眠りたい

疲れやすい僕にとって、清潔な眠りは必要不可欠なのです。

消失した梅干のおにぎり

2023-11-21 | 
困惑した表情で
 撮影の為交通規制された道を眺めた
  回り道をしなければ
   けれども
    僕は何故か疲れ果て
     青い空を見上げて煙草に灯を点ける
      今日は天気のいい日だった

      ジュリアーニの作品集を車内で流し
       あくびが出るほど筋肉が弛緩した
        もう戻れない路地裏の店を想い
         あの街でのデタラメな暮らしを想いだそうと
          前頭葉で記憶を再生させた
           もう再生機自体に故障が発生しつつあり
            それが夢なのか現実なのか
             余り明確ではない領域の世界
              陽光は優しく地上に降り注ぎ
               断片がガラス球の様に仄かに光る頃
                眠っていたらしい
                 ワインのボトルの中身が
                  半分になっている

                 星が観たいと君が云ったので
                僕らはおんぼろの愛車に乗り込み
               部屋を出て街灯のない世界を模索した
              途中でコンビニに寄り
             おにぎりとビールを買った
            ピクニックみたいだね
           僕らはクスクス笑った
          深夜零時の時刻にラジオから
         古い音楽が流れた
        梅干と鮭、どっちにする?
       君が真剣に尋ねた
      じゃ、鮭。
     困ったわ、わたしも鮭がいいの。
    ひとしきり悩んで君は名案を探し当てた
   半分ずつにすればいいのよ。
  半分にされた鮭のおにぎりをくわえて車を走らせた
 水筒の暖かい紅茶を飲みながら
僕らは世界の果てまで旅をした
 崩れそうな世界
  ガラス細工の想いで
   それが最後のふたりの旅だと
    互いに言葉に出来なかった
     別れがあり出会いがある
      たぶんそんな物だろう
       ただ星が観たいと君が呟いたのだ
        それとも君は星になりたいと云ったのだろうか?
         今となっては曖昧な君の独白
          鮭のおにぎりを食べたが
           梅干の奴の記憶が消失されていた
            ラジオから「ニューシネマ・パラダイス」の
             音楽が流れた

             ある時期
            僕らは平日の映画館によく足を運んだ
           僕はまだ学生で
          あなたは馴れない会社勤めだった
         映画を観終えると
        女性客ばかりの洒落た喫茶店に連れていかれた
       僕らが人生でいちばん映画を眺めていた時代だ
      「ベルリン天使の詩」のパンフレットを
      あなたは大事そうに抱え
     僕は何故、ルー・リードがこの映画に出演したのか
    珈琲の黒の中を見つめて考え込んでいた


  お見合いするの。

あなたが視線をまっすぐにして、そう云った。  
 僕は、そうですか。と呟いて珈琲の黒に埋没した。
  
 ねえ。星が観たいわ。

  それが彼女が云った最初で最後の願いだったのだ

   僕らの車はなんとか止まる事無く
    静かな山中の展望台まで辿り着いた
     空気がひんやりとしていた
      清潔な空気にたくさんの星が見えた
       天体望遠鏡が必要だったわね。
        何かを後悔するように君がささやく。
 
         あの灯りに。
          あの灯りに暮らしがあるのよ。

           遠い街灯りを見つめて君が
            諭すように僕の耳元に情報を伝達する

             あなたのこと多分忘れてゆくの。
              ゆっくりとね。

              僕はビールを飲みながら彼女の横顔を
               記憶しようと一生懸命だった

               あなたを想い出せなくなるの。

               彼女がもう一度つぶやいた

               それが暮らしで現実だった
              映写機の写し出す夢は終わったのだ
             ゆっくりと幕が降り始め
            皆現実と夢の狭間で途方に暮れるのだ

           映写機の世界

          僕はあなたの顔をもう想い出せない

         星を眺めた記憶だけが残される

        時々考え込むんだ

       梅干のおにぎりを食べる時にね

      ゆっくりと忘れてゆく

     昔、見た筈の映画のように






    
    
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対峙

2023-11-03 | 
この不安は何処から訪ねてくるのだろう
 辛らつなる情景は
  僕らからしあわせを奪って離さない
   雲の流れ
    波の音
     風の歌
      青い月の夜

      道化師の佇むパレードの名残は
       とても寂しく哀しい
        そっとくちびるに煙草を咥えるのだ
         誰かが呼吸をし
          誰かが呼吸を忘れる時間
           その情景が映し出されたスクリーンの向こうには
            何時かの窓際が現れる

            ごらん

             やがて星が見えるよ

             黒猫が優しく囁き
            僕らはいつもの窓から外へと逃避行するのだ
           口笛が聴こえた
          加速度的に速さを増す日常は
         安易な狂騒を奔走する
        僕はただ優しい眠りを求めている
       皆がパレードに疲れ優しい眠りを与えられる様に

     僕らからしあわせを奪って離さない

    僕らの孤独と不安は
   何時か僕らが前世に於いて知覚された記憶
  魚の影を追う夢
 世界
ガラス細工の玩具箱
 其処から夢を紡ぐのだ
  
  ごらん

   やがて星が見えるよ

     だから

      安心してね

       やがてこの強い風も収まるだろう

        ごらん


         しあわせを











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