眠りたい

疲れやすい僕にとって、清潔な眠りは必要不可欠なのです。

距離

2014-01-28 | 
この距離がどのような距離なのか
 僕は知らなかった
  ただ触れた君の指先に
   哀しい結末を予感した午後
    そっとささやく言葉に
     明日の幸せだけを願った永遠の終焉
      きっと永遠など無かったのだ
       無論意識は解体され
        無駄な微笑がステンドグラスの窓の向こうの景色を覗かせ
         たなびいた白線は
          多分怠惰な二日酔いの頃合で
           早く夏になればいいと想った
            そう想った

            切なさの階層を
             ただ漫然と歩く深夜の散歩には
              青い月明かりが必要不可欠だった
               月とプラチナの距離
                徘徊した運命の果てで
                 君は何を想い
                  僕は何を捨てたのだろう
                   星屑が散りばめられたガード下
                    アンニュイに模索した希望は
                     いつしか忘れ去られた
                      意識分解

                      君が歩く
                     てくてくと
                    浮遊する僕の背景が
                   周りの蒸気機関の出力に比例して
                  もっと石炭をくべろよ
                 もくもくとした白煙は
                まるであの夏の積乱雲のように綺麗で
               瞬間僕はソーダー水のアイスキャンディーを忘れた
    
              おいでハルシオン
      
             そう云って少女は黒猫を従えた
            黒猫が退屈そうに欠伸をした
           僕は旧友の猫の怠惰に微笑む
          やれやれ
         君等との距離は微妙だよ
        ほとほと神経を磨耗するね
       ハルシオンはそう呟いてミルクを舐めた
      
      ね
     君、ミルク嫌いじゃなかったかい?

   僕の問いに黒猫は皮肉に赤い舌を出す

  物語をこれ以上ややこしくしないでくれ
 猫とミルクの距離は密接な関係にあるのが基本だろう?

呆れた面持ちで君ははっか煙草に灯を点ける
 少女が消え
  その影だけが残った
   ハルシオンが警告する

    永遠なんて在りはしないのさ
     すべからく全ての事象は消え去る
      跡形も無く綺麗さっぱりと
       この世界に存在する全てに意味はないんだ
        全ての意味はノアが
         あの箱舟で持ち去ってしまったからね
          君や少女は忘れ去られた事柄なんだよ
           とっくにね

           高層ビルの上で煙草を吹かした
            青い月明かりに染まった青の世界を俯瞰した
             君の声
              君の仕草
               影の行方を追って此処まで来たんだよ
                何度も生まれ変わってね
                 僕はコートを纏って
                  楽しそうに微笑む黒猫に云った

                  行こう
                 此処じゃない
       
                それでは
               緑の草原へと足を運ぶかい?

              ハルシオンが指を鳴らした

             ぱちん

            世界は一瞬で緑の草原になった
           繰り返される事象
          永遠なんて在りはしなかった
         少女の飲みかけの紅茶の
        齧りかけのシナモンステック
       僅かな手掛かりはそれだけだった
      鼻をくんと鳴らして
     ハルシオンが云う

    行こう
   あの方角から香りがする
  そして冷ややかに僕の表情を覗った

 やれやれ
君等との距離は微妙だね
 ほとほと神経を磨耗するね

  僕はてくてく草原を歩いた

   気をつけるんだね
    永遠なんて在りはしない
     君は誰かをいつまでも探し続けるけれど
      その存在が何だったのかさえ忘れてしまっている
       ごらん
        あの粉々に砕け散ったステンドグラスの欠片の一つが君だ
         もうもとには戻らないんだよ
          不可逆なのさ
           磨耗した頚椎と一緒なんだよ
            もう戻れないのさ

            それでも
             僕は旧友との再会を夢見る
              数え切れない夜に寝て
               眠りの中で夢を見る

               夢と現実との界隈

              戯れた酔っ払いの

             戯れた意識分解

            その先に

           その先に

          行こう


         行こう













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逃避行

2014-01-21 | 
哀しいくらい寒い夜
 街灯の青の下で彼等は煙草を吹かした
  僕は気ずかれない様に息を潜めて
   灯りを落とした部屋の窓のカーテン越しに
    その奇妙な光景を覗き込んでいた
     黒塗りの車が3台やって来て
      エンジン音を切って静かに配置された
       彼等や車はまるで何か意味を持ったオブジェの様だった
        君はフランスパンの切れ端を咥え
         ワインでパンを胃袋に流し込みながら
          手馴れた手つきで楽譜やら楽器をケースに忍び込ませた
     
          ねえ
           彼等は全体何者なんだい?

           僕の質問には答えず君はこう云った

            煙草持ってないかい?

           僕は黙って銀色のシガレットケースを差し出した

          一本頂戴。
  
         咥え煙草の君が気だるそうに呟いた

        急いで。
       もう此処にもそう長い時間いられない。

     いったいどうしたのさ?

    君はくすくす微笑んだ

   彼等が現れたんだよ。
  僕等は逃げ延びなくっちゃあいけない。

何処へ、さ?

 世界の果てまでだよ。

  僕等はなにもしちゃあいないじゃないか?
   ただ寒い夜に暖炉の前でお酒を飲んで音楽をしていただけなのに。
    不条理だよ。
     悪いことなんか何もしちゃいないのに。

     君は煙草の吸殻を灰皿に投げ捨て
      聞き分けの無い僕を皮肉に笑った

       理由なんてありはしないのさ。
        条理なんてそもそも存在しない。
         世界は不条理に出来ているんだ。
          彼等に僕等の言い分は通用しない。
           彼等が現れたら戦うか戦いを放棄するしかないんだ。

           闘いを放棄するって?

           逃げるんだよ。
            もうあの国のパスポートは偽造してある。
             僕等は仲間の伝言に従ってこの世界から逃避するのさ。

             この世界を捨てて?

            それとも、
           それとも君は彼等と戦うことを望むのかい?

         君は真顔でそう尋ねた

        嫌だよ。
       もう誰かが傷つくとこなんて見たくない。
      僕も闘いを放棄するよ。
     行こう。
    逃げよう。
   一緒にさ、何処かの世界でまた二人で音楽の続きをしよう。

  君は哀しげに僕を見つめた
 それからこう告げた

偽造パスポートは一枚しかないんだよ。
 これを使って君は最果ての国に行くんだ。
  
  君はどうするのさ?

   僕はこの世界に残るよ。

    嘘だろう?冗談だろう。
     奴等ピストルを持っているよ。
      嫌だ、一緒に逃げよう。

      パスポートは一枚きりだ。
       僕が彼等を引きつけている間に君はこの世界から逃げるんだ。
        いずれこうなる事は君だって分かっていたはずだ。

        君はどうするの?
         闘うのかい?

         煙草に灯をつけながら君は微笑んだ

         今度君に出会うのは最果ての国でだ

         それまでその楽器を預かっていて欲しい。
          やがて君はこの記憶を少しずつ失ってゆくだろう。
           僕や仲間や彼等の存在を忘れてゆくのさ。

           だから。
            だから音楽を止めないで欲しい。
             音楽だけが僕等を繋ぐ鍵なんだ。

             どうか鍵を失くさないで。

             どうか歌い続けていて。

            玄関の扉が大きな音を立てて壊されようとしていた

           君は僕を窓の外に放り投げた。

          走るんだ。

         きっと上手く行かなくても走るんだ。

        僕は寒すぎる夜の街を走り続けた。

       深夜零時

      そこで世界は止まった

     走るんだ。

    きっと上手く行かなくても走るんだ。

   遠い記憶の声が木霊する

  いつか

 いつか最果ての国で君に会えるだろう

だから僕はきっと上手く行かなくても走る

 世界の不条理の構造の中を走り続ける

  走り続ける


  哀しいくらい寒い夜


   世界の果てまで


    今夜もグラスに記憶と孤独を混ぜて飲み干した


     くすくす


      君の遠い微笑が聴こえた様な気がした


       僕は黒いギターケースから楽器を取り出して


        そっと歌った

         そっと歌った














































                
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赤い雫

2014-01-05 | 
哀しい色をしたマフラーを首に巻いた君は
 僕が知らない国へと去っていった
  人々がまことしやかに云う
   あの子も最果ての国へ旅立ったのだと
    グラスのワインが零れて赤い染みを作った

     ねえハルシオン
      最果ての国について何か知らないかい?

      僕の質問に黒猫はあくびをし
       それから気だるそうに話し始めた

       最果ての国は球体で出来ている
        始まりも終わりも無い世界のことだよ

        僕はグラスにワインを注ぎ黒猫にすすめた
         ハルシオンは美味そうにワインを赤い舌で舐めた

          街の何番線のバスに乗ればその国に着くのかな?

           僕の言葉にくすくす微笑み
            彼は僕をたしなめる様に云った

            残念だけれどその質問には答えられない

            どうして?

            最果ての国に行くという事は 
           この世界から零れ落ちることを意味するんだ
          まるであんたが零したそのワインの赤い雫の様にね

         でも僕は最果ての国に行くつもりだよ

        どうして
       どうしてあんたは最果ての国を目指すんだい?
      あの国には映画館も無ければ街のスーパーも無い
     携帯電話も無ければ新聞もやっては来ないんだ

   隔離された世界ということなのかい?

 厳密に云うとそれは半分しか当たっていない
隔離されているのは我々が現実と呼ぶこの世界そのものなのだからね
 あんたは昼間からお酒を飲んでいる
  煙草を吹かしきっと空を見上げるだろう
   その時きっと青い空を見るんだ
    あの夏の雲に似た風景の中に
     最果ての国への扉があるんだ
      何者にも干渉され得ない緩やかな飛行
       知覚の扉が入り口なんだよ

       僕等はワインを飲み続けた

      僕は行かなくちゃいけないんだ

     どうして?

    ハルシオンが皮肉に髭をぴんと伸ばした

   僕は大切な友人の影を其処でしか見えないからさ
  夕映えのグランドに伸びた少女の影
 図書館の窓から眺めていた風景
僕はこころが震えて煙草に灯を点けるだろう
 世界の境界線が交差した時間と空間の狭間で
  きっと失われた君の影を追い続けるだろう
   もう誰の事なのかも忘れてしまった記憶の階層に於いて
      
    僕等は永遠に失われた何かだ
     途方も無い時間の流れを経てこの場所に辿り着いたんだ
      けれどもこの世界にも君の影は存在しなかった

       ラジオから何処かの国の戦争が話題に上る
        拡声器でアジテートする群集に紛れ込む
         酒場の裏で吐きながら青い月を眺めた
          公園の水の無い噴水に途方に暮れる
     
          ねえ

           君の居場所は全体この世界の何処なんだい?

            君に会いたい

             そうして僕は

              そっとグラスから

               赤いワインを零すだろう

                静かに

                 静かに












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