス」があるかどうかというような治療法が、テレビの特集番組で大々的に取り上げられているのを見るにつけ、私は、悲しい気持ちになります。
 このような番組は、巧みな宣伝文句で客を集め、まずくて高い料理を出して、ただ売り上げを伸ばそうとするレストランのようなものです。そんなレストランであれば、やがて客足は鈍っていくのでしょうが、実際の料理と違って、医療情報だと「味」がわかりにくいので、マスメディアは、そのレベルを見極められない視聴者を煽ることで、視聴率を稼ぎ続けています。
 レストランでまずい料理を食べるくらいならそんなに害はないでしょうが、医療においてレベルの低い情報を信じてしまうのは、患者さんにとって有害です。視聴者は、もっと、情報の信頼度(星の数)に敏感になるべきだと思います。
 ミシュランガイドを参考にレストランを選ぶように、EBMの考え方に基づいて、情報の信頼度を見極めてみませんか?
 ミシュランガイドが広まって、レストランの質が上がったと言われているように、EBMの考え方が広まれば、マスメディアの流す情報の質も上がるはずです。
 3つ星レストランは、気軽に行けるようなところではありませんが、3つ星エビデンスは、すべての人の手の届くところにあります。次回は、そんな3つ星エビデンスの実例を紹介したいと思います。
 それではまた、3つ星レストラン、ではなく、3つ星エビデンスで、じっくりと語り合いましょう。(2013年6月13日 読売新聞)

(転載終了)※  ※  ※

 要はマスメディアに踊らされない、ということだ。辛い治療や厳しい現実と向き合い続けることで気持ちが弱くなっている患者に対して、強い言葉でセンセーショナルに煽るものにろくなものはない、と思う。藁をも掴もうとしている患者に、藁でしかないものをあたかも大きな救命ボートのように見せかけて与えた挙句、実際に溺れさせてしまうのは、あまりではないか。

 だいたい、標準治療(この言葉が良いかどうかはまた別の問題である。言うまでもないが、標準治療は “並の”治療という意味ではない。ランダム化比較試験に基づいた治療が、無作為のくじ引きによる、と訳されているのもどうにも印象が良くないように思うが、いずれにせよ、もう少し実態にフィットする名前が付けられていれば良かったのかもしれない。)だけでも相当な医療費を負担している筈なのに、さらに、藁でしかないものに大枚をはたくことの出来る患者がそう数多くいるとは思えない。が、逆にそういう藁のようなものは高額な方が良く売れる(安いと霊験あらたかではないのか?)というのだから、これはもう皮肉以外の何物でもない。

 先生が書かれている通り、レストランでまずい料理を食べるのは確かに嬉しいことではないけれど、二度と行かなければそれで済む話だ。けれど、医療的にレベルの低い情報に踊らされて無駄に大枚をはたき、かつ取り戻せない大事な時間を使い、気付いた時には取り返しがつかない事態になったとしたら、泣くに泣けない。

 そんなわけで、私は、今のところそうした症例報告に過ぎないようなマスコミ情報には強い意志をもって「見ない、聞かない、接しない」を通している。それが結果的に、心穏やかに治療を続けることにつながるのではないかと思う。ミシュランではないけれど、「星なし」やら「星1つ」よりも「星3つ」のエビデンスに基づいた治療を受けるのがいいに決まっている。
 親切心から「こういうものが良いと聞いたから」と教えてくださったり、勧めてくださったりする方たちには本当に申し訳ないけれど、“気遣ってくださる”“気にかけてくださっている”というそのお気持ちを有難く頂戴することにしている。

 梅雨らしいお天気が続いている。それでなくても霧雨は濡れるし、風が強く横殴りの雨は傘をさしてみてもびしょ濡れだ。万国旗のように部屋干しした洗濯ものも、すっきりとは乾かない。降らなければ降らないで水不足と作物への影響を心配し、こうして降れば降るで文句を言い・・・、何事につけ過不足なく、はなかなか難しい。困ったものである。

 雨に濡れた紫陽花の花は、色味を変えながら、いよいよ美しい。なぜか夕方の会議の最中に急に胃が痛み出し、予約していた夜のヨガのクラスもパスを余儀なくされてヘロヘロで帰宅した。

 あと1日、頑張りすぎずに頑張らなくては・・・。


コメント
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