眠りたい

疲れやすい僕にとって、清潔な眠りは必要不可欠なのです。

月の住人

2016-10-25 | 
まどろみの螺旋階段
 どうやら此処は現実らしい
  ポケットウィスキーを舐めながら
   徘徊した路地は地図の存在意義を消失さす
    何処だい、此処は?
     誰かが酔っぱらって埃だらけの地球儀を持ち出した
      たぶんこの辺。
       小さくて長細い地表に
        赤インクで印しをつける
         此処かい?
          僕は世界の広さと小ささに呆れて
           そうっと煙草に灯を点けた

          空は澄み渡っていたし
         コンクリートの壁が
        微熱を帯びた身体の熱を放出さす
       嗚呼
      路地裏の店を物色した
     夜の帳が幕を引き
    深夜と呼ばれる仮想の夢を賛美する
   月面のクレーターには生物が存在するんだ。
  少年が月夜の空を見上げて酒を煽った
 ニュースを見なかったのかい?
連絡船が宙から帰還したばかりさ、生物の痕跡など欠片もなかった。
 訳知り顔の酔いどれが少年の言葉を皮肉に冷笑した
  でもたぶん。
   たぶん月には知的生命体が存在するのさ。
    少年は店の裏口のゴミ箱に登って大声で叫んだ
     
     「コチラ地球デス。聴コエタラ連絡ヲ。」

      なんだい、それ?
       僕はウィスキーをごくりと飲み干して尋ねた
        月の住人に信号を送ってるのさ。
         そんな事くらい知らないで。
          不服そうに少年が僕のウィスキーを取り上げた
           返事が返ってこないよね、いつも。
            少年は笑った
             100年前から信号を送っているんだけれど・・・。

              暖かくなってきた
               もう春の訪れがショットバーの
                小さな花壇にも花を咲かせた
                 青い花

               或る人が旅立つ
              僕らは哀しみにくれながら
             彼女にメセージを送り続けるだろう

           「コチラ地球デス。聴コエタラ連絡ヲ。」

          ゴミ箱に登っていた少年が
         派手に転んで地面にへばりついた

        そうしてその瞬間に想ったのだ

       此処は本当に地球だったのだろうか?

      花壇に咲く青い花

     青い月夜のささやかな幻想


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記憶の歌

2016-10-06 | 
流行廃りに平然として見せる午後の時
 すたれた歌を少女が口ずさみ
  手にしていた糸を手放した瞬間
   混濁した意識の虚構と共に
    赤い風船が空へ舞った
     とめどなく舞い散ったのだ

      原型を留めぬ暮らしは
       夢の残り香を懺悔させ
        浮遊する幾千の音と共に時間が沈殿する
         そう長くは無い
          「左の手がしびれるのかい?」
            男がふいに尋ねた
             どうして知っているんですか?
            男はかまわず言葉を続ける
           委細かまわない
          が、手のひらのほうかい、手の甲のほうかい?
         指先に時々感覚が無くなるのです
        確か
       レントゲンでは頚椎の一部が磨耗していた筈だ
      違うかい?
     僕はため息をついて空に消えた赤い風船の記憶を想い出す
    「しびれるのは左手だね。」
    男が確認し満足そうにうなずいた
   僕は肯定もしなければ否定もしなかった
  まるである種の流行の歌が流れてきた空間の空虚な想い

 友よ
歌っておくれ
 その古びた歌を
  酔いどれて哀しみが麻痺するまで
   その瞬間だけ歌っていて
    時間が濃密であれば長さは不釣合いかい?
     君の歌は学級放送で流れた給食の三角パックの牛乳の様に
      流行り廃りにはもううんざりなのが正直な所
       少女が紡ぐ歌が甘美な柑橘系のエセンス
        夏の終わりに見た夜景の寂しさ
         午後四時に帰ろう
          取りとめのない風景の描写
           
           どうか
            救っておくれ

             記憶の歌の受戒に於いて



コメント (2)
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