電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

宮城谷昌光『天空の舟~小説・伊尹伝』下巻を読む

2010年07月01日 06時05分23秒 | -宮城谷昌光
文春文庫で、宮城谷昌光著『天空の舟~小説・伊尹伝』下巻を読みました。
野に隠棲する主人公の摯(シ)に、商の湯王は三度使者を遣わして不首尾となり、今度は三度出向いてようやく首尾を得ます。それには摯のほうで条件があり、商が夏と和し、入朝すること、内政に重点をおき、民の疲弊を癒すこと、などを認めることが必要でした。摯は自ら夏への入朝の使者として立ちます。夏王朝は、かつての盟友である昆吾と対立していました。昆吾の窓口となった者は次々と悲劇的な最後を遂げます。暴君・桀王を支える劣悪な家臣たちは、昆吾と商を争わせ、共倒れにさせることで夏王朝の安定化を図ろうとします。商王・湯が凱旋して民衆の歓呼の声を受けているころ、摯は夏王の命により、南方に象牙の収集に追いやられ、湯王は捕えられて夏台に幽閉されます。

しかし、多量の象牙の贈り物が効力を発揮し、夏台の扉は開き、湯王は釈放されます。ここから、夏を倒し、商が王朝を開く戦いが始まったのでした。

風采のあがらない、目立たない摯が、伊尹として活躍する様子は、洞察力と判断力に優れていただけでなく、情報網を重視していたことを想像させます。料理人から宰相へ。なかなか面白い物語ですが、商の宗教的性格が、後の太公望による商周革命につながると思えば、一面的な評価はできないのかもしれませんが、サクランボ収穫の合間に、じっくりと読んだ古代中国の物語は、なかなか重厚な味わいのある作品でした。

(*):宮城谷昌光『天空の舟~小説・伊尹伝』上巻を読む~「電網郊外散歩道」
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