眠りたい

疲れやすい僕にとって、清潔な眠りは必要不可欠なのです。

嗜好品の憂鬱

2023-08-27 | 
クッキー一枚を半分こに割って
 食事にした
  トマトの赤が網ネットのなかで吊るされ
   風に揺れた昼下がり
    繁華街から数キロ離れた
     田舎町の情景

   何か買うか?

  老婆の巧みな商売に
 思わず黒砂糖を手にした

  優しさは贅沢品
   究極の嗜好品
    上等の紙煙草の様に
     箱の上で
      とんとん、と葉を詰めて
       マッチで灯を点ける
        マッチの硫黄の香りが仄かに
         一服を嗜む

   ガラス細工
  気に入りのカップ
 タンブラーグラスのスコッチの琥珀
それから
 いくつかの手紙
  もう見ないけれど
   そのぶっきらぼうの言葉に
    失う怖さを始めて知った時間の緩やかさ
     
     猫が訪れたのはホテルの玄関の階段
      したたかな表情で
       あの老婆の様に
        当たり前の顔で
         残りのクッキーを齧った
          食べ終わると
           ミルクは無いのかと
            不満げに僕の瞳を覗き込む

         僕は気が利かないのだ

      嗜好品はなかなかもって止められない
     煙草の一服も
    コーヒーの黒も
   ウィスキーの寝酒も
  それから
 想わずもらった優しさの欠片
断片に論理性は求めないのが常だけれど
 いつか最後に
  ポケットに小銭が残っていたなら
   僕は迷わず  
    うらびれたショットバーで
     一杯引っ掛け
      煙草を深く吸い込み
       娑婆とお別れしたい

    病院で白いシーツにおじが包まっている
     借金と病気は隠すな と
      爺様の口癖だったと苦笑する
       同じ病室だったのは何かの縁か
        じりじりと西日が刺さる
         遮光カーテンで塞ぐ

           想い出は優しい贅沢品

            一抹の哀しみの音色と同じ
 
             大切で手に届かないものたち





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白線

2023-08-24 | 
喧騒から逃れ
 逃げ込んだ部屋の一室に
  酒瓶に飾り付けられた一輪の野花の
   夢を見る

  今日は
 良い日だっただろうか?
太陽の日差しと気紛れな雨の交差
 斜線に入るもどかしさは
  たとえ飛行機が上手く飛ぼうとも
   
  一日
   黒板にチョークで白線を引く
    こちら側とあちら側
     空気の優越感にあつらえられた一角は
      どちらの部類に属すのだろう

    銀のスプーンを大事そうに仕舞う

   教室から飛行機は見えない
  君の到着も
 別れも
館内放送では知らされない
 いつも無言の情報の欠如を思い知らされ
  いつか街角で振り向いた瞬間
   思い出す出来事

     雑居ビルの屋上
      ステンドグラスの窓
       容赦なく照り返す日差し
        戦闘機の爆音と
         
     トマス・モアの「ユートピア」では
    ある種の存在はある種の役割しか
   与えられない

  白線のこちら側とあちら側
 明確に確実な意識を持って
線を引ける者は果たして誰なのか?
 名うてのシャーロキアン達が頭を悩ませる
  数学者のメモ用紙には
   肝心の数値がそっくり抜け落ちているのだ

    白線のこちら側で果物を剥く仕草

     可愛いよね
      子猫がアイスキャンデーを嬉しそうに舐める

      世界の舌触りは
       奇妙にざらついている

        白線は


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記憶の博物館

2023-08-19 | 
壊れた僕らの
 想いは砕け散った
  割れた鏡に映る虚像
   あの街の風景
    寒い冬に
     ダッフルコートを着て
      街角に立ち尽くす
       幾人かの幸せそうな笑みを眺め
        暖かい暖炉の窓辺を想った
         静寂に身を潜め
          雪だ
           白い呼吸で君の名前を探した
            けれども僕には  
             君の名前も僕の名前も想い出せなかった
              記憶が真っ白な雪で覆われる頃
               煙草を吸い
                白く灰になる現象を考察した

                記憶

               膨大に蓄積された筈の思い出たちは
              いつのまにか全て消えて無くなってしまった
             壊れたブリキの玩具の様に
            それらには何の意味も見当たらなかった
           想いや記憶や色彩や音色は
          いつしか壊れ物のラベルを貼られ
         何処かの工場のベルトコンベアーに流された
        壊れた僕らの想い

       手紙を書くよ

      そう云って
     君はこの世界から永遠に消え去った
    そうして
   君からの手紙は決して届かない
  幾億光年待とうとも

 君の正義で僕の罪を罰して

 お願いだ

 全ての事象はその色合いを失った
  僕にはもう現実感が分からなくなったのだ
   手に取る想いは全てよそよそしい態度で
    僕の魂から零れ落ちる
     境界線の傍らで
      密やかに咲く一輪の花の様に
       消え去る感情
        感情そのものが
         其処から零れ落ちるのだ
          ただ静寂を祈った
           静かな眠りを
            
           手紙を書くよ

           君の輪郭がもう想いだせない
            君の名前が見当らない
             正当な理由で
              虚構の世界は打ち砕かれる
               明日も雪なのだろうか
                あの記憶の街は

                 現実とは何者だろう

                僕はその者を掴みきれない
               虚空の果てに
              虚脱し
             乖離し
            分解される
           壊れた玩具の博物館
          入り口で黒猫が微笑む
         本に描かれた手法で魔法を唱えた
        もはや現実は現実ではなく
       散りばめられた詩の数だけ
      世界が表出した

     緑の植物のため息

    お願いだ

   乱反射する呼吸

  この世界の真実

 界隈の森で

鳥が飛び立つ

 静けさの虚構

  壊れた想い

   壊れた玩具の博物館

    陳列された

     僕らの記憶


      何処かの街の


       記憶の博物館にて


















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緩やかな飛行

2023-08-09 | 
澄んだ空気は、今が朝だと教えてくれる。
まだ時間は早い。もうすぐ夏だというのに、まだお日様の出ていない空気はうっすらと冷たかった。
「sherbet、ちゃんと起きてる?」
「起きてるけど、すこし寒いんじゃないかな?」
僕がそういうと、少女は不機嫌そうに僕のあたまを、こつん、と叩いた。
「寒いなら煙草で暖まればいいじゃん。」
そういって、ハッカ入りの煙草を差し出した。僕はガスの少なくなったライターで煙草に火をつけた。少女は口にくわえた煙草に、マッチで丁寧に火をつけ深くすいこみながら草原を見渡す。
「ねえ、ほんとうに気球はくるのかい?」
彼女は黙って、昨日の新聞を僕の目の前にひろげた。
そこには、「熱気球大飛行大会」と書かれていた、気球のイラスト入りで。

「ね、ちゃあんとのってるでしょう?大気球大会。」
嬉しそうに云って、少女は僕の短くなった煙草を奪い取って携帯用の吸殻入れにいれた。
この草原がいちばん気球が見やすいんだから、と付け加えた。
「でも空は広いし・・・」
「うるさい、あなたいっつもそんなんだから人生間違うのよ。懐疑的な人生なんてだれも好きになんてならないんだから。」
それからバッグから地図を取り出し、飛行経路は調べておいたのよと自慢げだ。

すこしだけ日が射した、もうすぐ夜明けだ。
僕らは黙って静かに空を見渡した。

遠くの方からぽつり、ぽつりと点のようなものが見えた。
それはだんだんと大きくなった。熱気球の飛行隊だ。
「すごい!」おもわずつぶやくと、少女は勝ち誇ったように「早起きして正解だったでしょう」と嬉しそうに僕の顔を覗き込んだ。

気球はゆっくりとしたはやさで飛んでいる。
ゆっくり飛ぶところがだいごみなの、彼女はそう云った。

     
     緩やかな飛行。








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空の話

2023-08-05 | 
  
    「空の話」

    空の話をしよう  
    とても綺麗で
    こわれやすくて

    空の話をしよう
    なくした記憶の  
    いちばんすみっこにある
    小さなお話

    君が街を歩いているから
    僕は嬉しくて
    何かに感謝する

    君がいてくれて
    嬉しい だから
    空の話をしよう
    小さなお話

    永遠があるなら
    君といっしょに
    いたかった

    少年は路上に落ちてる
    石を眺めて
    同じと思った

    君が
    しあわせになれるなら
    僕は僕の石を 
    君にあげる

    君がしあわせになれるなら
    僕は僕の意思を
    君にあげる


    そうして
    そして
    あの空の話をしよう

    夢見たものは
    うそか本当かわからないけど
    あの気持ちは
    たしかに 残った

    君がそばに
    いてくれるといいな

    空の話をしよう
    小さなお話





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後輩

2023-08-02 | 
君の哀しみと虚無と絶望に
 僕は答える術を持たなかった
  夕暮れ時の赤い太陽が沈む頃
   黒猫のハルシオンと戯れながらビールを飲んだ
    何気ない日常
     何気ない生活

     切り取られた記憶の一部で君が微笑んでいる
      昨日の作為的に虚飾された現存で
       君が泣いていた様な気がしていた

        先輩、シャワー貸して。

         ショートカットの君が
          いつもの様に深夜に僕のアパートに辿り着いた
           ウイスキーを舐めながらギターを悪戯していた僕は
            半場呆れ返りながら少女の訪問を受諾する

             ご勝手に。

              後輩は勝手知ったシャワールームの温度調節に余念がない
               歯ブラシを咥えながら
                ビートルズのMr、ムーンライトを口笛で吹きながら
                 僕の存在を無視し
                  まるで自分の部屋の様にバスタブにお湯を張った
                   僕にはまるで分らない
                    ネパールの塩という怪しげな物体を湯船に撒き散らかした

                    ねえ、 
                     どうして君はいつもこの部屋にいるのさ?

                      不思議に尋ねる僕に
                       ドライヤーで髪を乾かしながら君は答えた

                       だって
                        寮の門限が早すぎるのよ。
                         おちおちビールも飲めやしないんだから。

                          そう云って勝手に冷蔵庫から冷えたビールを取り出した

                           それに
                            先輩、あたしが来なければまた独りぼっちでお酒飲んでたんでしょう?
                             寂しいよ、それ。
                              大丈夫。
                               あたしが一緒に飲んであげるから。

                                実に勝手な言い分で君は三本目のビールの蓋を開けた

                                 大抵後輩は酔っぱらっていた
                                  もちろん僕も負けずに酔っぱらっていた
                                   ビールを飲みながら
                                    窓から零れる青い月明かりに照らされた

                                    後輩は付き合っている彼氏の文句をぶつぶつ云いながら
                                     僕からギターを奪い取って勝手気ままに弾き始める
                                      中学からクラッシックを習っていた後輩の指先を
                                       感嘆の面持ちで眺めながら
                                        僕はお酒を飲み続けた

                                         後輩はビートルズの曲を
                                          片っ端から弾き飛ばした
                                           当時の僕には理解できない
                                            難解なジャズコードで
                                             信じられないくらい
                                              難解な運指を披露した

                                             どうしてさ、
                                            そんな難しい曲が弾けるのさ?

                                           呆れ返る僕の言葉に
                                          後輩は鼻で笑って、簡単よこんなの。
                                         とすっとぼけてた

                                        ある日の深夜二時の出来事だった
                                       秘蔵のウイスキーのボトルを出して
                                      僕は後輩にレッスンをお願いした
                                     後輩は悪戯っぽく微笑みながら
                                    はっか煙草を口に咥える 
                                   その煙草に愛用のジッポで灯をつけた
                                  美味そうに煙を吸い込み
                                 君は僕にテンションコードの理屈を説明してくれた

                                先輩はどうしてギター弾いてるの?

                               う~ん。
                              他にやることもないし。
                             学校の講義にも興味は惹かれないし。
 
                            それだけ?

                           音楽は好きだよ、わりと。

                          女の子には?

                         どうかな?
                        相手にも相手の都合があるだろうし。

                       先輩、好きな人いないの?

                      後輩は不思議そうに云った

                     いるよ、もちろん。
                    でもしっかり彼氏がいるしね。

                   それでもその人の事、好きなの?

                  割とね。

                 ふ~ん。

                つまらなさそうに後輩は煙に目を細めた
 
               君はどうしていつも一人でギター弾いてるのさ?
              そのくらい腕があるならおいらだったらプロを目指すけどね

             後輩は退屈そうにあくびをした

            プロって職業的音楽家のこと?

           まあ、そうだね。

          興味ない。

         後輩はグラスのウイスキーを一息で飲み干した
        
        あたしの音楽はこんな感じ

      そう云って少女は歌い始めた

     スザンヌ・ヴェガの曲だった

    青い月夜が濡れる

   少女の切ない歌声に包まれた夜

  君は眠れない夜を音楽とお酒で紛らわせていた

 僕が酔い潰れて眠りにつく朝に
君は優しく歌い続けてくれた
 難破船がやっと港にたどり着いく様に
  苦しみを抱いて
   君はこの部屋に辿り着いていたんだ
    
    だから
     眠らない君の記憶の為に
      僕は今でも歌い続けるんだ

       ごめんね

        君の哀しみと虚無と絶望に

         無頓着だった僕を

          どうか許してね

           ごめんね

            ごめんなさい

             青い月夜

              届かない

               記憶の羅列


                何気ない日常

         
                 何気ない夜に






















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