眠りたい

疲れやすい僕にとって、清潔な眠りは必要不可欠なのです。

帆船の模型

2008-07-17 | 
決して妥協できない所に
 帆船作りの魅力がある
 
  叔父はそう云って
   小さな部品をピンセットでつまみ上げる
    不具合が生じるのは
    的確な洞察と忍耐が切れた時だ
     そうだろう?

   巻き煙草を深深と吸い込み一服する
    僕にも一本薦めたが
   両切りの缶のピースは
  子供だった僕にはとても強すぎた

   設計士の叔父には子供がいない
    家の図面を創る合間
   キャンバスに向かってデッサンをしたりする
  自動車のエンジンのデッサンは
 黒炭の線だけでストイックに描かれた

  叔父の癖は覗き込むことだ
   僕に話しかけたときも
    軽く前かがみで目を覗き込んでいた

   設計図そのものが間違ってたとしたら?

  僕の意地悪な質問に面白そうに口をゆがめた

   どうするかな?
    お前は自分の設計図という物を想像したことがあるか? 
     将来何をしていくのか?
      どの路に進むのか?

    思春期の僕は答えに詰まった

   神と呼ばれる存在が
    
     叔父はピースに灯を付ける

    人の設計図を創り上げたとしたなら
     正確に完全な図面なんだろう
    だがしかし
   その図面が正しいのか間違えているのかは
  永遠の謎だな

  帆船の模型は
   色々な事を俺に教えてくれる
    地味な仕事が好きなんだよ

    帆船が出来たらまた遊びにおいで
     
     絵は見せてくれないの?

   あれは世界中で俺しかわからん
  見ても時間の無駄だ

    麦茶を飲んだ
   冷房の効いた部屋の窓
  太陽がじりじりと世界を白日の下にさらしている



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飛ぶ鳥

2008-07-06 | 
羽の潰えた天使の肖像が
 重く垂れ込めた灰色の空を仰ぎ
  公園のベンチで惰眠を貪る
   不意に空気の濃度が薄くなる
    もう此処へもいられなくなるのだろう

     動物の居る動物園から逃げ出した鳥が
      やがて化石になり
       その脳裏に記憶を管理していたとしても
        一体誰が其れを貸し出すのだろう?
         図書カードの思い出は
          貸し出された本の数だけ切ない
           用意された現実など無かった
            だから僕は煙草に灯をつけ
             縁側で缶ビールの空き缶を創る
            ビールがひとつ空く度に
           祈りは何故かその存在の重さを想い出す
          庭の木々から何かが宙に舞った

         飛ぶ鳥だ

        かつて見たことの或る風景
       灰色の現実が
      まるでアジアの国の極彩色のように彩られるのだ
     垣間見えた羽はしなやかで美しかった
    ベンチに腰掛けていた僕は
   もう一度だけ空を飛びたいと願う
  叶うのなら
 あの日君とじゃれあった空に帰りたい
ビールの缶がまた空いた
 もう一度だけ夢が見たい
  僕の罪が許されるのならば
   仏壇に花と果物を盛る
    そうしてその夜
     旅に出るのだ
      窓からそぅっと抜け出して
       行くことの無かった旅に出るのだ
        空間と時間軸を超えて僕らが魂の存在で或ることを
         想い出すのだ

         瑣末な事象と皮肉な日常の有象無象に別れを告げる
          
         僕らは地を這う幻影じゃなかった

         飛ぶ鳥だったのだ

         どうか忘れないでいて




  
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