電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

松井今朝子『老いの入り舞』を読む

2016年12月26日 06時02分59秒 | 読書
文春文庫で、松井今朝子著『老いの入り舞』を読みました。「老いの入り舞」とは、「年をとってから最後の一花を咲かせること」だそうで、高齢化時代を背景に中高年読者を想定して構想されたものかと思いますが、著者はどうやらほぼ同世代。帯に麗々しく書かれた「新米同心 vs 大奥出身の尼僧」「直木賞作家による江戸の新本格」などのコピーに目が止まり、読んでみた次第です。

第1話:「巳待ちの春」。主人公である間宮仁八郎は、江戸・北町奉行所の新米同心です。奉行の小田切土佐守直年の命により、麹町常楽庵を訪ねます。庵主は元大奥女中の志乃といい、嫁入り前の娘たちに行儀作法を教えています。若い仁八郎は、どうやら庵主の志乃に気に入られたらしいのですが、本人は憮然としています。常楽庵に通っている娘の一人が行方不明となりますが、沓脱ぎ石の土汚れをじっと観察していた志乃は、どうやら心当たりがありそう。
第2話:「怪火の始末」。麹町四丁目の袋物問屋、嘉村屋惣兵衛方で出火、三坪半の離れを焼いただけで消し止められますが、離れで一人寝ていた当主の惣兵衛が焼死し、娘のりつは付け火を主張します。火元と見られるのは押入れで、焼け跡にはアワビの貝殻が転がっていました。りつもまた、常楽庵に通っていた一人でした。
第3話:「母親気質」。常楽庵で志乃に仕える色黒で大柄なゆいは、仁八郎に「熊女」と呼ばれ、武芸のたしなみもあるために御用聞きの文六には恐れられていますが、本当はいたって気が弱く、臆病な気質です。ましてや偶然に見つけた死骸が子を孕んだ女で、通りかかった武士が罪人の首斬りと刀の試し斬りを代々担っている山田浅右衛門だったために、恐怖におののきます。ここでもまた常楽庵に出入りする娘の関わりで、確率的に言ってありえない重大事件発生率です(^o^)/
第4話:「老いの入舞い」。奥女中は武芸のたしなみもあるとはいえ、この大立ち回りはすごい! 軟弱男など吹き飛ばすほどの勢いで、ワタクシなぞはとても太刀打ちできないことでしょう。若い頃に武道を嗜んだ中高年女性なら思わず血沸き肉踊る興奮かも(^o^)/
でも、昔の大奥の人脈を利用するところなどは、さすがに老練というか経験というか、若い衆には真似のできない芸当です。



副題に「麹町常楽庵月並の記」とあります。どうやら、常楽庵という行儀見習いの場所に集まる若い娘たちやその関わりの人たちの中に、様々な人間模様を浮かび上がらせる手法の市井小説とみました。グランドホテル形式の時代小説としては、例えば平岩弓枝著『御宿かわせみ』のシリーズ(*1)がありますが、こちらもまた多分に共通性を感じさせる面があります。すぐ怒り出す間宮仁八郎は、東吾の役割を果たしているみたいです。

(*1):当方の「平岩弓枝」カテゴリーには、「御宿かわせみ」シリーズが含まれています。

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