眠りたい

疲れやすい僕にとって、清潔な眠りは必要不可欠なのです。

舞踊

2009-05-20 | 
すぅーっと伸ばした指先
 凛と張り詰めた空気の鼓動
  返し手の所作は
   舞台の無限を構築す

  美しい
   完璧だった
    踊り手の思想の可能性
     瞬間の中に無限を観る

   踊りのことなんて
    さっぱり解らないけれど
     前衛なんて恥ずかしいくらいに
      綺麗だ
     退廃の美徳が
    完膚なきまでに叩きのめされ
   優しさが飽和した
  
  踊り手が手を返す
 「まるでティシュペーパーを押し出すように・・・」

 派手なジャンプも
コケットな嬌態も要らない
 奇想曲も支離滅裂な背景ももはや無意味だった
  無音
 肉声もはばかられる精神の
  緩やかな弛緩と緊張
   それ等の意味すら解らなくとも
    まるで優しく哀しい
     耳元で
    おやすみ と囁く
   懐かしい世界の復元
   
    ベッドサイドで林檎をむく
     口元のはにかんだ笑顔
      或いは
       何故か跪かずには要られなかった
        懺悔した
         膝を折る横顔

     精神は脳内電流のパルスの集合体なんて
    そんな事はどうでもよかったのだ
   窓ガラスから覗き込む
  暑い午後の日差し
 冷房のよく効いた教室から眺めた午後の予感

   踊り手が手のひらを返す
    美学なんてまさに陳腐だ
     彼女の足さばきの優美さといったら

    
      踊り手の
     指先のひとひら

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

芸術

2009-05-12 | 音楽
某高名なギタリスト(まわりの先生達がそうおっしゃっていた)のリサイタルが終わって打ち上げにお邪魔することになりました。
本当ははやく帰りたかった、リサイタルを聴いてすこし気分がすぐれなくって顔が青ざめていたからだ。愛想笑いもひきつっていたはずです。某高名なギタリストの演奏は僕にはどうしても合わなかったようです。
打ち上げでは、いろんな音楽家の名前が飛び交っていた。神様と崇められる人や伝説のミュージシャンとの交友の話。そして、芸術とは、と話が続く。
一分間に五度も芸術、という言葉がでてきた。僕の顔はさらに青ざめていたはずだ。怖かった。どうしてこの先生達は芸術という言葉をなんの躊躇もなく軽く口にできるのだろう?言葉で語るよりも、なによりその方の音楽がすべてを物語っていたはずです。そして、その演奏は少なくとも僕にはとうてい、芸術なんてものにはキコエナカッタなあ。
芸術。
芸術ってなんだ?
ある90代のおばあさんが、毎朝庭に水をまく。そして時期がきて育った野菜を愛おしそうに眺める、まるで確かな眼をもつ絵描きのように。
おばあさんの野菜は、確かに芸術だ。でもおばあさんは野菜を高々と掲げて、芸術だ、とはけっしていわない。僕はおばあさんの野菜を愛す。



コメント (8)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ススキと青い空

2009-05-11 | 
空が晴れた
 中途半端に続く雨も
  ようやく止んでくれた
   
 空中分解を起こしたプロペラ機のごとく
  昼からワインを飲んでいた
 僕の意識は解体寸前で
  頭痛が途切れず
  三時に飲み干した
  ようやくアスピリンが効いてきたらしい

  画像が優しいノイズの雨を降らし
  鮮明に晴れた空と
  奇天烈に遭遇した
   テレヴィで古い映画を流していたのだが
    気ずくともう
  いつもの下らないコマーシャルにまみれた
  
  苦し紛れに暮らしに粉飾を施し
  意識にオブラートをかける
  甚だしく
  乖離に近ずく景色の最後の余韻は
  願い事を孕ました
  一片の希望的観測
  
     気象台より正確さ
     雲と風の行方を探すんだ
     雲の切れ間から
     ようやく
     光が降り注ぐ

 どの路にも
  行き止まりはあるね
   僕が呟く
 君が笑った
  戻ればいい
   戻ってあたらしい路を探せばいいよ

  もっともらしく
   僕らは気に入りの音楽の話題に熱中し
    青ざめる熱病の如く
     そう遠くにであろう未来について語った
      
  雨は止んだんだ

  友人が耳元でささやく

  雨は止んだんだ

  そうして
   暮らしが流れ行く季節

  忘却の下の頭痛は

  かすかにざわめきだす心の郷愁

  友人の誕生日に乾杯し
  
  一枚の写真に想う

  ススキと青い空


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

空気

2009-05-09 | 
君の笑顔に
 ただ純粋に満たされた朝
  君の笑顔に
   哀しい想いをする午前三時
    バス停に辿り行く
   待つはずだったバスなんて
  とっくに来やしないのに
   泥酔して笑った
    ひどくみっともなかっただろうね
     おまけに雨まで降りしきる
      
   嗚咽とともに意識を吐く

  高価すぎるしあわせの代償は
   惨たらしい失望の予感
    路上の余興
     吐くべき意識を見失う

      驚いたことに
     しあわせというものは
    案外と長続きするものだね
   ふと
  そんな風にも感じる
 たとえば
  白い雲や
   輪郭のはっきりとしない夢や
    穏やかな空気
     美味しいご飯
      お茶を飲み
       仏壇に線香を立てる所作
        庭に春を待つ草花が息ずいていて
         それらはとてもしあわせなんだ

     顔を洗い歯を磨き
    靴を並べ
   そのかかとの減りに驚くんだ
  「日常」と誰かが云った
  そんな日々は夢よりも
   もっと深くしあわせだったことに
    感じる
     そんな気がする

      しあわせは等分だ
       それ以上でも
        それ以下でもない

         ただ在ること

          空気の如くに




コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

魔法使い

2009-05-08 | 
ガラスの壁にぶつかり
 力なく横たわる小鳥
  先生が呟く

  「救急病棟に連れて行こうか?」

   あながち嘘ではない口調で

 病棟の個室にも夕刊が届くんだね
  手紙を投函した
   グランドの夕映えの記憶
    暑い夏の日だった
     路に迷った飼い猫が
      アスファルトにまかれた水溜りに
       魚の影を見る

   ちりん

  と音を奏でた風鈴
 その音が僕の脳裏を刺激する

魔法使いには造作も無い事
 記憶と未来と
  優しさと哀しみを
   自由自在に操ってみせる

   ちりん

 かつて魔法使いだった友達は
  音を奏でる呪文を押入れに仕舞い込み
   暮らしの為に早起きをする
    かつて魔法が使えた記憶を意識下に埋没させ

   僕らは
    怖い物知らずの筈だった
     確かに
      あの一瞬
       空を飛ぶ夢を見ていたんだ

    夕刊に載る
   絶え間ない悪意を消し去って
  魔法使いには造作も無い事

 小鳥は力なく横たわる

   ちりん




コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

月命日

2009-05-05 | 
「今までどうも有難うございました。」

  貴方はどうしてそんな言葉を口にしたのだろう?
   僕らは息を飲み
    哀しみの微笑で窓の外に目をやった
     暑い夏の日
      青い空が僕らの島まで続いている筈だった
     
      哀しみは終わらないけれど
       やがて僕らは日々の生活に埋没した
        朝が来て夜が訪れた
         今日が終わり
          明日がやってくる
           繰り返される雑事に振り回されているふりをして
            僕らの日々は流れ行く
             カメラでそれらの記憶の断片を刻印した

             かしゃ

            病室のベットで身を起こし
           遠くを見る薄れ行く意識の中で
          貴方はこう云った

         「人はいずれ死ぬ。」

        僕はアイスクリームをすくって
       貴方の口元にそおっと運んだ
      ふた口だけ食してくれた
     僕と弟は束の間
    病室の静寂から逃れ
   病院の中庭でウインストンに火を点けた
  白い煙を深いため息で吐き出した

 貴方の崇高なる魂
僕らの壊れそうな魂
 今想うとそれはまるで一本の無声映画のような情景だった
  蝉の声が止まなかった
   売店のアンパンを食べた
    病室に入る前には
     必ず笑顔でいようと想った
      大切な瞬間を
       笑顔で過ごしたかった
        まるで学生時代の性分で
         貴方の笑顔が見たかったのだ

         「今までどうも有難うございました。」

         どうして貴方はそう云ったの?
        今でも
       その言葉を想い帰すと
      苦しくって切なくて息が出来ない
     暑い夏の日
    蝉の声が止まない

   僕は さよならが嫌いだ

  まるでもう永遠に会えないような気がして

 出来るなら

僕が娑婆とお別れする時には

 またね、と云いたい

  万物は流転し
  
   魂はきっと

    いつか出会えるはずだから

     心電図の音が耳から離れない

      ブランデーを少しだけ舐めながら想い出す

       あの永遠の夏の日





コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「グリーンスリーブス」

2009-05-04 | 音楽
「イリュージョン」、という小説がある。
まだ10代だった頃僕はこの本をいつでも持ち歩いていた。
こんなシーンがある。大好きな場面だ。
救世主であることに嫌気のさした救世主、ただの飛行気乗りになった彼が、立ち寄った部品屋で何気なしにギターを手に取る。いままで一度もギターを触ったことのない彼は、流暢にギターを弾いてみせる。
「いつのまに練習したんだい?ギターが弾けるなんて全然知らなかったよ。」
そう云った相棒に、彼はいたずらっぽく笑ってみせる。
救世主なんだ。ギターくらい練習しなくても弾ける。問題はギターを弾ける自分を想像すること。

     「イマジン、想像せよ。
      世界は美しく完璧であると。」

そのときに弾いてみせた曲が「グリーンスリーブス」。
なぜか不思議と心にのこった。もちろん僕は凡人で救世主ではないので(とてもありがたいことに)、この曲が弾けるようになるまでかなりの練習をした。たどたどしく憶えたてのギターを手にし、ビール片手にいいあんばいの僕を当時よく部屋に遊びに来ていた猫氏は、つまらなそうに聴きながらあくびをしていた。

それから10年。

たまにこの曲を弾いてみる。
本棚からこの本が消えている。
5年前の引越しのどたばたにまぎれてしまったのだろう。
はじめて曲を聴いてくれた猫氏、野良猫トミーの行方ももちろんわからない。そういえば、あの街を出るとき彼に挨拶もしていなかったことを思い出した。
いろいろ変わったよ、街も人も。古い友達が電話越しにつぶやく。いちばん変わったのは俺たちだろう?口にはせずに、そうだな、と答える。

なんか作り話みたいだ、でも本当のことだ。

記憶が枯葉のにおいをしてきた。
もしまた大好きな人に出会えたら、この曲をきいてもらおう。

指が曲を憶えているあいだはまだ想像できる。
たぶんね。



コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする