電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

日本化学会編『日本の化学~100年のあゆみ』を読む

2014年09月02日 06時01分51秒 | -ノンフィクション
当ブログの「歴史技術科学」カテゴリーの記事のために、昔の本を少しずつ読み返し、記憶を確かめています。日本化学会編・井本稔著『日本の化学~100年のあゆみ』(化学同人、昭和53年4月刊)は、1979年6月21日に読了したと日付が入っていますので、35年ぶりの再読ということになります。たしか、関東某県にて就職していた時代に、日本化学会のルートで入手したのではなかったか。もしかしたら書店で一般販売もされていたのかもしれませんが、ベストセラーになるような性格のものでもありませんし、このへんの記憶は曖昧です。



本書の構成は、次のようになっています。

第1章:化学会の創立まで
第2章:明治の時代
第3章:大正時代から昭和初期へ
第4章:太平洋戦争の前後
第5章:この四半世紀の発展
第6章:今後の化学と化学工業

内容は、化学関係者だけでなく、科学史的にもたいへん興味深いものです。
たとえば第1章では、「1800年代の化学」の節に始まり、「日本の化学の系譜」「日本の化学工業」と続きます。19世紀、原子説と周期律表からリービッヒとヴェーラーが無機化合物と有機化合物の隔たりを埋め、ギーセン大学の化学実験室からブンゼンやケクレなどが出て炭素化合物の立体化学が始まります。ベンゼンの環状構造が提唱されてからは、人造染料と近代化学工業の時代となり、ノーベルによるダイナマイトの発明で、スエズ運河やアメリカ大陸横断鉄道、石油採掘など、世紀の建設の時代へと突入します。
このころの日本は、もちろん鎖国の時代でしたが、フランス革命を牽引したと言われるディドロの『百科全書』を翻訳していた蘭学者たちの中に、宇田川榕庵『舎密開宗』、川本幸民(*1)『兵家舎密真源』『化学初教』『化学新書』などが登場してきます。

こんな具合に、きわめて具体的かつ精密に、日本の化学百年が歴史の中に位置づけられて記述されています。岩波新書『プラスチックス』で著名な碩学で、文筆でも有名だった井本稔氏の執筆だけあって、内容は固いですが文章は読みやすいです。当面の必要からは第1章と第2章を読めば足りるのですが、掲載された各種資料・統計データも興味深く、おもしろく再読しました。

(*1):北康利『蘭学者川本幸民』を読む~「電網郊外散歩道」2008年9月

【追記】
この本は今でも入手できるのだろうかと思い、Amazon の古書の値段を見たら、6,000円近い値段がついていて驚きました。まさかそんなはずはなかろうと、古書専門業者のサイトを見たら、600円超くらいの値段になっており、それくらいならばまだ理解できるというものです。

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