眠りたい

疲れやすい僕にとって、清潔な眠りは必要不可欠なのです。

2024-05-30 | 
逃避した錯誤
 予感を孕ませ
  云えずじまいの言葉を
   飲み込んでしまう

 おそらくは
  世界の困惑を余儀なくされた瞬間
   神経が磨耗されるのだろう
    歯車にも似た
   耐えず混乱を予期させた
  不都合な解釈
 原因を探るのは無意味な事
座禅を組んだ
 背中と腰に鈍痛が走り
  わずか十分かそこいらの修業
   畳に寝そべって
    自堕落な我に塗れた

  僕は
   折れて使い物に為らなくなった
    羽の毛先を撫で
     飛べない空を見上げる
    惜しむらくは
   まだ飛んでいた記憶が生々しい傷跡
  賛美した祝祭は
 祭壇の前で生贄として捧げることになる
実際は
 多分 そんな物だろう
  夢見 破れ ひれ伏す
   安易な理想郷が設定された
    情報の困惑の中
     マネキンみたいな実存の無い
      磨耗した存在
     幾ばくかの
    幸せの形をしたニュースを
   必死に探し
  美食と旅の話ばかりを繰り返す
 辟易して
仏壇の前で線香を焚き
 思わず溜息を促す
  沈黙のありか 
   精神性は
    網戸の隙間から入ってきた蚊の音に悩まされる

   明日はまた平穏を装うのだろうか?

  折れた羽というのは
 けっこうかさばるよ
  かといって
   むしり取って捨てるには
    そんな勇気は僕にはないね

     だから
  
    僕等は希望を観測する

   風が強い日

  もう一度試さなくっちゃ

   飛べるかもね

 
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散髪

2024-05-28 | 
陽射しが眩しい
 僕は緑色のソファーに寝転がり
  ビールを飲みながら壊れたラジオを悪戯していた
   チューニングの合間から
    ノイズに混ざった奇想曲が流れる
     すごく技巧的なヴァイオリンだった
      指使いを考えて
       あたまがこんがらがって考えることを放棄した

       少女がつまらなさそうに絵本を開き
        ぱたん
         と閉じて
          ラジオで遊ぶ僕を冷静な視線で眺めている
           
           アイスキャンデー舐める?

           試しに云ってみた

          いらない。

         少女は手短に答えはっか煙草を咥えた

        僕はソーダー水のアイスキャンデーを舐めながら
       古臭い骨董品のラジオを調整した
      少しつまみを触るごとにニュースやらゴシップやらが
     離れ島に漂流した塵くずの様に散乱した
    僕はその話が自分の国の話なんだ、と認識するのに
   もの凄く手間取った
  まるであの超絶技法のヴァイオリンの運指の様に難解すぎたのだ
 そうして陽射しが眩しすぎた

  決めたわ。

   唐突に少女が宣告した
  
    何を?

     あなたの髪を切るのよ。

      あまりに突然の状況に僕は混乱した

       髪を切るの?

        そう。

        誰のさ?

       もちろんあなたのよ。

      彼女は立ち上がって屋根裏部屋に駆け上がり
     はさみとコートを探し始めた
    ばたん、ばたんと音がする
   ラジオのノイズよりもひどい音がだった

  ね、椅子を持って庭に出てて
 あたしが準備する間に。

本気なの?

 はやくしなさい。

  少女は冷酷に言い放った
   まるで撤回できない公的文書のような表現だった
    僕はビール瓶とラジオと椅子を引きずりながら庭へ向かった
     他に選択肢が見つからない危機的状況だった


      


      空が青い

     僕は緑色の瓶を片手に
    コートを首に巻いて庭の真ん中で椅子に座り
   ぼんやりと流れる白い雲を眺めている

  ねえ
 どうして僕の髪なのさ?

  3種類のはさみを鑑定しながら彼女は答えた

   これからもっと暑くなるわ。
    あなたの髪じゃあ、すごく汗をかくのよ。
     涼しげに過ごす為には散髪は必要不可欠なの。
      大体、
       大体、あなた最後に髪を切った記憶は何時なの?

       論理的で分り易い説明だった
        夏が来るから髪を切る
         反対意見の入り込む余地は無かった

         ちょき、ちょきと音がする

         僕の長過ぎる前髪が無残に切り落とされてゆく


        君さ

       誰かの髪、切ったことあるの?

      ないわよ。

     事も無げに云って少女は切れの悪いはさみと格闘している
    すっかり諦めた僕は緑のビール瓶を揺らしながら
   ラジオのスイッチを悪戯していた

  遠い何処かの国のニュースが流れた
 いなくなった誰かが暮らす何処かの街角の噂話だったのかも知れない
僕はぼんやりと空を眺めた
 何処かに繋がっている筈の世界を想像した
  
  どうしてこんなにひどい癖毛なのよ。

   僕の髪を指でくるくる巻きながら少女が厄介そうに問いかけた

    性格と一緒じゃあないの?

     ふ~ん。

      奇妙に納得して彼女ははさみを動かし続けた
       ラジオから知らない戦争の話が流れた

        消して。

         静かに少女が呟いた
          記憶が鮮明すぎるのだ                                                                                                   僕はラジオのスイッチを切って庭に放り投げた
            外界から遮断された緑の庭で
             風の音を聴きながら僕等は散髪を続けた
              まるで慰霊の日の儀式の様に


              少女が木漏れ日のように歌を口ずさんだ
             聞き覚えのある歌だった

            何処で憶えたの?

           屋根裏部屋のあなたのレコードの曲よ。

          思い出した
         ピンクフロイドの曲だ
        
        「あなたがここにいてほしい」

        そういえば晩年のシド・バレットの記憶が無い
       彼は何を想い長い空白の時間を過ごしたのだろう

      少女の歌声が優しく流れた

     ぼんやりと酔いが回り始める


    あなたがここにいてほしい




   まるで届かない祈りのように歌が風に吹かれた







  


     



         
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風鈴の声

2024-05-24 | 
君がいなくちゃ僕は僕でいられないよ
 青い林檎を齧りながら君がくすくす笑った
  僕はジャックダニエルの甘い香りを匂い
   喉元に流し込んだ
    深夜2時で夜明けの前触れ
     戯言を交わす呼吸で
      君はフィリップモーリスに灯を点ける
       
       ねえ
        その楽器は誰の記憶なの?

        君が囁き安眠を促す
         林檎の酸味の舌触りで
          僕は地上を俯瞰した
           電気信号だよ
            唯の

            ぴぴぴ

            お日様を願う月の引力
             僕等はあの日誰かに処遇された
              鎖で繋がれた両手を
               必死に足掻いた
                やがて血が流れ
                 僕等はくすくす笑うのだ

                 君が作ったしおりを
                  ルー・リードの詩にはさんだ
                   世界は自転し公転し
                    僕等はあの緑の草原へ急いだ

                    どうして君は
                   マルクス・アウレリウスの「自省録」を
                  片時も手放さなかったのだろう
                 僕は苦しい記憶を辿り
                世界の中心点で
               古臭いギターを奏でるのだ
              静かに 
             片時も側を離れないでよ

            ぴぴぴ

           残留思念が交差する赤信号
          往来を行き来する群集の群れが
         激しく意義を唱える
        僕等は
       街の喧騒から遠く離れた草原で
      強い風に吹かれた

     ね
    もしも

   君が哀しげに僕の言葉を塞いだ

  哀しいけれど
 この世界にもしもという不確定要素は存在しないんだ
君がいて
 僕がいない様にね
  
  風鈴の歌
  
   風がそよぐ

    ちりんちりん

     君が狐の面を被り
      赤い舌を出す

       ごめん
        電波が乱れているんだ
         君の声が聴こえない

          君はくすくす笑った

           それでいい

            それでいいんだよ

             僕等の声は届かない

              柔らかな嘘と欺瞞の世界

               甘ったるいバーボンの香りに似て

                地上に降り注ぐ乱立したテーゼ

                 厚い夏の日の午後

                  レモネードの酸味と

                   風鈴の声

                    永遠に続く

                     君の声


                     くすくす


                      くすくす


                       やがて何時か

                         
                        本当の朝に目覚めるまで






















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青のシグナル

2024-05-22 | 
優しい哀しみが嘘でないなら
 じっと黙って海を見ている
  重く垂れ込めた雲の下
   深い青を見つめている
    僕は煙草に火をつけ
     少女は水筒に入った珈琲を飲んでいる
      青は青のままで
       だから僕たちは永遠の青の住人だった
        全てが哀しみの憂いを帯びた青の世界だった

         絶望と希望の成分が一緒なんだ

          君は厳かにそう告げ
           祭壇に捧げる様にグラスの葡萄酒の赤をかざした

            古びた教会のステンドグラスの窓から
             微力な光が差し込んでいる
              今にも霧散する大気の中
               僕らの魂もまた無力だった

               君の故郷の海は綺麗なんだろうね

                僕は黙りこくって葡萄酒を飲み干した

                 忘れたよ、そんな昔のこと

                  君は僕の返事に満足して微笑んだ

                   きっと綺麗な青のはずだよ

                    そう云って
                     手のひらに十字架を握った

                    ね

                   祈ろう

                  何をさ?

                 世界が永遠に青である様に。

                だがしかし
               僕の手のひらには何も存在しなかった
              哀しいけれど僕は何ひとつも持てなかった
             古ぼけたラジオから流れる音楽だけが
            僕に魂のありかを教えてくれた
           君は僕に魂の無限を伝えようとし
          僕は君にルーリードの詩を伝えようとした
         教会の静けさの中
        僕らはただ葡萄酒が無くなるまで
       永遠について考察した

      永遠

     優しい哀しさのことをそう呼ぶんだよ

    君はそう云って存在を現象から乖離させようとした
   そして僕は君の魔法を信じていたのだ
  緩やかな螺旋
 魂の邂逅
その儀式の為
 僕らは葡萄酒を飲み続けた
  ラジオからヴェルヴェト・アンダーグラウンドの曲が流れた
   
   哀しみ

    君のいない世界を羅列する夜

     僕には捧げるものが何も無かった
      
      だから深夜三時にバーボン三杯分祈るのだ

       少女がギターで「哀しみの礼拝堂」を弾いた

        哀しみ

         優しく密やかな熟れた果実のたくらみ

          試行錯誤する夜が

           夜が青であるといい

            青い世界が永遠に続く様

             祈るのだ

              ウイスキー三杯分の祈り

               決して届かぬ想い達

                

                青の緩衝




                優しく哀しい青
















    

        
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遠い夏休み

2024-05-17 | 
変わり行く景色の中で
 僕らはただ口笛を吹き続けてみせた
  誰かの影がグランドの夕映えに長く伸び
   校舎の窓から風が吹き抜けた
    誰もいない図書室
     氷点下まで下げられた温度で
      古びた本たちの背表紙をそうっとなぞった
       誰もいない廃墟
        誰もいない世界
         前言撤回された日記帳は
          白紙の言い訳をさらし
           空をなぞったファインダー越しに
            一眼レフのシャッターが空間を切り取ったのだ

           胃の調子がおかしかった
          冷たい物の取りすぎだね
         君が可笑しそうに笑った
        ソーダー水のアイスキャンデーを舐めた
       みんな何処に消えたんだろうね?
      君は微笑み、どうしてさ?と不可思議な表情を浮かべる
     だってさ、
    あんなにたくさん居た奴等も誰一人居なくなっちゃったんだよ。
   違うよ。
  君が訳知り顔でこう答えた
 始めから存在していなかったんだ。
美術室の静物画のデッサンが可笑しそうに笑った
 始めから?
  そう。始めから何も存在していなかったんだ
   確かなものなんて此処には存在しないんだ。
    用意された未来なんて最初から無かったんだよ。

     点滴が零れ落ちた
      病室のベッドの上で白いシーツに包まる
       古ぼけた時計が時を刻む
        あの音だけは。
         あの時計の指し示す時間の音だけは変わらないね。
          君は僕の脈拍と体温を
           手馴れた手つきで調べた
            熱があるよ。
             熱?
            そう。君の体温。
           アンリ・ミショーの詩集を閉じて
          君はジャン・コクトーを開いた
         過去を閉じ
        未来を開こうとする
       ホルへ・ルイス・ボルフェスの夢魔たちが笑った
      笑われてばかりだね。
     誰に?
    友達やら同級生やら通行人やら背景やら
   白い壁やらかすんだ視界やら運命やら
  やがて薄れ行く記憶やらぼんやりとした意識領域やら
 赤いワインの一滴たちに於いて。

小説の一ページを破りとって
 君は丸めて僕に投げつけた
  これで世界は封印された。
   厳かに君がつぶやく

    その破かれた本は
     駄文をしたためた僕のノートだった

      君の記憶が紛失したんだよ
       君がくすくす微笑んだ

        当たり前の顔をしてなくっちゃ駄目だよ

         世界が未分化で不完全な物だなんて

          委細承知のことだっただろう?

           確かなものなんて

            存在しないんだ

             始めから


            呼吸の位置を調べたい

         
         マイヤーズ・ラムをコーラで割った


          コークハイの哀しげな郷愁
       


             遠い夏休み



         







   
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ハイビスカス

2024-05-12 | 
ハイビスカスをお風呂に浮かべて
 賛美の歌を口ずさむ
  君の呼吸音は一定で
   静かにただ呼吸していた
    真昼の三時頃
     湯船にお湯をはって
      ぼんやりと景色を想った
       子供たちの捧げる歌

       空は気だるげに飛翔した
        カモメ達の世界
         僕らは空を愛す
          壊れかけの複葉機で
           世界の果てまで飛行する
            地上がゆっくりと回り
             世界は球体だった
              たどり着いた亜熱帯の地は
               不快指数が高く
                水浴びにちょうど良かった
                 
                 君の昔を
                  想っていた
       
                 ハイビスカスの咲く頃
                僕らは宙空を舞う魂だった
               ね
              忘れないでいてね
   
             そう云った君の視界から僕が消え失せ
            惰眠が僕から
           君の存在を曖昧にする
          ページをめくった
         あたらしい知覚の扉が開くのだ
        気だるい深夜
       バーボンを舐め自堕落に世界を紡ぐ
      子供達がはしゃいでいる

     月光
    青い月明かりの世界で
   帰りを待っている
  カモメの世界
 日常を凌駕した恣意のもと
僕らは明確な存在足りえるのだ
 必要な栄養素を蓄え
  呼吸を備蓄する
   酸素マスクの向こう側
    皆がオレンジ色の蛍光灯の舌で
     お茶会を開くのだ
      いっそ
       小さなお茶会
        誰かが去り
         残された我々がマスターに任命された
          暖かな紅茶を淹れなければ
           ね
            忘れないでいてね

            忘却の仮面を被った嘘
             君は忘れたはずの記憶を所持していた
              君の昔を

              ハイビスカスの花を知っているの?

             少女が緻密なデッサンを描きながら尋ねる

            うん
           僕の島の花だからね

          どんな色をしているの?

         忘れたよ
        遠い記憶と共に

       匂いは?

      それもとっくに忘れたよ

     あなたの島は何処にあるの?

    地球儀を回し

   僕は答えるのだ

  忘れたよ

 忘れてしまったんだ

やがて海だった領域は

 埋め立てられ

  コンクリートの壁になる

   それは誰にも止められないのだ

    カモメたちは飛ぶ空を忘れ

     僕らは僕らの島を忘れてゆくのだ

      静かに

       静かに

        記憶のハイビスカスを想い

         君の憂いに僕は泣く

          琥珀のウィスキーを舐めながら

           僕は

            記憶の中のハイビスカスを想う

             消えてしまったよ

              くすくす

               子供達の無邪気は砕け散る

                くすくす

                 誰かが笑っている

                  ごらん

                   嘲笑された世界

                    僕らの忘れ去られた花の物語

                     僕らは


                      僕らは










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17歳

2024-05-06 | 
やがて風に舞うだろう
 桜が満開した石畳の坂道で
  花びらに邪魔されながら写真を撮った
   マリア像は不思議な微笑を湛え 
    思春期の僕らはただ夢を追いかけた
     17歳の春
      戻れない過去
       今でも呼吸する記憶たち

        長い石畳の坂道に慣れるには
         余りにも脆弱な精神だったはずだ
          僕らは寮の屋根に上って
           煙草を吹かし
            永遠に喋り続けた
             まるで熱病のように
   
             砕け散る破片
            それを記憶と名付けるのなら 
           指向性のハンドルマイクの如く
          注意して録音に望まなければならない
         かつて少年と呼ばれた
        君の饒舌なアナウンス
       昼休みにマイク・オールドフィールドを流した君は
      赤い舌を出した
     消えないで
    どうかお願いだ

   画面がちらつく視野
  薄れ行く記憶
 魚たちの世界
井戸の中の化石

 封印された刻印
  散髪屋で同じ髪型にされた
   春が来る
    同じように17歳の時間が
     国会で民主的に可決された
      「異議なし」
        深夜ラジオを毎晩聴いた
         電気信号が遊覧される
          気紛れな君の所作
           造作も無い事
            僕は空き部屋で
             ただひたすらに油絵を描いた
              どうして17歳だったのだろう?

               僕らは音楽だけを信じた

              ジャニス・ジョプリン
             シド・バレット
            キング・クリムゾン
           レッド・ツェッペリン

          そうして
         あなたの名前
        ジョン・レノン
       僕らは世界を手中に収めた
      「グレープフルーツ」と「スイミー」を読んだ
      君はだらしなく制服をはおり
     僕はヒトラーの「我が闘争」を暇つぶしにした
    ルドルフ・シュタイナーに傾倒した10代は
   入学と同時に保護者との対面を余儀なくされる
  
  どうして
 17歳だったのだろう?
 永遠を信じた

やがて

 やがて桜の花びらが舞うだろう

  祝福された

   懺悔のように

    木魂する

     一片の詩

      「呼吸しなさい」

       僕らは

        17歳だった




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100万回

2024-05-04 | 
空が高かった頃のお話
 白色の浮雲が青い空間を遊泳し
  浮き輪に掴まりながら空気の波に流される午後
   僕らの肥大した想像力は
    残暑の熱気で気球を草原から飛び立たせる
     やがて気球は地上から離陸し
      混沌とした思考から乖離する
       猫があくびをし
        人々がグラスを掲げて乾杯した

        蝉の声が鳴り止まない
         神社の階段に座り込み
          はっか煙草に灯を点けて
           ビールを飲む
            麦藁帽子を被り
             さんだるをぱたぱたとさせた
              気球が遊覧する
               Tシャツのジム・モリスンが微笑む
                ストレンジ・デイズ
                 知覚の扉

         図書室で貸し出された本達
        「100万回生きた猫」を眺めていた
       100万回生きれたら
      僕等は100万回泣くのだろうか?
     生まれ変わりが本当なら
    また地上に於いて
   混乱し路に迷うのだろうか?
  100万本の煙草を消費するのだろうか?
 
 残暑の午後
白い壁と白いシーツの病室で
 点滴がぽたりぽたりと時を刻む
  まだ三才の男の子はじっと歯を食いしばっている
   僕はベットの端に座り
    絵本を読んだ
     物語が終わると
      少年は不安そうにこっちを向いた

       ねえ、もう一回読んで。

       僕は絵本を最初から音読する
        繰り返し繰り返し音読する
         100万回読み聞かせる
          面会時間が終わるまで

          お外は暑いの?

          空が青いよ。
           僕が君くらいの頃には空はもっと高かったけどね。

          アイスクリーム食べたい。

          だめだよ。かわりにキャンディーをあげるからさ。

         僕等はレモンキャンデーを舐めながらくすくす笑った

        どうして洋服の叔父さん怒っているの?

       ジム・モリスンの顔に興味深々だ

      たぶん世界の不条理に怒っているんだよ。

     ふ~ん。笑えばいいのにね。

    僕は苦笑いした

   そうだね。

  ねえ、もう一回読んで。

 いいよ。

僕は物語のねじを巻き最初から世界を再構築する


  呆気ない出来事
   空の話
    病室の窓の風景
     調整された室内温度
      蝉の鳴き声

       少年は眠ってしまった

        僕は物語を読み続ける

         君が起きたら

         君が起きたら 

       いっしょにアイスクリームを食べようね


      

              

    

  
                   
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旅路

2024-05-01 | 
酔っぱらってグラスを割る夢を見た
 赤いワインが大量出血した血液の様に赤い溜まりを作った
  僕はそんな光景を何の感情もなく眺めている
   そんな夢だ

    君と旅に出た汽車の中で
     僕等は緑の瓶のハートランドビールを飲んだ
      駅の売店で購入したシュウマイをつまみにして
       他愛の無い戯言で笑った
        全席禁煙なのを知ってたかい?
         10年前に禁煙した君が皮肉に微笑んだ
   
          そのくらいの情報は知っているよ。
           
           なら禁煙すれば?

            紙煙草が駄目なら葉巻を燻らせることにするよ。

             僕の返事に呆れて君はビールを飲み干した
              汽車は何度か停車し沢山の人々が乗り降りした
               ぼんやりとそんな後継を眺めていた

                何時かは何時かにしか訪れない
                 過去は美化されやがて痛みが増えたり消えたりする
                  ただこの瞬間だけが世界だった
                   容赦の無い世界だった

                   宙空の中に満開の桜を見た
                    ごらん、世界はこんなにも美しいんだよ。

                    一瞬、黒猫の言葉が聴こえた様な気がした
                     僕は昔の様にグラスを路上に叩きつけるのだろうか?
                      酔っ払った足取りで舞台に向かい
                       おぼつかない手つきでギターを弾くのだろうか?

                       あの頃
                        近くの山から見える街の夜景が好きだった
                         あの沢山の灯りのひとつひとつに
                          それぞれの暮らしがあり人生がある
                           そんな風に想うと頑張れそうな気がした

                            いなくなった友人たちを想った
                             草原の中で
                              何度も彼等彼女等の名前を呼んでいた
                               けれども返事は無かった
                                やがて僕は彼等彼女等の名前を忘れた
                                 ただ呼び続けることだけが残った
                                  それが人生の大半になった

                                  ビールを飲み干してシュウマイを食べ終わると
                                   終点で僕等は汽車を降りた
                                    喫煙室を見つけて急いで煙草に灯を点けた

                                    僕等は駅からそう遠くない宿に辿り着いた
                                   温泉に入り
                                  それからビールを飲み続けた
                                 君が酔っぱらって
                                ジャニス・ジョップリンの歌を口笛で吹いた

                               あの頃の僕等はただ楽しくて
                              終わりが来るなんて誰も信じない

                            いつかまた
                           グラスを路上に叩きつけて粉々に割るのだろうか?

                          もう会えない君との旅の夢を見たんだ

                         元気そうで良かったよ

                        昼頃目覚めると

                       不思議と泣いていた

                      不思議と嗚咽が止まらなかった






















                
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