眠りたい

疲れやすい僕にとって、清潔な眠りは必要不可欠なのです。

遠い夏休み

2024-05-17 | 
変わり行く景色の中で
 僕らはただ口笛を吹き続けてみせた
  誰かの影がグランドの夕映えに長く伸び
   校舎の窓から風が吹き抜けた
    誰もいない図書室
     氷点下まで下げられた温度で
      古びた本たちの背表紙をそうっとなぞった
       誰もいない廃墟
        誰もいない世界
         前言撤回された日記帳は
          白紙の言い訳をさらし
           空をなぞったファインダー越しに
            一眼レフのシャッターが空間を切り取ったのだ

           胃の調子がおかしかった
          冷たい物の取りすぎだね
         君が可笑しそうに笑った
        ソーダー水のアイスキャンデーを舐めた
       みんな何処に消えたんだろうね?
      君は微笑み、どうしてさ?と不可思議な表情を浮かべる
     だってさ、
    あんなにたくさん居た奴等も誰一人居なくなっちゃったんだよ。
   違うよ。
  君が訳知り顔でこう答えた
 始めから存在していなかったんだ。
美術室の静物画のデッサンが可笑しそうに笑った
 始めから?
  そう。始めから何も存在していなかったんだ
   確かなものなんて此処には存在しないんだ。
    用意された未来なんて最初から無かったんだよ。

     点滴が零れ落ちた
      病室のベッドの上で白いシーツに包まる
       古ぼけた時計が時を刻む
        あの音だけは。
         あの時計の指し示す時間の音だけは変わらないね。
          君は僕の脈拍と体温を
           手馴れた手つきで調べた
            熱があるよ。
             熱?
            そう。君の体温。
           アンリ・ミショーの詩集を閉じて
          君はジャン・コクトーを開いた
         過去を閉じ
        未来を開こうとする
       ホルへ・ルイス・ボルフェスの夢魔たちが笑った
      笑われてばかりだね。
     誰に?
    友達やら同級生やら通行人やら背景やら
   白い壁やらかすんだ視界やら運命やら
  やがて薄れ行く記憶やらぼんやりとした意識領域やら
 赤いワインの一滴たちに於いて。

小説の一ページを破りとって
 君は丸めて僕に投げつけた
  これで世界は封印された。
   厳かに君がつぶやく

    その破かれた本は
     駄文をしたためた僕のノートだった

      君の記憶が紛失したんだよ
       君がくすくす微笑んだ

        当たり前の顔をしてなくっちゃ駄目だよ

         世界が未分化で不完全な物だなんて

          委細承知のことだっただろう?

           確かなものなんて

            存在しないんだ

             始めから


            呼吸の位置を調べたい

         
         マイヤーズ・ラムをコーラで割った


          コークハイの哀しげな郷愁
       


             遠い夏休み



         







   

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