電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

蒲生芳郎『藤沢周平「海坂藩」の原郷』を読む

2010年07月16日 06時09分00秒 | -藤沢周平
作家・藤沢周平の没後十年を機に、故郷の山形新聞社で連載した特集は、たいへん充実したもので、後に単行本としてまとめられました。当ブログでも、すでに記事(*)にしておりますが、このときの筆者陣の一人である蒲生芳郎氏の書き下ろしで、小学館文庫『藤沢周平「海坂藩」の原郷」と題した文庫があることを知りました。著者は、山形師範学校時代の同人雑誌の仲間であり、長く親交のあった友人であるというだけでなく、作家の身近でその半生を知る、深い読み手でもあります。さっそく購入し、先ごろ読み終えましたが、たいへんに充実した、藤沢ファンには必読の書の一つと思います。

本書は、次のような構成からなっています。

I 面影を偲ぶ
1. 藤沢さんの思い出~小菅君の頃から晩年まで
2. 二つの遺墨のあいだ~感性の原点とその回路
II 作品を読む
1. 暗い情念の淵から~初期作品を読む
2. <やさしさ>の泉のようなもの~<癒し>への道筋
3. 「転機の作物」前後~『用心棒日月抄』その他
4. 生活感という真実らしさ~『隠し剣』シリーズと『たそがれ清兵衛』
5. 市井小説の傑作・中年の恋の物語~『海鳴り』を読む
6. 練達の技法と底流する詩情と~『蝉しぐれ』を読む
7. 権力をめぐる光と影~『風の果て』を読む
8. 残照の風景ーその夕映えと陰翳と~『三屋清左衛門残日録』を読む
9. 歴史小説の系譜~『又蔵の火』から『市塵』『白き瓶』を読む
10.『漆の実のみのる国』という美しい幻~『漆の実のみのる国』を読む

著者の本領はどこにあるのかといえば、
(1) 師範学校時代の同人誌『砕氷船』に寄せた、作家の若き日の詩二篇を紹介しつつ、私信に触れながら創作の状況を垣間見せ、
(2) 結核発病により途絶えざるを得なかった愛の存在と再会の悲哀をも教えつつ、
(3) そういう作家の半生を身近に承知しながら読み込まれた作品の理解と紹介、
にあると言えましょう。ここで紹介された代表作を再読するとき、本筋のストーリーとはまた別に、様々なエピソードや表現に気づかされるところが多くあります。藤沢周平作品の入門というよりはむしろ、作家の人間性への理解を深めてくれる最良のガイドの一つというべきでしょう。

(*):『没後十年 藤沢周平読本』を読む~「電網郊外散歩道」2008年8月
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モーツァルト「幻想曲ニ短調K.397」を聴く

2010年07月15日 06時01分40秒 | -独奏曲
ここしばらく、通勤の音楽として、モーツァルトのピアノソナタ全集第5巻(マリア・ジョアオ・ピリス:Pf)を聴いております。ソナタのほうも、どこかピアノ教室のレッスンで何度も聞こえてくるような感じで、いかにも親しみやすいものですが、本CD(DENON COCO-70698)の掉尾を飾る「幻想曲ニ短調K.397」が、格別に印象深いものがあります。

CDに添付の解説によれば、この曲はモーツァルトが26歳の1782年に書かれたとされ(異説あり)、未完の曲として残されたものを、ライプツィヒのトーマス教会のカントルだったA.E.ミューラーが最後の10小節を補筆して完成させたものだ、とのこと。1782年といえば、ザルツブルグの大司教と衝突して解雇され、ウィーンに出て歌劇「後宮からの誘拐」を初演し、コンスタンツェと結婚した頃でしょうか。

曲はごく短いものですが、冒頭の低音の響きが、高音コロコロが大好きなモーツァルトとしては異色のものです。右手のチャーミングな旋律が続きますが、じきに音階は崩れ落ちるように下降していきます。ですが、嘆いてばかりもいられないとでもいうように、ごく自然に気分が変わって、明るく終わります。

この曲は、まるで深淵を覗き込むような、遅~い主観的な演奏も可能でしょうし、もともと陽気な若者の一時的な気分の落ち込みといった感じの演奏も可能でしょう。私は、どちらかといえば、あまりのめりこまない客観的なアプローチの方に、チャーミングな魅力を感じます。

■マリア・ジョアオ・ピリス盤 5'58"
■ロベール・カザドシュ盤 5'48"
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UbuntuLinuxにおけるUSBメモリの扱いとWindowsでのウィルス予防

2010年07月14日 06時02分36秒 | コンピュータ
Ubuntu Linux では、USB メモリを装着すると、/media/disk に自動的にマウントされます。したがって、

$ cd /media/disk

とすれば、USB メモリ上でファイル操作が可能になります。たとえば、今年の備忘録メモの中から、購入一覧を作りたいときには、

$ awk '$2~/購入/{print $1,$2}' memo-utf.txt

などのようにする、などです。

なお、スクリーンショット上にある autorun.inf というディレクトリ(フォルダ)は、ウィルスに感染しているのではなく、逆にウィルスによって不正な autorun.inf ファイルを作られ、感染するのを予防するためのものです。当方、Windows 機を使うときは、ウィルス感染防止のため、たいてい Shift キーを押しながら USB メモリを装着するようにしているのですが、たまに忘れて動作選択のポップアップ・ウィンドウが開いてしまう(この時点でウィルス感染する可能性あり)ことがありますので、予防のためにこんなふうにしています。
Linux だけを使っていれば、ウィルスの心配はほとんどないのですが、Windows 機を渡り歩くときには、ウィルスをまき散らすことは避けたいもので。

しかし、USB メモリを媒介としたウィルス、R.シューマンの悲劇のもととなった例の病気みたいな代物だなぁ(^o^;)>poripori
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夏の山形を音楽三昧で過ごすには

2010年07月13日 06時05分43秒 | クラシック音楽
夏は暑いものですが、暑さを嘆いてばかりでは脳が、いえ能がありません(^o^)/
ここは真夏の中に楽しみを見出すことといたしましょう。

当地山形では、「アフィニス夏の音楽祭2010」(*)が開催されることとなり、楽しみが増えました。7月下旬から8月にかけて予定されている音楽会を、リストアップしてみました。

■山響 第206回 定期演奏会
2010年7月17日(土)・18日(日)
17日(土)/午後7時開演  山形テルサホール
18日(日)/午後4時開演  山形テルサホール
音楽家たちの出会いと語らい
指揮:飯森範親、ピアノ:永田美穂
曲目
西村 朗:新作委嘱作品 2010
ラヴェル:ピアノ協奏曲 ト長調
シューマン:交響曲 第1番 変ロ長調 作品38 「春」

■山形弦楽四重奏団第36回定期演奏会
2010年7月26日(月) 18時45分開演 文翔館議場ホール
曲目:
バルトーク:弦楽四重奏曲第1番 Op.7, Sz40
ハイドン:弦楽四重奏曲ハ長調Op.74-1~アボニー四重奏曲~
モーツァルト:弦楽四重奏曲第11番変ホ長調K.171~ウィーン四重奏曲~

■山響 第207回 定期演奏会
2010年8月4日(水)午後7時開演 山形テルサホール
ゲーテ頌
指揮:黒岩英臣、合唱:山響アマデウスコア
曲目
ベートーヴェン:カンタータ「静かな海と楽しい航海」作品112
ブラームス:「運命の女神の歌」 作品89
ベートーヴェン:交響曲 第3番 変ホ長調「英雄」作品55

■アフィニス音楽祭・合同オーケストラ演奏会
8月21日(土) 山響&アフィニス祝祭管弦楽団山形公演
19時開演 山形県民会館
指揮:飯盛範親
曲目:
モーツァルト:セレナード第10番K.361「グラン・パルティータ」抜粋
R.シュトラウス:メタモルフォーゼン~23の独奏弦楽器のための習作~
R.シュトラウス:交響詩「英雄の生涯」Op.40

8月22日(日) 同・酒田公演
16時開演 酒田市民会館「希望ホール」
指揮:飯盛範親
曲目:
モーツァルト:セレナード第10番K.361「グラン・パルティータ」抜粋
ブリテン:シンプルシンフォニーOp.4
R.シュトラウス:交響詩「英雄の生涯」Op.40

■アフィニス音楽祭・室内楽演奏会(1)
8月23日(月) 19時開演 文翔館議場ホール
曲目:
シューマン:ピアノ五重奏曲変ホ長調Op.44
モーツァルト:弦楽五重奏曲第2番ハ短調K.406
プロコフィエフ:五重奏曲ト短調Op.39
ベートーヴェン:七重奏曲変ホ長調Op.20

■アフィニス音楽祭・室内楽演奏会(2)
8月24日(火) 19時開演 山形テルサ テルサホール
曲目:
モーツァルト:ピアノ四重奏曲第2番変ホ長調K.493
フランセ:9つの性格的小品
ボザ:ソナチネ
エワイゼン:コルチェスター・ファンタジー
メンデルスゾーン:弦楽八重奏曲変ホ長調Op.20



ほかにもたくさんあるようですが、とりあえず、今把握しているところです。さて、いくつ聴くことができるか、当方も記録に挑戦してみたいと思います(^o^)/
皆様も、もし可能ならば、夏休みを取って温泉に入りながら山形で音楽三昧というのも良いかもしれません。
いずれにしろ、夏を元気に乗りきりたいものです。

(*):アフィニス夏の音楽祭2010山形、8月17日(火)~26日(木)
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亡父の三回忌で初めて知った曾祖母のこと

2010年07月12日 06時04分29秒 | Weblog
昨日は、亡父の三回忌と祖母の十七回忌、それに曾祖母の百回忌でした。老母と妻は、この日のために器や料理を準備し、自宅にゆかりの親族を迎えました。住職さんは病気入院して退院したばかりとのことで、息子さんが読経してくれました。寺参りから戻り、一周忌同様に(*)自宅に長テーブルを並べて一席設けましたが、今回は住職のみ、二の膳つきの正式のお膳で。

亡父と祖母は、皆さん親しく交わった方々ばかりですが、百回忌の曾祖母といえば、直接に知る人はおりませんので、席亭の挨拶の中で、長女16歳を頭に13歳、10歳、7歳、3歳の四男一女を残して、30代半ばで病気早逝した母親であったことなどに、簡潔に触れました。祖父を頭に、残された四兄弟が集まる度に、亡き母を偲び「慈しみ深き友なるイエスは」の旋律で「母君に勝る友や世にある」という旧歌詞の賛美歌を歌っていたことは、孫(私)の記憶にも明瞭に残っております。今回は、16歳で母を喪ったその長女の嫁ぎ先の息子(80代)の方から、母方の祖母に関する初めての話を聞かせてもらいました。当時、村の収入役をしていた夫が(たぶん近隣の若者に)漢学を教えていたのだそうです。それが、事情があって夫が教えられない時には、奥さん(今回百回忌の仏様)が教えていたのだそうな。漢籍の素養もある女性であったようです。ふーむ。初耳でした。

そういえば、蔵の二階に「漢詩作法」だとか「論語」だとかの和書がずいぶんあり、祖父の蔵書のキリスト教関係の多さとは対照的でした。私の代の、理系の専門書やコンピュータ関係書籍にまじって、音楽書が目立つ書棚とはえらく違います。いささか道楽の色の濃い(^o^;)書棚を眺めながら、無名でも地に足を着けて生きた歴代の先祖に恥じない暮らしぶりを心がけたいと思ったことでした。

(*):父の一周忌~「電網郊外散歩道」2009年7月
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アホ猫のかくれんぼ

2010年07月11日 06時08分20秒 | アホ猫やんちゃ猫
早朝に、自室でパソコンの電源を入れていたら、ピアノのカバーの中で、なにやらモソモソ動いています。何だろうと近づいたら、頭隠して尻隠さず、アホ猫(娘)が涼んでいるのでした。飼い主の音楽好きが飼い猫にも伝わり、ピアノの上でモーツァルトのソナタを奏でている夢でも見ているのでしょうか、あるいは「猫踏んじゃった」でタンスをしているところでしょうか。



それとも、クルミの脳みそのアホ猫らしく、たんにひんやりして気持ちがいいからという理由だったりして(^o^)/

今日は、アホ猫をたいへん可愛がった亡父の三回忌です。参議院議員選挙の投票はもう済ませておりまして、家族・親族が集まり、寺参りと自宅で供養をする予定。少々長い一日になりそうです。
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歯科通院ようやく終わる

2010年07月10日 06時03分46秒 | 健康
サクランボの収穫時期に、歯が痛くて困っていました(*)が、知覚過敏となっている原因箇所が判明し、治療の後で金属冠をかぶせ直して、ようやくご飯を美味しく食べられるようになりました。ついでに、ここ数年分の保守点検をお願いしたところ、歯石をきれいに取ってもらい、すっきりしました。ベテランの歯科衛生士さんから、

虫歯はありません。歯磨きは、よく磨けています。上の前歯の裏側を、とくに丁寧に磨いてください。

と、褒められました。今日で今回の歯科通院はおしまいです。やっぱり、歯間ブラシも使ってきちんと磨いていると、歯も長持ちしそうです(^o^)/

ただいまの通勤の音楽は、モーツァルトのピアノソナタ全集から、第15番~第18番、それに幻想曲ニ短調K.397です。若い頃のマリア・ジョアオ・ピリスのピアノで。

(*):歯痛の原因箇所が判明する~「電網郊外散歩道」2010年6月
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んまぁ、失礼な!

2010年07月09日 06時02分38秒 | アホ猫やんちゃ猫
なに、この写真!あたしがせっかく涼んでいるのに、よりによって、大あくびをしたところを写真に撮るなんて、許せないわ!普段から、アホ猫、アホ猫って言ってるし、ブログとかにも書いているそうよ。失礼しちゃうわ!断固、抗議しなくっちゃ。



なにこれ!レディの寝姿を写真に撮っているんじゃない!許せないわ!人間が一番熟睡して眠い時間帯に、でっかいネズミでもつかまえてきて、起こしてやらなきゃ。そうしましょ、そうしましょ。
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バックアップデータから日付と記事タイトル一覧を抽出する

2010年07月08日 06時02分24秒 | コンピュータ
当ブログでは、goo-ブログアドバンスに契約してから、記事のバックアップを取れるようになりました。これは、記事とコメント等のテキストデータで、次のような一定の書式からなっています。

--------
AUTHOR: narkejp
TITLE: ~記事のタイトル~
DATE: MM/DD/YYYY HH:MM:SS
PRIMARY CATEGORY: 記事のカテゴリー
STATUS: publish
ALLOW COMMENTS: コメント数
ALLOW PINGS: トラックバック数
CONVERT BREAKS:
-----
BODY:
本文~
-----
-------- (←レコードの区切り)

ここから、

MM/DD/YYYY 記事のタイトル~

という形式の記事一覧を抽出したい、というわけです。要するに、複行レコード形式のテキストデータから、目的のフィールドだけを抽出してレポートするには、という作業です。こういう作業には、awk 等が適しているでしょう。試してみました。

(1) 得られたバックアップを、narkejp-blog.txt というテキストファイル形式で保存し、テキストエディタで読み込んで元データを目視チェックしました。
(2) 都合上、ファイルの先頭に、半角スペース8個(--------)からなる行を追加挿入しておきます。これで、全部のレコードが同じデータ構造になります。
(3) インデントが崩れてしまいますが、日付とタイトル抽出のスクリプトは、

# gooblog.awk バックアップから日付とタイトルを抽出
# -- for awk/gawk/jgawk, 2010/07/07, narkejp
BEGIN {
RS="--------" # レコード区切子
FS="@n" # フィールド区切子
}
$2~/narkejp/ { # author名がnarkejpのもの
$4=substr($4,7,10) # 日付データの取得(*1)
$3=substr($3,8) # 記事タイトルの取得(*2)
print $4,$3 # 「日付 記事タイトル~」形式で出力
}

ただし、@をバックスラッシュに変える。

(3) これで、レコード中に narkejp という文字列を含むデータから、日付とタイトルの一覧を得るには、

(g)awk -f gooblog.awk narkejp-blog.txt > gootitle.txt

のようにします。
(4) 同様の考え方で gooblog.awk を改変し、カテゴリー区分を追加したり、コメント数やTB数を添えたりする形に整理することもできます。また、行頭にレコード数を付加する(*3)のも良いかもしれません。

(*1): substr($4,7,10) は、第4フィールド($4:DATE)の7桁目から、MM/DD/YYYY という全10桁を帰す文字列関数。
(*2): substr($3,8) は、第3フィールド($3:TITLE)の第8桁目以降の文字列を帰す関数。
(*3):行頭にレコード数を追加するには、組み込み関数 NR を用いて、gooblog.awk の該当行を

print NR,$4,$3 # 「番号 日付 記事タイトル~」形式で出力

のようにすれば、OK でしょう。

【追記】
日付の形式が MM/DD/YYYY という形式でした。また、goo ブログでは、バックスラッシュが消えてしまう仕様になっているようで、@ で代用し、注記することにしました。
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サクランボの品種について~我が家の栽培小史

2010年07月07日 06時06分57秒 | 週末農業・定年農業
例年よりも一週間から十日も遅れたサクランボの収穫が、今年はまだ続いているようです。我が家では、すでに収穫も出荷も完了しておりますが、あまりに青くて収穫し残した実が、今ごろちょうど良い塩梅になっておりましたので、裏の畑の分を少し集めてみました。ちょうど良い機会ですので、我が家のサクランボの品種について、少し整理してみましょう。

まず、早生種として「紅さやか」「ジャボレー」などがあります。こちらが「紅さやか」です。


そして、こちらが「ジャボレー」。熟すと黒くなるのが特徴です。


いずれも、味の方はいまひとつだと思いますが、収穫時期が主として六月上旬ですので、サクランボの季節の到来を告げる品種だ、ということになります。

続いて、六月中旬~下旬の主力品種が「佐藤錦」です。これは、山形県東根市の佐藤栄助さんが開発した品種で、ナポレオンと黄玉をかけあわせてできた種子を選抜し、さらに選抜を重ねてできたものだそうです。得られたサクランボ(佐藤錦)は、台木に接ぎ木をして増やし、育てます。佐藤栄助さんの盟友の岡田東作さんがこの優良品種の普及に努力し、現在の山形サクランボの基礎が築かれました。



佐藤錦の味は、甘味と酸味が絶妙にバランスし、とにかく美味しい。サクランボと言えば佐藤錦と、今ではすっかりサクランボの代名詞となりました。

佐藤錦の後に続くのが「ナポレオン」と「紅秀峰(べにしゅうほう)」です。ナポレオンは、昔から普及している晩生種で、我が家では老母が嫁入りしたとき、すでに老木が五本ほど植えてあったそうな。農協の前身にあたる組合を創設した祖父の代あたりに植えたのでしょうから、たぶん大正時代からでしょうか。
ナポレオンの収穫期は六月下旬から七月上旬、梅雨期と重なり、すぐに実割れを生じてしまいます。酸味が強く、味は佐藤錦に負けますが、大粒で身がしまり、果皮が厚いために傷みにくく、加工用に出荷されます。我が家では他花受粉するための花粉樹として植えており、佐藤錦と混植することで受粉率を高めています。この写真は、まだ六月中旬の佐藤錦の頃ですので、まだ赤くなっておりません。


紅秀峰は、七月上旬から出荷される晩生種の優良品種で、大粒で身がしまり、糖度が高く食味も美味しいために、我が家では佐藤錦以上に人気があるほどです。ただし、多産系なので、大粒の実を育てるには数を間引くなど人手を要するために、兼業週末農家向きではありません。我が家では、もっぱら自家用と親戚知人用に数本だけ植えております。



昭和30年代には、物資の輸送は貨車が中心でした。したがって、果皮が薄く傷みやすい佐藤錦は出荷できず、地域内の生食用にまわり、もっぱらナポレオンが出荷されておりました。ところが、時代を先読みする人はいるもので、ある篤農家が米国農業の視察に行き、モータリゼーションの到来を確信して帰国します。「やがて生食出荷の時代が来る」と力説するその人の予測の言葉に、亡父は近隣の農家の方針とは逆に、佐藤錦を主にナポレオンを従に、苗木を植え付けたと聞きました。当時、「お前の家ではそんなに桜桃を食うのか」と笑われたそうです。実際、しばらくの間は、ナポレオン(加工)主体にしなかったことを悔やんだそうな。

ところが、やがて本当に自動車輸送が主となり、コンピュータ導入により宅配便による個別配送も可能となる時代が到来します。いわば、現在のサクランボ生食の習慣は、自動車輸送とコンピュータ管理の産物であるとも言えます。私が生まれた記念にと亡父が植えたサクランボの老木は、もはや一本だけ残るのみで、それも半分枯れて、半分だけが生きている状態です。なんとか生かしたいものだと考えているところですが、人や家にも歴史があるように、甘酸っぱいサクランボにも、こんな歴史があるのですね。
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R.シューマンの病気治療について~水銀治療の根拠は刺青か?

2010年07月06日 06時02分59秒 | クラシック音楽
ローベルト・シューマンの指の故障の原因について、若いころに梅毒に感染し、水銀治療を受けたことによる運動機能障害が考えられること、さらに後年の幻覚や幻聴などについても、水銀治療ではトレポネーマ(スピロヘータ)が死滅せず潜伏し、脳脊髄に移行し、脳梅毒の症状が進んだと考えられることを記事にしたことがあります(*1)。また、恩師でありクララの父であるフリードリヒ・ヴィークが、なぜあれほど執拗に娘の恋愛を妨げようとしたかも、皮膚症状からシューマンの梅毒感染を察知したためと考えれば、あながち頑固で無理解な父親とばかりは言い切れない、とも考えます。

現在はカルテや病状日誌が公開されており、悲惨な最後の様子が記録されている(*2)そうです。この事実を医師から初めて知らされたクララの衝撃と悲嘆(*3)は、察するにあまりあります。信頼する夫が、性病で死病である梅毒の末期で、自分自身も感染の可能性があるとなれば、文字通り「青天の霹靂」でしょう。もちろん、現代の医学では、クララと結婚した頃にはもう感染しない潜伏期に入っていることがわかりますが、当時は原因不明の病気であり、さぞ不安だっただろうと思います。

当時、梅毒の治療には、水銀化合物が処方されていたそうです。具体的には、塩化第二水銀の0.1%水溶液の内用というのですから、恐ろしい。運動機能障害など水銀中毒による重篤な副作用が大きいにもかかわらず、トレポネーマ(スピロヘータ)を殺すことはできないので、潜伏する脳梅毒の進行を止めることはできなかったでしょう。ちなみに、この処方は、長崎の出島で、日本人に梅毒が多いことを報告しているツンベリーの記載だそうです。

では、そもそもなぜ梅毒の治療に水銀を処方するようになったのか。私たち素人は、昔の医学を遅れたものと決め付け、液体水銀の不思議な性状から迷信的な効能を期待して処方したかのように錯覚しがちです。ところが、山形市郷土館「済生館」内における医学展示を見ているうちに、実は危険な水銀療法にも、それなりの根拠があったこと、梅毒は当時の皮膚科医学の重要なテーマの一つであったことを知りました。

明治初期、当時の山形県令・三島通庸(みしま・みちつね)は、当時の山形県立病院「済生病院」に、オーストリアの医師ローレツ博士を招きます。博士は皮膚科を専攻していたようで、済生館にも皮膚科に関する様々な資料が残されています。古い医学資料の展示を見ているうちに気がついたことは:

(1)梅毒に感染すると、様々な皮膚科の症状があらわれます(*4)が、不思議なことに、刺青をした膚の特定の色のところには発疹などの症状が現れません。その刺青には、水銀化合物が使われていました。すると、水銀は梅毒に対し、抑制的に作用するのではないか、と考えたのでしょう。
(2)明治初期の梅毒に対する処方箋には、塩化水銀剤の処方が明記されており、当時の主要な治療法であったことがわかります。

クララがまだ小さかったころ、梅毒の初期症状を発症した青年シューマンは、皮膚科医のもとに行き、水銀製剤を処方されたことでしょう。たぶん、外用(塗布)だけでなく内用(内服)薬も与えられたのではないか。

水銀の毒性は当時から知られておりましたが、梅毒は死病であり、有効な治療法がなかった19世紀前半には、他の選択肢は残されていなかったのでは。日本人留学生・秦佐八郎が、ドイツのパウル・エールリヒの指導のもと、1909年に梅毒治療の特効薬「サルヴァルサン」を発見(*5)するまで、まだ50年以上の間がありました。シューマンは、「魔法の弾丸」の恩恵を受けることなく、脳梅毒に侵され、死亡した(1856年)と考えられます。

(*1):シューマン「子供の情景」を聴く~「電網郊外散歩道」2005年9月
(*2):シューマンの死因は梅毒による脳軟化症~独で病状日誌を公開
(*3):答えは伝記の中に~「Robert Schumannの指の故障・死因の謎?」
(*4):「梅毒って?」~「Robert Schumannの指の故障・死因の謎?」
(*5):秦佐八郎、梅毒の特効薬サルバルサン606号を開発~「日本の科学者・技術者100人」
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上着を着ないときの筆記具の身に付け方

2010年07月05日 06時04分37秒 | 手帳文具書斎
上着というのは便利なもので、ポケットがたくさんついていますので、ボールペンなどの筆記具を身につけるのも容易で、すぐに取り出すことができます。ところが、上着を着ていない時には、とたんに筆記具を身につけるのが不自由になります。ワイシャツの胸ポケットに何でもかんでも入れておくのも、あまりスマートではありません。

先日、夏場のボールペンの Good な保管場所を発見してしまいました!ラバー軸タイプJetstreamのクリップが強力(*)な点を生かし、ちょうどネクタイピンのようにとめておくのです。これならば、すぐに外せますし、ネクタイをしていれば隠れてあまり目立ちません。ボールペンの芯を出しっぱなしにしない限り、案外便利かも(^o^)/

(*):ボールペンのクリップの強さについて~「電網郊外散歩道」2009年11月
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ショスタコーヴィチ「交響曲第4番」を聴く

2010年07月04日 06時06分31秒 | -オーケストラ
通勤の音楽として、ここしばらくショスタコーヴィチの交響曲第4番を聴いておりました。ハ短調、作品43です。アジ演説風でない、わりとショスタコーヴィチらしい持ち味、特徴が現れた作品だと思います。

この曲は、1936年冬に発表された「プラウダ」の論文で批判されたため、ショスタコーヴィチが発表を取り下げたといういわくつきの交響曲です。ただし、どうやら事情は、映画音楽等における行き過ぎを警告するはずだった論文が、嫉妬深い有象無象によってこれさいわいとばかり利用された、というのが当初の真相のようです。ところが、スターリン時代の密告と粛清の嵐が、やがて単なる便乗ではすまない恐怖の事態をもたらしてしまうことになります。このあたりは、不信と暴力の増幅作用という、歴史の教訓を地で行く経過でしょう。

第1楽章:アレグレット・ポコ・モデラート。表現はあまり適切ではありませんが、けたたましく始まります。この最初の印象が、1935年という時代のソ連には、チャイコフスキーやリムスキー・コルサコフ流の音楽の伝統的価値観に慣れた人からすると、相容れないものに聞こえたかもしれません。でも、プロコフィエフやバルトークやオネゲルなどの音楽を前提にすれば、別にこの曲が、格別に前衛的・破壊的というわけでもない。むしろ、ロシア風に味付けしたマーラーの音楽のように聞こえてしまいます。長い楽章は、多彩な素材を次々に並べて見せ、若い作曲家の意欲と自信と腕前の冴えを示しているというべきでは。
第2楽章:モデラート・コン・モート。前後の楽章と比較すれば短い中間楽章ですが、「西側退廃音楽」の性格も一部に併せ持つ、フーガみたいなスケルツォです。
第3楽章:ラルゴ~アレグロ。これまた単一楽章の交響曲ほどの長さを持った音楽です。あまり斉奏を多用せず、様々な素材を、オーケストラのパートが次々に受け持ちながら並べて見せます。途中の盛り上がりはいかにもロシア音楽風ですが、あいにくここで盛り上がったままでは終わりません。もう少ししつこく辛気臭くやり直して、最後は静かに静か~に、ハ短調でチェレスタが消え入るように終わります。この終結の仕方だって、スカッとさわやか風ではなし、圧倒的盛り上がりのフィナーレでもない。やっぱり一部の人々には不評だったでしょう。現代の耳で聴くならば、私は大変うまい終わり方だと思いますけれど。

千葉潤著『ショスタコーヴィチ』によれば、ショスタコーヴィチの祖父は著名な革命家であり、両親もまた、住まいに逃亡中の政治犯を匿ったりする生活だったそうな。そのような家庭環境の中で育った少年が、本心を語らず、はぐらかしたり隠したりする術にたけているのは当然のことのように思えます。帝政ロシアの官憲からソ連の秘密警察に変わっただけで、本質は何も変わっていないのでは。むしろ、著名な音楽家として当然受けるべき恩恵は受けながら、不都合なことには口をつぐみ、音楽の抽象性を利用して敵を風刺したり嘲笑したりする、複雑な性格の作曲家だという気がします。少なくとも、思わずうっとりと聞き惚れてしまうような種類の音楽ではありません。

演奏は、エリアフ・インバル指揮のウィーン交響楽団で、CDの型番は COCO-70710。クレスト1000シリーズ中の一枚です。1992年の冬に、ウィーンのコンツェルトハウスでデジタル録音されました。録音は明快で響きがよく収録されており、優れたものだと思います。

■エリアフ・インバル指揮ウィーン交響楽団
I=28'16" II=9'07" III=26'00" total=63'23"
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梶尾真治『つばき、時跳び』が文庫化される

2010年07月03日 06時07分22秒 | 読書
先日、某書店に立ち寄ったところ、新刊コーナーに梶尾真治著『つばき、時跳び』が文庫化されていることを知りました。文庫化といっても、シリーズ名は平凡社ライブラリーで、やや大ぶりのペーパーバックです。



この物語は、図書館から借りて読み、すでに一度記事にしております(*)が、せっかくなので一冊購入してきました。なにかの折に再読してみるのもよろしいかと思いまして。
税込み840円、某書店のポイント券がありましたので、100円引きの740円でした。たいしたことはないのですが、気分としてはちょいとうれしい(^o^)/

(*):梶尾真治『つばき、時跳び』を読む~「電網郊外散歩道」2009年2月
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眼福、耳福。~山響と山形舞子による「紅藍物語」

2010年07月02日 06時06分35秒 | -オーケストラ
経済同友会東北ブロック会議のイベントで、山形交響楽団と山形舞子とのコラボレーション「紅藍物語」が上演されました。岩崎宏美+日本フィルハーモニー交響楽団というような共演は承知していましたが、日本舞踊と西洋音楽の共演というのは、たしかに初めてです。指揮:飯盛範親、演奏:山形交響楽団、踊り指導:藤間蝶、編曲:木島由美子(*)、というもので、山形テルサホールにて開催されたものです。

ダークスーツのヲジサン軍団の背後に、ハガキで申し込んで当選した一般のお客さんがずらりと並び、ぎっしり満員の状況です。いつもの定期演奏会とはたしかにやや客筋が異なり、どちらかといえば年配の女性が目立ちます。
開演前に、経済同友会の方々からご挨拶がありました。「文化の地域力」というテーマで開催された今回は、山形の人々が、山響や山形舞子などの文化を支えている様子を、新潟を含む東北各県の経済人に認識してもらいたい、ということで企画されたのだそうな。

ステージ上に、山響の団員の皆さんが登場します。本日は略式服というのか、とりどりのネクタイで、蝶ネクタイのイヴニング・スタイルではありません。指揮者の飯森さんが登場し、山響のモーツァルト演奏の特徴について、少しトークをします。

(1)まず楽器配置ですが、コントラバスを正面一番奥に置くのは、18世紀当時のやり方で、第1と第2ヴァイオリンを左右両翼に配した対向配置も、当時のドイツ・スタイルとのこと。
(2)次に、オリジナル楽器の使用です。ナチュラル・ホルンや木製のフルートなどを紹介します。
(3)最後に奏法について。弦楽器はノン・ヴィヴラート奏法と言って、ヴィヴラートを極力抑え、感情を込めたいときだけヴィヴラートを使うようにしています、とのこと。

最初の曲目は、モーツァルトの交響曲第40番。弦楽器セクションは 8-8-6-5-3 で、中央の管楽器セクションは、フルート、オーボエ、ファゴットにホルンという構成。速めのテンポで、高名なるト短調交響曲を演奏します。山形の聴衆には、交響曲全曲演奏企画「アマデウスへの旅」演奏会ですっかりおなじみですし、スクールコンサート等でもリクエストが多いのでしょうか、すっかり自家薬籠中の音楽となっているらしく、いつものように澄んだ響きの音楽が次第に高揚していきました。

15分の休憩の際に、ステージの左右袖のところに、大きな金屏風が出されました。コントラバス3台がステージの左側に移動し、ホルンやトランペットなどが右側に移動します。中央の弦楽器セクションと木管セクションも全体に後方に移動し、二つの金屏風の間に舞子さんたちの舞台となる空間が作られます。



後半、まずは「紅花摘み唄」から。木島さん編曲のオーケストラによる音楽をバックに、「サァーサ、摘ましゃれ摘ましゃれ!」の掛け声にのって、6人の山形舞子さんたちがそれぞれ籠を持って登場すると、ぱっとステージが明るくなったようで、思わず拍手がおこります。紅花を摘むしぐさを模した動きが、音楽に自然に乗っており、全く違和感がありません。トライアングル等の音が、実に効果的、印象的。
続いて「最上川舟唄」です。フルートで「酒田~サ行くさげ~」の旋律が流れると、年配の貫禄で、藤間蝶師匠が踊ります。音楽は迫力があり、力強いものです。手ぬぐい一本で、櫓をあやつる様子を模しているのでしょうか、渋い踊りと音楽とが、やや男性的な哀愁も漂わせておりました。
「きりぎりす」。扇子を手に、4人の舞子さんが踊ります。音楽は、トランペットがやや「おてもやん」風にコミカルに。西洋音楽の音節ですが、動きに違和感はありません。足の運びがマリオネットのようで、おもしろい、おもしろい!
「六段くづし」。弦のピチカートが琴を想起させながら、うちわを持った舞子さん二人の踊りです。ミュートをかけたのでしょうか、笛とラッパが和風に聞こえます。
「さわぎ」。それぞれ扇子を持って、6人の舞子さんが登場。オーケストラの奏でる音楽のリズムと、舞子さんたちがそろって扇子をバッと開く音のタイミングが、ほぼぴたりと合っており、目と耳とで、おもしろい効果を出しておりました。音楽が終結部に入るころ、舞子さん六人が舞台で正座し、おじぎをします。なんともチャーミングな形で音楽も終わります。心憎い演出です。

拍手を受けて、舞子さんたちがステージ上を出入りしますが、聴衆の皆さん微笑んでニコニコです。指揮の飯森さんが舞子さん一人一人にインタビュー。皆さんはっきり答えており、現代的でした。

趣向はこれでは終わりませんで、最後に「花笠音頭」でフィナーレです。花笠を持ち、あでやかな舞子さん6人の踊りに合わせ、陽気でリズミカルな音楽が奏され、聴衆も手拍子を合わせます。ウィーンがラデツキー行進曲なら、山形には花笠音頭があるのだなぁと、妙にうれしくなりました(^o^)/

いやー、楽しかった!山形の経済同友会の皆さん、眼福、耳福、アイデア勝利の好企画でした。藤間師匠と山形舞子の皆さん、それはもうぱっと夢のような綺麗さで、とっても楽しみました。飯森さん、山形交響楽団の皆さん、そして木島由美子さん、すてきな音楽を、ありがとう!

(*):「うにの五線ノートから」~「やまがた舞子」カテゴリー
(*2):こちらは山形新聞の記事~動画もあります
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