電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

サクランボの品種について~我が家の栽培小史

2010年07月07日 06時06分57秒 | 週末農業・定年農業
例年よりも一週間から十日も遅れたサクランボの収穫が、今年はまだ続いているようです。我が家では、すでに収穫も出荷も完了しておりますが、あまりに青くて収穫し残した実が、今ごろちょうど良い塩梅になっておりましたので、裏の畑の分を少し集めてみました。ちょうど良い機会ですので、我が家のサクランボの品種について、少し整理してみましょう。

まず、早生種として「紅さやか」「ジャボレー」などがあります。こちらが「紅さやか」です。


そして、こちらが「ジャボレー」。熟すと黒くなるのが特徴です。


いずれも、味の方はいまひとつだと思いますが、収穫時期が主として六月上旬ですので、サクランボの季節の到来を告げる品種だ、ということになります。

続いて、六月中旬~下旬の主力品種が「佐藤錦」です。これは、山形県東根市の佐藤栄助さんが開発した品種で、ナポレオンと黄玉をかけあわせてできた種子を選抜し、さらに選抜を重ねてできたものだそうです。得られたサクランボ(佐藤錦)は、台木に接ぎ木をして増やし、育てます。佐藤栄助さんの盟友の岡田東作さんがこの優良品種の普及に努力し、現在の山形サクランボの基礎が築かれました。



佐藤錦の味は、甘味と酸味が絶妙にバランスし、とにかく美味しい。サクランボと言えば佐藤錦と、今ではすっかりサクランボの代名詞となりました。

佐藤錦の後に続くのが「ナポレオン」と「紅秀峰(べにしゅうほう)」です。ナポレオンは、昔から普及している晩生種で、我が家では老母が嫁入りしたとき、すでに老木が五本ほど植えてあったそうな。農協の前身にあたる組合を創設した祖父の代あたりに植えたのでしょうから、たぶん大正時代からでしょうか。
ナポレオンの収穫期は六月下旬から七月上旬、梅雨期と重なり、すぐに実割れを生じてしまいます。酸味が強く、味は佐藤錦に負けますが、大粒で身がしまり、果皮が厚いために傷みにくく、加工用に出荷されます。我が家では他花受粉するための花粉樹として植えており、佐藤錦と混植することで受粉率を高めています。この写真は、まだ六月中旬の佐藤錦の頃ですので、まだ赤くなっておりません。


紅秀峰は、七月上旬から出荷される晩生種の優良品種で、大粒で身がしまり、糖度が高く食味も美味しいために、我が家では佐藤錦以上に人気があるほどです。ただし、多産系なので、大粒の実を育てるには数を間引くなど人手を要するために、兼業週末農家向きではありません。我が家では、もっぱら自家用と親戚知人用に数本だけ植えております。



昭和30年代には、物資の輸送は貨車が中心でした。したがって、果皮が薄く傷みやすい佐藤錦は出荷できず、地域内の生食用にまわり、もっぱらナポレオンが出荷されておりました。ところが、時代を先読みする人はいるもので、ある篤農家が米国農業の視察に行き、モータリゼーションの到来を確信して帰国します。「やがて生食出荷の時代が来る」と力説するその人の予測の言葉に、亡父は近隣の農家の方針とは逆に、佐藤錦を主にナポレオンを従に、苗木を植え付けたと聞きました。当時、「お前の家ではそんなに桜桃を食うのか」と笑われたそうです。実際、しばらくの間は、ナポレオン(加工)主体にしなかったことを悔やんだそうな。

ところが、やがて本当に自動車輸送が主となり、コンピュータ導入により宅配便による個別配送も可能となる時代が到来します。いわば、現在のサクランボ生食の習慣は、自動車輸送とコンピュータ管理の産物であるとも言えます。私が生まれた記念にと亡父が植えたサクランボの老木は、もはや一本だけ残るのみで、それも半分枯れて、半分だけが生きている状態です。なんとか生かしたいものだと考えているところですが、人や家にも歴史があるように、甘酸っぱいサクランボにも、こんな歴史があるのですね。
コメント (4)