眠りたい

疲れやすい僕にとって、清潔な眠りは必要不可欠なのです。

恋文

2011-08-27 | 
夢をみた
 煙草屋の軒下で
  雨宿りしたさびれた街角の風景
   赤い電話が鳴り続けている
    「理由が必要なのか?」
      受話器ごしに声が尋ねる
       僕には
        僕には果たして存在の明確な理由など在ったのだろうか?
         往来は時として
        無分別なまでに孤独を示唆してゆく
       シリンダーに残された弾丸の
      弾丸には希望など予測され得ない
     可能性は残っている
    したり顔で猫のボスが葉巻をくわえる
    
   このシャツも襟を縫ったけれど
  来年は駄目かも
 シャツの話だったのか僕自身の話だったのか
雨は降り止まない
 路行く人々の雑踏の中
  孤独は刹那によぎる夢を見る
   「初めて空を飛んだ気持ちは?」
     ライト兄弟に質問した新聞記者の一人が
      たぶん僕だ
       飛行船の遊覧飛行
        ラムネのガラスのビー球に映る世界
         雨の軒下で様々な白昼夢が映写される
          世界を凝視した眼差しで
           映写機が投影する虚構を構築した
          だがしかし
         虚構が現実ではないのだと
        はっきりと口に出来る者がいたのだろうか?

      「一切の罪を犯していないものがいるなら
        この者に石を投げなさい」

     人の輪の中で僕は爪先立ちで見物する野次馬だった
    
    夢をみた
   誰かがいなくなる
  誰もがいなくなる
 投げつけた意思が現実の界隈を流浪した
まるでジプシーの集団の如く
 おれんじ色の安っぽい想いが拘束する意思の最中
  寂しいと安易に云えるようになったのは
   僕等が二足歩行になってからだ
    肥大した前頭葉が現実という夢を創世させるのだ
     幻想が焚き火の灯に存在の現象を見出し
      少女が抱きしめていたのは
       あれは「世界」だったのだろうか?
        夢をみた

         アルコールで前頭葉を麻痺させる
          寂しいを麻痺させる
           想いの外大切な仕事だ
            孤独を封印するのは

          愛用していた赤いタイプライターで
         無作為に意味のない単語を羅列する
        十年後
       その言葉の切れ端は
      まるで存在したかのような恋文みたいだった

     あるいは生き延びて破りあぐねている遺書のよう

    夢をみた


   
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水の中

2011-08-21 | 
泳げないのに
 お酒に溺れた
  魚が泳ぐ風景
   水の中を歩いた
    きらきら
     水面に光がさんざめく
    
      愚かな笑い

       僕は泳げない

        愛している

         ただ愛している

          君や彼等や彼女達を

           過ぎ去ってゆく真夏の午後

            泳げない

             君を愛している

              泣き笑い歌う

               僕の暮らしは全て虚構だったのだろう

                愚かさの範疇で

                 失った者を想う

                  泳げないのに

                   お酒に溺れた

                    ね

                    ただ

                    話を聴いて


                   それだけで

                  百万年光年救われる

                 届くかな?

                僕は今日も生きているんだよ


               水の中

        
              ね
















  
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ビールと伯爵

2011-08-14 | 
調子はずれの声で
 猫が唄を歌った
  ほろ酔いの朝
   僕等は太陽の光で精神を消毒していた
    僕は緑の瓶ビールを美味そうに飲み干す猫に声をかけてみた

    ねえ、ハルシオン。
     僕らは全体この縁側でいつまで酔っ払っているんだい?
      どうして?おいら達がビールを飲もうが飲むまいが
       地表は回転し万物は流転するんだ
        少しくらい酔っ払ったって誰にも迷惑かけてやしないさ。
         君、それ誰に言い訳してるの?
          自分自身に?

          猫は嫌な表情をして歯でビールの蓋を開けた
           じゃあさ、その残ったビールはおいらが飲むよ。
         
          僕はあわててビールの瓶を隠した
         世界が流転している
        雲が流れる様は美しい
       戦闘機の爆音の下でビールをごくりと飲む
      僕らが生まれた時から
     戦闘機の爆音が絶えたことは無い
    はっか煙草に火をつけた

   ハルシオンが大きなラジカセでジャンゴ・ラインハルトを流している
  ジャンゴのギターとステファン・グラッペリのヴァイオリンが
 まるで哀しい陽気さで音楽を空間に紡いだ
一度だけパリで彼等の演奏を聴いたんだ。
それからのファンなんだ。
 ハルシオンは懐かしそうにそう云った
  ねえ、君は150年前には何処で何をしていたの?
   猫はくん、と鼻を鳴らした
    何処かの国の何処かのカフェでビールを飲んでいたよ。
     またビールかい?
      だってさ、今も昔も暑いんだもの。
       でもさ、150年前よりははるかに暑くなったよね。
        ふーん。
         僕は僕が生まれる前の時代に
          猫が一緒にビールのジョッキを傾けた相手を想像してみた。
           相当な物好きだった筈だ
            変わった人だったんだろうね。
             思わず呟いた言葉に猫が微笑んだ
              だれの話だい?あんたのこと?
               僕は紫色の煙を空に吹きかけた

    伯爵はさ、
     煙草とビールを愛していたんだよ。
      
      誰、それ?

       昔馴染みの友人の話さ。

        伯爵は誰も信用しなかった
         まあ、みんなも伯爵のことを信用していなかったけどね。
          多少は変わった方だったけどおいらには優しかった。
           伯爵は自前の気球を持っていてさ、
            緑の草原からおいら達は飛び立っていったんだ。
             地表がどんどん遠くになってね、
             気球に揺られながらおいら達はビールを飲んだんだ。

             その間にも地表は回転し万物は流転していた

            どう想う?そういうのって。

           どうって・・・。

          誰も信用せずにさ、猫のおいらなんかとお酒を飲む人。

         猫は縁側から青い空を眩しそうに眺めた
        まるで伯爵と交信しているように。

       どうだっていいんだよ。
      地表は回転し万物は流転する。

     猫はラジカセのカセットテープを取り替えた

    マイク・オールドフィールドのチュブラーベルズが流れた

   哀しみが飽和する太陽の下

  こんな感じの人だったよ、伯爵は。

 僕らはほろ酔いで音楽を聴いていた

  緑色のビール瓶を太陽にかざす

   伯爵は今でも何処かの時間の何処かの国で
    
    永遠にビールを飲んでいるのだろうか?

     誰も信用せず

      

      夏が来る












 

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窓の外側の世界

2011-08-09 | 
部屋の窓を開け放した
 風が流れ意識の面影をそうっとなぞる
  君は最近空の具合を眺めたことがあるかい?
   老人が領事館を改装したレストランの階段で
    振り向きざまに呟いた
     空?
    そう、空の話のことだよ
   窓から世界を俯瞰し僕らは並んで煙草に火を点けた
  いつかの君の少年時代には
 流れる雲はゆっくりと動き始め
風の行方が微笑んだ
 君は想ったはずだ
  この空が何処か遠くの異国の街に繋がっていることを
   君が描写した世界の切れ端で
    黒猫が知らない街角を案内する
     土地のひとしか知りえない迷路のように
      錯綜した路地を抜け
       あの鉄柵に封印された
        公園の名残りを見たはずだ
         公園の噴水には水が無かった
          君は途方に暮れ
           空を見上げたんだ
            違うかい?

           扉が開く
          知覚の扉が開放された
         世界がその存在をあらわにする
        花びらが散った
       美しい
      完璧だった

    哀しい事柄の多くは
   封印されるんだよ
  君は多くのものを忘れ記憶を磨耗してきた
 全体、君の前世は何者だったのか憶えているのかい?
それとも君は
 この現世で出会った人々が唯の偶然で出会ったのだと
  本気で考えているのかい?
   君らは約束をしたんだ
    また会おうと
     この空と一緒さ
      何処かで繋がっているんだ
       想い出すんだ
        忘れちゃあいけないことがある
         そうして君は知覚の扉を開くべきなんだ

          老人は丁寧に灰皿で煙草を消した
           ちょっと昔には
            この建物には外国人が沢山存在した
             領事館だったんだよ
              でもその記憶は

             薄れて薄明の中に消えたんだね?
            僕は君のことを想い出していた
           そうしてみんな何処に消えてしまったんだい?
          あの記憶
         空の話
        世界の境界線について
       僕らは傷つけあい
      傷つけあったことすら忘れてゆく
     かつて海があった国の話

    窓の外を眺めている

   


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