眠りたい

疲れやすい僕にとって、清潔な眠りは必要不可欠なのです。

寄り道

2009-04-22 | 
ふてくされた表情で少年が云う
 だって、僕のせいじゃないのに
  少女は幼い言葉に辟易し
   黙って返事もせず窓から空を眺めている

  沈黙が冷徹な意思表現だと分かるには
   少年は経験が足り無すぎたのだ
    こわいものなど何もなかった
     失う哀しさ
    得たものは全て自分の手柄だと信じ込む
     空想の産物が彼のレゾンデートル
      信じなかったのだ
       全てが移ろいやすいことなど

    もう帰らない

    蛇行する直線でハンドル操作に誤り
   壁は音を立て
  境界線の端をうろうろと日に迷う
 どうしてまっすぐ走れないんだい?
少年が呆れ顔で無難に前輪駆動を操る
 寄り道は

  寄り道は嫌いかい?
   僕は瓶のビールに口をつける
    そうじゃないけどさ・・・
     彼はまたもやふてくされる

     もう返らない

    説明文はよくお読みになられた方が宜しいでしょう
   図書館の中年の司書がこちらを伺う

  図書館をでて右に曲がった
 どうして左に曲がるのさ?
少年が大声で問いただす
 右じゃなかったのか
  少女が何も云わず
   てくてくと左の路地を歩き出す
    僕は道にただ立ち尽くした

     少年は右に
     少女は左に
     そうして僕は
     右と左が分からない

   沈む夕日がやがて夜のとばりを告げ
  僕は悪戯にただ混乱し錯綜す

     寄り道は嫌いかい?
    
     影が長く伸びる夕暮れ時の
     何故か知らない何時かの岐路

     寄り道は嫌いかい?


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キャンデーの空き缶

2009-04-20 | 
舶来物のキャンデーの空き缶を灰皿代わりにした
 丸い形のその表面には
  アルフォンス・ミュシャを真似た
   アール・ヌーヴォー的な女性が描かれる
    煙草の吸殻を揉み消す度に
     彼女が
    「吸いすぎよ 身体に悪いわ」
    と品の良い声でささやくような気がしたのは
   果たして本当に気のせいだったのだろうか
  
  建物は山の頂上付近に立っていて
 そこで40代半ばの男が
「ソクラテスの弁明」を読んでいた
牧歌的に空を眺めている僕にきずき
 彼は
  読むかい?
   と皮肉に微笑む
    空を眺めているほうが楽です
     こう応えると彼も不満げに空の風景を一瞥した
    何度も読まれていらっしゃるんですか、プラトン?
   毎日欠かしたことが無い
  面白いですか?
 興味深いがごく稀に飽きる時もある。君は・・
君は何をしているんだい?
 
     空を模倣しています

   彼は皮肉に微笑みながらキャンデーを薦めた
    どうもはっかが苦手でね
     君は好きかい?はっかは。
      そうですね、嫌いじゃないですよ
       それなら
      それなら缶ごと持って行きなさい
     どうせもうはっかキャンデーしか残っていないから
    
    三ヶ月と一日過ごして
   僕はその建物の敷地を出た
  キャンデーは残っていなかったけれども
 空き缶だけは灰皿代わりに持ってきた
学生だった僕も
 いつしか大人の真似事を始めた
  合いも変わらず喫煙だけが止められないでいる
   キャンデーの空き缶は
    灰皿代わりに今でも手元にある
     馬鹿げた話だ
      大切な物ばかり捨ててきて
       空き缶だけが時を止めてそのままだ

        吸いすぎじゃないかしら?

       貴婦人がささやく昼食後の一服

      時代に逆行しているのさ

     僕は相変わらずはっかは嫌いじゃなかった




   
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おやすみなさい

2009-04-18 | 日記
だんだんと暖かくなってきた。
僕らは、原っぱの真ん中でビールを飲んでいる。

 「ねえ。
  嫌な気持ちになったらどうするの?」

 少女が空き缶をへこませながら聞いた。

  きみはどうするの?

  陽射しが眩しくて彼女の顔が光で滲んだ。

  わからないけれど
   よい大人は神様にお祈りしたり、懺悔したりみんなに優しくしてあげるんでしょう?

   クーラーボックスの中の、いちばん冷えたビールの缶を探しながら僕は答えた。

  ぐっすり眠る。

   それだけ?

  少女が不審そうに僕を覗き込んだ。

  僕はよい大人じゃないし、眠って夢をみたほうがましなんだ。
   嫌なことも忘れるくらい呆れた夢を見るんだ。

 少女が呆れた顔で
  ふーん。あなたに訊いたの間違いなのか正しいのかわかんないわよ。

   と呟いた。

  正しいことも間違っていることもどうでもいいんだ。

   ぐっすり眠るのね?

   そう。

  陽射しが暖かい。
   やがて
    暑くなる。




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2009-04-15 | 
森の深緑の中
 僕は君を想い
  魔女が導く道筋を歩く
   昔 ヘンゼルとグレーテルが歩いた道だ
    静かにひんやりとした透明な空気
     森の秘密を知っている

   ただ漫然と歩くことも大事さ
    ランプの灯りを頼りに
     歩き続けた
   世界樹ユグドラシルを探すんだ
  生命の樹に宿る魂たちの遍歴
 僕らが生まれ変わる明日は
君に出会えるのだろうね
 百年前と同じように
  僕らは古びた城の城壁ごしに世界を俯瞰した
   君がカードを切り
    暖炉の前で僕はブランデーを舐めていた冬の夜
     誰も尋ねてこなかったのさ

     子猫が鳴いている

     深い霧の中
    想像が無我の領域に一歩足を踏み入れた
   木の枝で魔法をなぞる
  アレイスター・クローリーに心酔し
 オジー・オズボーンが歌を唱える
ランディー・ローズのギターソロは
まるで痒い処まで手が届くよう
 完璧だ
  二十世紀最後の大魔法使いを崇める

     
     子猫が皿のミルクを舐めた

      忘れてはいけないことがある
       森の不思議
        街の喧騒
         ひねくれた暮らしでも
          僕らは音を紡ぎだす
           交通量がやけに多いこの街で
            消え入りそうな僕のアルペジオと
             君のささやくかすれた歌声
              

         ボクタチハ 歌い続ける べきだったんだ

       空

      垂れ込める無意識の暗示
     意識される
    アイデンティティーの喪失は街の暮らし
   存在を証明できない暮らしなんて
  君は吐き捨て
 子猫とじゃれつく

想い出す
 排水溝の溝と壁の落書きに刻印された印
  黒い子猫が微笑み
   街路樹の間をすり抜けて
    森への路を案内してくれるのさ

     誰がこの存在を証明出来得るのか?

      ごらん
       暖かな日差しが雲をつき抜け
        奇跡の様に世界に舞い降りる

       忘れちゃいけない

       たとえ抹消された記憶でも

        森の深緑




        

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ココロ

2009-04-10 | 音楽
空を飛びたい
 空を飛びたい
  空を飛びたい

   少年と少女の夢が砕けた
    破片が路上に散乱して光を斜辺させた

     空を飛びたい
      ねえ
     空を飛びたい

    玩具を取り上げられた幼子のように
   僕らは叫び哀しみ泣き喚く
  ただ虚空に呼吸を吐き出した
 ねえお願いだから

君に会いたい
 君に会いたい
  君に会いたい

   柔らかな日差しの下で
    ねえ
     空を飛びたい
      空を飛びたい
       空を飛びたい

        懺悔は成層圏を潜り抜けて
         あの青い月の裏側まで届くだろうか?
          
          記憶が甘いお菓子の城の様に
           君達の行く末を密やかに惑わせる
            緑の森の中で
             僕らは十戒を覗き見る
              ガラス細工の万華鏡
               光が木霊する呼吸の拍動
         
               どくん
              どくん
             どくん

           君の生きている鼓動
          僕の苦しみ 希望
         空を飛びたい
        君に会いたい
       空を飛びたい
      君に会いたい

    壊れそうなくらい


   こころ


  ココロ


 空を飛びたいココロ


君に会いたいココロ









    
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オーベールの教会

2009-04-08 | 
元気ですか?
手紙をどうもありがとうございました。その葉書を眺めて、久しぶりにゴッホの画集をひらいてみました。すぐに僕は、「オーベールの教会」に目がとまりました。
この絵は、彼の死の一月前に描かれたものです。ゴッホはサン・レミの精神病院に入れられました。そしてそれから一年ちょっとでピストル自殺しています。
あまりにも激しすぎるその色彩は、なんだかゴッホの、あまりしあわせではなかったはずの人生を想像させます。
毎日はあまりにもつらくて、誰かに優しくしてやることも出来ない、そうした中で湧き起こるせつなさややるせなさが、僕には実感として伝わってくるような感じです。
そういえば、綺麗な葉書をどうもありがとうございました。
小さな文字で、煙草、お酒ひかえめに、と描かれていてすごく嬉しかったです。
いつか、会えるならお会いしたいですね。



       それから十年が流れ
        僕は煙突のように
         煙草の煙を
        モクモクと
       青い空に吐き続けているんだ
        相も変わらずに





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掃除

2009-04-07 | 
掃除機はうるさいから嫌なの
 ほうきで床を掃きながら君が微笑んだ
  天気の良い日に掃除をするのが君は好きだった
   僕はハイネケンの緑色の瓶をゆらゆらと振った
    どちらかというと大掃除が苦手な僕は
     冷蔵庫から冷えたビールを引っ張り出し
      蓋を開けて親指と人差し指でゴミ袋に弾いた
       君はアパートの窓を開け放ちながら深呼吸した
        あなたがゴミを作る役で
         私がそのゴミをかたずける役
          なんだか不公平だわ
           君は頬を膨らませ不機嫌そうに笑った
            窓辺から風が流れ君の長い髪をたなびかせた

            人には役割があるんだよ
           舞台と同じさ
          名探偵と名泥棒の役
         どちらもこの世界には不可欠なんだ
        それに
       それに君、掃除が趣味なんでしょう?
 
     彼女は呆れた表情で僕からハイネケンの瓶を奪って
    美味しそうに飲んだ
   とにかくビールの空き瓶は部屋に転がさないこと
  ウイスキーの空き瓶をベランダに並べる癖を治しなさい
 まるで風邪を診断する医者の様に君は僕に宣告したんだ
僕は君がくれた銀のシガレットケースから
 フィルターつきのピースを一本抜き出して火を付けた
  君は焦げたフライパンを燃えないゴミの袋に入れた

   綺麗にかたずいた部屋はまるで僕の部屋じゃないみたいだった
    僕らはビールを飲みながらぼんやりと
     窓から空を眺めていた
      煙草に火を点けると君は口元をゆがめた
       煙草早くやめなさいよね
        そういって床に寝そべって僕の顔を見つめた

        ねえ、あなたは何処にいくの?
       僕にはその答えが判らなかった
      それでも
     僕は街を離れる決心をし始めていた

    部屋には大きな段ボール箱が山済みされていた
   300本近いカセットテープの山だった
  それらの音楽たちは完全に行き場を失くしていた

 ね そのカセット私がもらってもいいかな?
君がカレーライスを食べながら呟いた
 もちろん。どうせゴミにしようとしていたんだし・・・。
  あなたはゴミを創るひと。
   私はゴミをかたずける人なのよ。
    役割分担ができているのね。
     
     もう僕には音楽は必要ないんだ
      君はじっと僕の瞳を覗き込んだ
       本当に?
        嗚呼、決めたんだ。
         じゃあこの音楽たちは私が預かることにするわ。
          
          君はまっすぐに僕を見つめた

           二度と会えないんだろうね、私達。

           僕は黙り続けていた
          そうする事しか出来なかったのだ

         ね
  
        あなたの夢は私が預かっておくからね。

       君がそう云った

      君は少しだけ涙を零した

     二度と会えないのね

    忘却された記憶

   あのカセットテープの山は

  一体何処で何をしているのだろう?

 まるで僕自身のように居場所がないのだろうか?

ね あなたの夢は私が預かっておくわ。


 君の声と静かな掃除の時間がふと懐かしいんだね



  
    
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音色

2009-04-04 | 
情緒不安定な部屋では
 沈黙は鋭利な切れ味だけれども
かと云って
 音楽はかえって邪魔をする

  自分の音に耐えられなくって
   大切な楽器を
    ギターケースに押し込んだ

この気持ちには
  いつか迷い込んだ気がして

いつもは嫌いな
 人の話し声や
  無造作な笑いを欲す
辿り着く理想の音というのは
 日常の中に蔓延する
喧騒やささやきや優しい会話の幾つか

  作り上げた声では
   唄は歌えない
  
過敏になりすぎた感覚の下で
 当たり前だと想っていた毎日が
  どれほど当たり前ではなかったのかを
   痛いほどに思い知らされる

いくら指先を整えても
  出せる音色が哀しい音だけだとするならば
   それはそれでなんとも云いがたい

下らないゴシップに笑う
 そんな時間

    ガラスの割れる音を
     いくら取り繕って 「芸術だ」
      なんて気取ってみても

    あのコメディアンの
     摩訶不思議なユーモアには及ばないね

どちらが
 こころを柔らかくするのだろうか?


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酒のつまみに関して

2009-04-03 | 
「ワインのつまみには何がいい?」
酔っぱらった友人が問題を提起した夜。僕らはアルコールの匂いに充満された行き着けのショットバーで議論した。チーズだろ、凄く臭い奴。大抵が賛成したが、乳製品アレルギーの僕は断固として反対した。瓶詰めのオリーブはどうだ?空っぽのワインボトルを掲げて、僕は賛成した。酔っ払いというのは、時として素敵な種族だ。たかが酒のつまみに関して、永遠と話題は尽きない。
野良猫。誰かがつぶやく。吐くときにトイレに行くだろ?小さな四角い窓から見える三カ月さ、あれって飲んでるな~って気になるじゃん。すごい綺麗なのさ。でも、吐くんだろ、酒。もったいない。うるさい、吐かないで飲んだ気になるなよな。吐くために飲むのさ、で、吐いたらまた飲む。十八歳の友人が意見を曲げようとしない。ディストーションをかませたギターでメタリカのリフを刻んでいた男が、なんてったってランディー・ローズのソロさ、と口走った。お前、カーク・ハメットの信者なんだろ?サトリアーニはつまみじゃないの?皮肉屋がシニカルに口元を歪ませる。あいつ、ミック・ジャガーのバンドにいたぜ・・・。
喧嘩になりそうな雰囲気を察して、食通を気取る馬鹿が、ケンタッキー・フライドチキン、と意義を唱えた。店のマスターが黙っちゃいない。なんだお前、うちのカレーよりケンチキか?酒瓶がカウンターに転がった。数えるのも面倒なくらい。
煙草だろ?愛煙家の僕は声高に叫び、ウインストンの吸殻を店の床にブーツで踏み潰した。煙が店を充満するいつもの光景。それから数十年後、喫煙を禁じた「健康増進法」の存在なんて知る由もなかったあの頃。フィルターの無いピースをチェーンスモークした真夏の夜の夢。僕らは、愚らないけれど気のおけない酔っ払いの集まりだった。一度、泥酔した若い女連れが店のドアを開け、僕らを見て逃げるように小走りに去っていった。マスター、この店、客回んないよ。僕が云うと、そんな事よりうちのカレーは、とまだぶつぶつ呟いている。酔っぱらった仲間がドアを蹴飛ばしながらやって来て、マスター、カレーと叫んだ。うるせ~、うちはカレー屋じゃねえぞと叫び返しながら、マスターは上機嫌だ。いったい、今日一晩で何ガロン飲んでるのだろう。全ては薄明の記憶の中。紫色をした煙草の煙に、薄暗いライトが申し訳なさ気に意思表示していたのだ。宇宙人のテレパシー。だんだん訳がわからなくなってきた。火星の衛星に奴らの基地があるんだ、ポール・ギルバート並みのスウィープを決めて友人の一人がわめき出す。酒に合わないぜ、ジョー・パスでも弾いてろ、また店がざわめき始めた。グラスなんかもはや存在しなかった。あるだけのワインのボトルを回し飲みしながら、僕らは酔いどれた。
まだ少女だった子が、先輩聞いてください、私、あのひとが忘れられないんです、と泣き始めた。ややこしい事態だ。店の外に逃げると、顔見知りの野良猫が食べ物にありつこうと傍らに寄ってきた。ハルシオン、オイルサーディン食べるかい?当時、流行っていた睡眠薬の名前の野良猫は、美味そうに缶詰めに舌を突っ込む。
彼女のあたまを一撫でして、僕は店に戻った。
それで。
それで、ワインに合うつまみは?
僕の独り言に、無口なピアニストがつぶやいた。
好きな人の声。
瞬間、皆が呆気に取られた。
ピアニストは、ククク、と笑いを押し殺して坂本龍一の「戦場のメリークリスマス」を弾き始めた。夜が続く。永遠に終わらない筈の夏の夜のはずだった。
好きな人の声。
それが冗談だったのか真実だったのかは未だに未解決で分からない。
ただ。
誰も反対はしなかった。

あなたの声が聴きたい。

「あなたにここに居て欲しい」

 ピンク・フロイドの曲が流れた。




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曇り空

2009-04-02 | 
眺めたはずの空は曇っていた
 木々の枝には寒々しいほどに何も存在していなかった
  窓際から離れ机に向かった僕は
   タンブラーグラスにウイスキーを注ぎ
    未来を想像し過去を撫で回した
     地球儀を回し
      月のクレーターを脳内モルヒネで空想する
       手法という物は幾つも提示されるべきなのだろうが
        僕は酔いの淵から世界を模索する
         白黒の世界は単一なモノクロームで
          一片の希望的観測を妥協しない
           未だに世界は冬なのだ

          琥珀色の猫の瞳が哀しみに濡れる時
         僕らはいっそ旅にでる
        存在の幾ばくかを抱え込み
       いつかあの広大な空へ白い羽を広げるが
      残念な事に羽は片方しかなかった
     飛べないのだ
    永遠に
   誰かが絶対の虚無を持って非情にも宣告する
  君は飛べないのだよ
 懺悔が足りなかった
君の原罪は永遠に購なわれなかったのだ
 
      ラジオから雑音に混ざって
       君の声が囁く
       
        永遠ハ孤独デスカ?
         其レトモ
          永遠ノ意味スラ忘レタノデショウカ?
           何時ノ記憶ノ様二
            私ヲ忘レタ様二

         時計台が深夜零時を知らせる
        重たい鐘の音が鎮魂する
       報われなかった魂のひとひら
      もはやこの世界に共通された希望など見当たらない
     道化師が煙草を咥え
    化粧を落としながら呟いた
   ライオンもカメレオンも
  不思議な生き物も滑稽な仕草の猿も
 象や熊や鳥や魚や
人魚や珊瑚や透き通った海も
かつて存在した空を飛ぶ者
 地を這う存在全ては情報の洪水に飲み込まれてしまった
  消去された記憶

    あの教師の事を憶えているかい?
     神経質な英語の丸眼鏡のことかい?
      ちがうよ、あの丸々と太った音楽教師のことさ。
       僕らは ククク と嘲笑した
        奴、黒板に白墨で愛なんて書いたんだぜ。
         ククク
          フクロウが笑いを噛み殺した
           ところで
            ラテン語が得意げな
             いつも金の指輪を回しながら喋る
              あの校長先生はどうしているんだい?
               フクロウが答えた
  
             東京の修道院で神父に刺されて死んだよ

            どうして?

           詳しくは判らないが人事のイザコザがあったらしい

          そう

         記憶がジャックダニエルの雫で濡れている

        まるで琥珀色の猫の瞳が濡れる様に

       窓際から空を眺めている

      いつからこうしているのだろう?

     
     月も日も無かった

    
      曇った空







     
   
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