眠りたい

疲れやすい僕にとって、清潔な眠りは必要不可欠なのです。

レントゲン

2010-04-27 | 
青いレントゲン写真を指差して友達の説明が始まった。
 「頚椎の5番目と6番目がこれなんだけど
   変形してるのがわかるだろ?
    おまえ、これ年齢よりはるかに年食ってるぞ」

  そうですか、と僕は答える。
 友達はちょっと嫌そうな表情で
  敬語はいいぞ、とつぶやいた。

  それでどうなるの?
僕は聞く。
 神経症状自体はそれほどひどくない、感覚はあるよ。右手の痺れはたまたま出ただけだ。お前の頚椎の状態だと左手に出てもおかしくない。何か飲んでたのか?

 あいつから強力な鎮痛剤もらってバーボンで飲んでた。

  髪の長い看護婦が白いマスクごしに苦笑した。

   また、あいつか。止めとけ、悪いことはいわないから。

 友達はMRIの画像を引っ張り出してきた

 悪いけど、磨耗した頚椎は元には戻らない。不可逆なんだ。
 だけど鎮痛剤飲んでたのは正解だ。飲んでなかったら多分こんな状態ではすまなかった。

傾向としては。
 友達が続けた。
  まあ、時々こんな痛みは出てくると思うな。上手く付き合うしかないよ。それと頚椎の状態は再生しないから、今後、手術の可能性も視野に入れといて欲しい。

現状としては打つ手は鎮痛剤で炎症抑えるしかない。ボルタレンとノイロトロピン出しとくよ。しばらく苦しいと思うけど徐々に痛みは緩和される。
症状の変化は運みたいなところもあるんだ。出るときは出るし、出ないときには出ない。祈るしかないな。

 祈る?何に?

 友人は面白そうに微笑んだ

 おまえ相変わらずだな。他に聞きたい事は?

 酒は?

 ほどほどに。

 詳しいことはこんどな。
当たり前だ、ここは救急センターなんだ。
 悪いな、こんなもんでいいか?
  いや。ありがとう、またな。
振り向いた僕に、彼は
  湿布もいるか?
   ときいてきた。
 いらない。それより、ビールくれ。

診察室の椅子から立ち上がりかけた僕に、友人が鋭い目線で云った。


 
 昔に戻るなよ。古い友人としての忠告だ。


  



診察室を出ると、子供の泣き声やら呻いている叔父さんやら土建屋の怒鳴り声やらいろんな音に囲まれる。僕は煙草を引っ張り出そうとして、そうだ、ここは禁煙なんだと思った。しょうがなく缶コーヒーを飲みながら会計を待った。

  少女から連絡があった
大丈夫?痛くない?
  大丈夫。なにも心配ない。
痛みの尺度なんて曖昧だ。しあわせの尺度とおんなじように。

  大丈夫。
 レントゲンの青い光がまぶたにちらつく。

 痺れた右手を振ってみた
  まるで野球のグローブを着けたみたいに感覚が重かった。


  
   ギター弾けないね。

  
    
    痺れた右手を見つめた

















   
コメント (2)
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ピアニスト

2010-04-09 | 
フィリップモーリスに灯を点ける
 夕ご飯の代わりにワインを空けた
  何も乗っていない皿の上
   在りもしない肉を切る仕草
    
    林檎でもかじれよ

     友人が青い林檎を放った
      訳知り顔の皮肉な冷笑と共に
       林檎の匂いを嗅ぎ
        皮ごと齧ってみた

         ピアノの蓋がそうっと空けられる
          誰かが鍵盤に指を置く
           何処かで聴いた筈の音楽
            記憶の階層を不確かに辿る
             マイケル・ナイマンの曲だ
              「ピアノレッスン」
               僕はワインをグラスに注ぎ
                あてどない孤独を肴に
                 ただ流れる音を聴いていた

        ワインと煙草と音楽

       それだけあれば無人島に行きたい
      だがしかし
     この部屋の情景もかなり孤独ではあるが
    不安に喘ぐと呼吸するようにワインを流し込んだ
   
   ピアニストという人種はまるで魔法使いだ
  指が二十本あるみたいだ
 それらが正確に鍵盤を選び取る

飯とピアノだったら間違いなくピアノを取る
 酒とピアノだったら少し悩む
  難しい難題を突きつけられたみたいに
   老ピアニストが微笑んだ
    ステージでクラリネットを吹いていた陽気なアメリカ人は
     普段 基地の中の小学校の校長先生だった
      ペンキ屋の親父のドラミングもかなりの腕前だ
       ジャズバーの夜は
        煙草の煙に満たされた
         老ピアニストのソロが終わると
          歓声と拍手が舞った

          アメリカでもヨーロッパでもアジアでも
           彼は呟く
            音楽は共通語だったね
             すまんが煙草一本頂戴
              僕は煙草を差し出し灯を点けた
    
            だからね
             止められないね、ピアノ。

             グラスに酒を注ぎ
              彼は美味そうに飲んだ

               そんな夜も悪くない


                月夜だ



             ps、
             ジャズピアニストの
             屋良文雄先生が
             8日お亡くなりになりました。
             沖縄は大切な宝物を失った気がします。
             御冥福を御祈り申し上げます。




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