眠りたい

疲れやすい僕にとって、清潔な眠りは必要不可欠なのです。

旅の行方

2023-05-31 | 
青い空から魚の影が消える頃
 柔らかな風が
  やがて消え去るであろう淡い心を
   くるりくるりと上昇気流に乗せた
    気球は気まぐれに揺れ始め
     あの丘まで約一時間の計算だった
      古臭い懐中時計を伯爵は悪戯していた

       どうして僕はこの気球に乗っているんですか?
        伯爵は葉巻を加えて上品に僕の質問を聴いていた
         どうして乗っているのか?それはあまり問題ではない。
          問題は、
           君が何処へ向かうかだ。
            あの丘を抜ければこの世界を抜ける
             そこからは君の自由意志にまかせられている
              選択権は君の手のひらの中だ
              あるいは
             風に流され永遠に漂流を続ける
            すべては風まかせといったところだ
           あの大航海時代の海賊達の様に
          それはそれで趣きがあって良いものだよ
         下を見下ろすと緑の草原が広がっている
        僕はぼんやりと移ろいゆく世界を眺めていた
       僕は何処に行くべきなのだろう?
      伯爵はワインの瓶とグラスを取り出した
     まあ、そう急がなくても良かろう。
    一杯やりながらのんびり考えればいい
   僕らは地表からだいぶ離れた場所で乾杯をした
  君はどうしてそんなに急いでいるのだね?
 葉巻をすすめながら伯爵が尋ねた
ワインを舐めながら僕はひとしきり考え始めた
 僕には行き先など関係なかった
  目的地の無い旅
   無目的な怠惰に身を揺らし
    僕は焦り始めた自分を考察してみたのだ
     待つ人もいない 第一
      第一僕は僕自身が何者かなのかすら知り得ないのだ
       ただ哀しい郷愁と焦燥感だけが心を掻き乱した

       僕が気球に乗り込むのを皆が反対した
        伯爵はその数多くの奇行で有名人だったし
         僕は彼の気球を膨らませる仕事に参加していただけの話だった
          気球が空に上がる準備が整うと
           伯爵は葉巻とワインのついでに僕を気球に乗せた
            だって
             酒のつまみには話し相手が必要だろう?
              伯爵は真面目な顔つきで説明した
               それも忙しそうな子供の話はとかく面白い。
                僕は子供ではないですよ?
               伯爵は微笑んだ
              君は積極的な思考停止をした
             だから君の心は15才のままで時間を止めた
            子供のままなんだ。
           
           僕は伯爵に丘に辿り着くまで話続けた
          嬉しかったこと 哀しかったこと
         失ったものに関して
        どうして僕があわただしく毎日を暮らしているのか
       僕は僕自身が誰なのかはっきりと確証出来ないこと
      僕は僕自身をどんな方程式を使っても証明出来なかった
     伯爵は優しく話しを聞いてくれた
    
    そうして一時間がやって来た

   あの丘に辿り着いたのだ

  さて。
 君は答えを出したのかい?
この世界を抜け出すのかどうか。
 僕は答えられずにいた
  伯爵がくすくす微笑んだ
   ワインがまだ残っている
    もう少し話し相手になってもらってもかまわないだろう?
     伯爵は新しい葉巻に灯をつけた
      もう一周、この旅に付き合いなさい。
       焦る必要は無い
        焦って出した答えなど面白くも何とも無い
         君はこの世界をもう一度旅するべきだ
          なぜなら、

          君はこの世界が出した宿題を提出してないのだからね

          それに

          ワインがまだこんなに残っている

          伯爵がくすくすと笑った

          ワインが残っているよ

          
          旅を続けよう




          伯爵の声が優しく耳に木霊した



          旅を続けよう










コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

深緑

2023-05-23 | 
深緑の深遠にそなえて
 出るはずも無い 旅の準備に余念が無い
   (フェアリー・テイル、しっぽが誘う)

 哀しみの午後
  描写は確実で
   さらに感情を混乱させる

でたらめな合図
 「ガ カ」 咀嚼して嚥下する
  喉の動きに良く似た動き

アダムの始めの妻はリリス 彼女は蛇になった

 アレイスター・クローリーの城
昇りはじめた 階段
 今 何階にいるのだろう?

 深緑のカーペットがフロアの一面を敷き詰めていた

 かつおぶしと煮干しでだしをとる
  梅干は夏ばてにいいんだってさ
 おばーがいっていたよ

塩分控えめの病院食
 カーテンは
  深緑だった



コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

哀しい青の空の下

2023-05-06 | 
哀しいくらい青い空の下
 僕は清潔な空気に触れながら青い林檎を齧った
  此処が現実なのか遠い国の出来事なのか
   今日も分からずにただワインを舐めている
    お腹が空けばフランスパンを齧って
     安い酒で胃袋を満たした
      知らない国の知らない鳥の鳴き声が聴こえた

      飽きもせず空を眺める僕に
       君は微笑み声をかけた

        あんたの世界はまるで夢だね

         夢?

         そう。

          あんたの構成物質でこの世界は構成されているんだ。

           君はそう云って齧りかけの僕の林檎を奪い取った
            それからシガレットケースから葉巻を2本取り出し
             1本に灯をつけ
              僕に手渡した
               キューバ産のパルタガスを燻らせ
                ただ静かに水面の表層を撫でた
                 哀しいくらい青い空の下で

                 あんたはこの空虚な世界を愛しているのかい?

                誰も彼もが立ち去った今生に

               いつまでもしがみ続けるのかい?
              まるで
             荒唐無稽な物語を創り出す
            チャールズ・ラトゥジ・ドジソンや
           サン・テグジュヴェリの様に
          いつまでも此処にいるつもりなのかい?

         僕は分からない、

        と呟いて白く灰になった葉巻の先端を
       丁寧に白い灰皿に落とした
      まるで忘却された記憶の欠けらの様に

     あんたが望むなら
    おいらはあんたのその悪夢から逃れさせてあげるよ
   そうしてまた新しい世界を覗かせてあげるよ

  黒猫のハルシオンがジャック・ダニエルを舐めながらそう云った

 悪夢?

そう。

 あんたが探しあぐねた路地裏の界隈を抜け
  あんたが永遠に探し続ける誰かの影に
   追い着けれる様に時間と空間を超越させてあげれるのさ

    猫は美味そうに葉巻を燻らせ
     紫色の煙を舌先だ転がした

      上等の葉巻だね。

       猫は独り言を呟き僕の深層心理を模索し始めた

        全てはね、夢なのさ。

         この世界は青い月明かりの下の世界
          誰かを待ち続ける街角の街灯なのさ
           あんたは一歩も動けずただ立ち尽くしているんだ
            悪夢だよ
             決して目覚めること無い世界の緩衝
              もう魂は血流が無くなって
               感覚すら探し出せないんだ

               僕は
              ピアノに向かって歩き出し
             鍵盤の正しい音を探して歌を紡ぐ
            静かな界隈
           雑踏とした意識の向こう側

          不意にフィルムの中に
         あの影を見つけた
        もう永遠に会うことが叶わない意識伝達
       君は何処の物語の世界に紛れ込んでしまったのか
      お酒を浴びるほど飲んだ時だけ
     磨耗された記憶の絞りかすが存在を訴える
    
    ねえ
   何処にいるの?

  僕の問いには答えず
 君の影がしらんぷりして歩き出す
僕は12の扉を一つずつ開け
 その全てに困惑する
  どの世界が現実なのか
   失われた世界をさまよっている
    哀しいくらい青い空の下

     もっと飲みなよ

      誰かがそう云ったけれども
       それが誰なのかすら分からない
        オイルサーディンの缶詰めを空けて
         僕らはいつまでも飲み続けた
          誰も騙そうとはせず
           誰も騙されなかった
            注ぐ酒が切れるまで
             僕らは優しい夢をみた

             僕らは僕らの世界の存続の為に
              この世界からの脱出を試みた
               偽造パスポートの不備で
                僕だけがこの日常に取り残されたのだ
                 青い空の下
                  悲しみだけが伝染した

                  ねえハルシオン。
                 僕の額にはしるしがつけられているのかい?

                猫は哀しそうに答えた

               残念だけれど
              あんたは預言者ノアの箱舟には乗り込めない
             あんたの額のしるしは原罪なんだ
            それを誰かが贖罪する日は永遠に来ないんだ
           だからあんたは水の底の世界の静けさに
          魂を拘束されているんだ
         そうしてそれを本当に望んだのは
        あんた自身なのさ

       深夜に豆のスープを飲んだ
      胡椒が利きすぎている
     昼食を終えると
    僕は図書室でヘルマン・ヘッセの「蝶」を眺めた

   君が微笑んだ
  長い前髪が風に揺れた
 今夜も眠れそうも無い
深酒を繰り返し
 僕は途方に暮れる
  旅立つ箱舟を見送りながら
   いつまでも夢の中でまどろんでいる
    いつか世界の終わる頃
     ぼくは水の中から青い空を見上げ
      忘却された記憶の箱を抱いている

       大好きだよ

        君の事

         もしもね

          世界が終わっても

           君だけを探しているんだ

            可笑しな話だけれども

             探しているんだ

              青い空の下


               哀しみの染みが

                どんなに洗濯を繰り返しても

                 消えないんだね

                  額のしるしは




                  哀しいくらい青い空の下で














   
コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする