水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

楽しいユーモア短編集 (86)五感[その三 視覚(しかく)]

2019年12月21日 00時00分00秒 | #小説

し 五感のその三は視覚(しかく)である。この視覚ほど、人をして楽しい気分に誘(いざな)う感覚はない。というのも、男性なら異性に感じるムラムラする色気^^、女性なら美しく着飾る宝飾品や衣装、それに化粧品^^、これらは視覚なくては感じない訳だ。
 とある寺院の禅道場である。とある大手会社の研修をかねた数十人の社員達が瞑想(めいそう)の域(いき)で両眼を閉じ、座禅を組んでいる。少し離れた庭では、この寺のトップと思(おぼ)しき僧侶(そうりょ)と研修の責任者である課長が話をしている。
「いやっ! そうは申されますがな。この数以上はとても我が寺院ではお引き受けしかねまする…」
「そこをなんとか、出張から帰った者、五名ばかり…」
「いやいや、すでに宿坊は、お泊めする数を超えておりまする。とてもとても…」
「そうではございましょうが…」
「いやいやいや、これ以上はお出しする賄(まかな)いもござりませぬゆえ…」
 何卒(なにとぞ)ご勘弁(かんべん)を…という気持を、僧侶は無言(むごん)の仕草で合掌(がっしょう)し、目を閉じた。そう来られれば、これ以上は頼めない。
「分かりました…。会社へ戻(もど)り、その旨(むね)を上司に伝えます」
「はあ、そのように…」
 次の日の、とある大手会社の部長室である。研修の責任者である課長が部長と話をしている。
「君の課だけだよっ! そういう事を言ってきたのはっ!」
「はあ、そうでしょうが、そう言われましたもので…」
「怪(おか)しいねぇ~、君の課だけ…」
「私の課は社員数が多いからでは?」
「馬鹿を言いなさんな。他の課もそうは変わらんじゃないかっ! 数人、多いくらいだろ?」
「はあ、まあ…」
 課長はそのとき、僧侶の懇願する仕草を、ふと思い出し、合掌しながら両眼を閉じた。
「ははは… 仕方ないな」
 部長は、課長の報告を了承(りょうしょう)した。
 このように、楽しい気分へと変化させる視覚の効果は絶大なのである。^^

                                


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楽しいユーモア短編集 (85)五感[その二 聴覚(ちょうかく)]

2019年12月20日 00時00分00秒 | #小説

 五感のその二として、聴覚(ちょうかく)がある。いい音色(ねいろ)に酔いしれ、ウットリと恍惚(こうこつ)感に浸(ひた)る訳だ。当然、本人が楽しいことは言うまでもない。
 とある音楽コンサートの会場である。指揮者は九十の齢(よわい)を超えたチビンスキーで、その名は世界各国に知れ渡り、超有名だった。オーケストラは大風呂敷フィルハーモニー交響楽団である。会場の一階半ばの席で演奏を楽しい気分で聴き惚(ほ)れる湯葉(ゆば)の隣の席では、まったく演奏には興味がないのか、グースカと派手な鼾(いびき)を立てて眠りこける腐豆(ふとう)がいた。湯葉にとっては迷惑この上ない雑音だったが、多くの聴衆が聴き入る最中(さなか)である。その手前、起こして注意する訳にもいかず、泣き寝入りする他なかった。そうこうして、しばらくしたときである。後列の斜(なな)めに座る一人のロマンスグレーの老人が席を立ち、グースカと鼾を立てる腐豆の肩を片手で強くコツコツと何度か叩(たた)いた。腐豆は、ハッ! と我に返って目覚め、スクッ! と直立すると、何を思ったか、「ど、どうもすみませんっ!!」と大声で謝(あやま)った。その途端、場内から割れんばかりの笑声(しょうせい)が起きた。これにはオーケストラも形無(かたな)しである。この楽しい出来事は、その後、演奏会の歴史的な語り草となった。
 聴覚はいろいろな楽しい出来事を生むようだ。^^

                                


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楽しいユーモア短編集 (84)五感[その一 味覚(みかく)]

2019年12月19日 00時00分00秒 | #小説

 人には五感という楽しい感覚がある。その五感を五話に渡って語りたいと思う次第である。別に語ってもらわなくてもいい! と思われるお方もあるだろうが、そんなお方は食うなど味わうなど好き勝手に楽しんでいただけばそれでいい。まあ、私もあとから楽しみたいとは思う。^^
 楽しい感覚のその一として、まず味覚(みかく)がある。これはもう、人にとっては一番と言ってもいい楽しい感覚で、『私は食うために生まれてきたっ!』と豪語する大食漢や食通(しょくつう)なお方もおられるくらいだ。
 とある町の大衆食堂である。この町の老舗(しにせ)なのか、昼前からそれなりに混んで繁盛している。
「僕の注文、どうなってんのっ!」
 一人の客が切れたような大声で女性店員に絡(から)んだ。
「立て込んでるもんで、どうもすみません…。もう出来ると思います。味噌汁定食でしたよね?」
「違うよっ! 赤だし味噌汁定食だよっ!」
「ああ、はい…」
「半時間後に仕事があるんだっ! 早くしてよっ!!」
「はい…」
 この食堂で一番安い定食が味噌汁定食で¥250、その次に安いのが赤だし味噌汁定食¥300だった。どちらもライス、香の物少々が付くという実にシンプルな定食で、その違いは赤だしの味覚が有るか無いか・・という、ただそれだけのものだった。それから10分ばかりが過ぎ去った。
「まだなのっ!」
 他の焼き魚定食やハンバーグ定食といった時間のかかりそうな定食が次から次へと出来る中で、一番、シンプルで簡単な定食が出来ない。注文した客が、ふたたび大声を出した。
「生憎(あいにく)、お新香(しんこ)が…。今、買いに出てますので、今しばらく…」
「なにっ!? お新香、ここじゃ買ってるのっ!?」
「はい、まあ…」
「で、あと、どれくらいかかるのっ!?」
「はあ、もう20分ばかり…」
「そんなにっ!! もう、味噌汁定食でいいよっ!」
 客は、とうとう味覚のランクを最低ラインまで下げた。
「あの…お客さま。お新香が無いんで、どちらにしろ待っていただくことになりますが…」
 赤だしの味覚を諦(あきら)めただけで定食は食べられなかった・・という実に情けないお話である。味覚が堪能(たんのう)でき、楽しい気分が味わえるには、他の要素も必要になるようだ。^^

                                


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楽しいユーモア短編集 (83)きっちりと

2019年12月18日 00時00分00秒 | #小説

 物事をしたあと、やり残しがあったり、結果が果たせなかった場合、その後の展開は二つの道に分かれる。一つは最後までやり通したり結果が残せるよう物事を続けて、きっちりと仕上げる道だ。そして、もう一つは、一端、中断したり、あっさりと諦(あきら)めてしまう道である。この二つの道は、どちらが正解でどちらが間違いというものではないが、楽しい気分を早く味わいたいか、あとのお楽しみに取っておくか・・という本人の性格によって分かれるのである。仕上げたあとの方がやり残し感がなく、気分が楽しいように思われるが、これもケース バイ ケース[時によりけり]で、一端、中断したり、諦めた方がいい場合もある。あとから楽しい気分を味わおう…と思うのはいいが、あとからでは、あとの祭(まつ)りになってしまうケース[場合]もある・・ということだ。^^
 お正月の干し柿作りをする、とある田舎の庭先である。ご主人が両腕を組んで考え込んでいる。自宅用だから、そう多く作る必要もないのだが、これがなかなか難しく、毎年、収穫前にカラス害に遭(あ)ったりして、きっちりと収穫出来ないでいた。
「そろそろ硬(かた)くなってきたな…。この辺が潮時(しおどき)か? いや、二日ほど晴れるという予報だから、そのあとで穫(と)り入れてもいいな…」
 干し柿の甘い、いい香(かお)りが辺(あた)りに漂(ただよ)っていたが、きっちりと硬く熟成(じゅくせい)させてから…というご主人の考えは甘かった。^^
 二日後、ご主人が穫り入れようとしたとき、すでに干し柿は一つとして残っていなかった。カラス達が、きっちりと失敬したあとだったのである。だから物事は、潮目(しおめ)が変わる潮時を機敏(きびん)に察知(さっち)する判断力が求められるということになる。これは、多くの人々のトップ[頂点]に立つ様々(さまざま)なリーダー[指導者]にも言えることだろう。^^

                                


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楽しいユーモア短編集 (82)箸(はし)

2019年12月17日 00時00分00秒 | #小説

 スーパーなどで寿司とか弁当を買うと、「お箸(はし)、要(い)ります?」とかなんとか訊(たず)ねる店員がいる。店の客対応マニュアルの一つなんだろうが、思わず『馬鹿か、お前はっ!』と気分を害される客もいることだろう。私は害さない。^^ だが、よくよく考えればそれも道理で、素手(すで)で弁当を食べる訳にはいかないのである。^^ そんな当然のことが分かっているにも拘(かか)わらず、マニュアルでは訊ねることになっているようだ。経営者サイドから考えれば、少しでも物件費を抑(おさ)えよう…という方針が見て取れなくもない。箸という小物一つを例にとっても、それだけ今の世の中が世知辛(せちがら)くなった・・ということだろう。ああ、嫌だ、嫌だっ!^^
 ポカポカ陽気の小春日和(こはるびより)である。晴れた青空の下(もと)、木々が紅(くれない)や黄色に色づく木陰(こかげ)のベンチで二人の老人が寛(くつろ)いでいる。
「どれどれ、そろそろ、昼にしますか?」
「ですなっ!?」
 二人は買い物袋から、それぞれ買ってきた弁当を取り出した。
「ほう! コンビニでしたか?」
「ええ、まあ…。あなたはスーパーで?」
「ええ、まあ…」
 首から吊(つ)るした魔法瓶のお茶を飲みながら、二人は弁当を食べ始めた。
「そういや、お箸、要りますか? って訊(き)かれましたよ」
「私はコンビニでしたから袋に入れてもらえましたが…」
「そうでしたか。ああ! そういや、コンビニは確かに訊きませんな」
「弁当にお箸は付き物でしょう! 素手で食べますか、フツゥ~~?」
「私もそう思いましてね、少しムカッ! としました」
「ははは…楽しい気分を害された訳ですな?」
「そんな大げさなもんじゃないんですが、ははは…」
 二人は大笑いをした。
 このように、箸、一膳(いちぜん)で楽しい気分を害する人もいる訳である。まあ、そういう人物は相当の変人だろうが…。^^

                                


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楽しいユーモア短編集 (81)気がかりなこと

2019年12月16日 00時00分00秒 | #小説

 気がかりなことがあれば、楽しいことも楽しくなくなる。それは当然のことだが、ならば、その気がかりなことを無くせばいいだろっ! という話になる。しかし、世の中の仕組みはよく出来ていて、まあ、この場合は悪く出来ていてになるのだが、^^ 気がかりなことが無くなった途端、また新(あら)たな気がかりなことが出来るようになっている。これは決して、意地悪でもなんでもなく、世の中とはそうしたものなのである。だから、気がかりなことがあっても、そんなに目くじらを立てず、大仰(おおぎょう)に構(かま)えていれば、気がかりなことは気分を悪くしていなくなるのだ。結果、楽しい気分にふたたび満たされる・・と、こうなる。^^
 とある普通家庭である。明日、一家で行楽に出かけようという夜、ご主人は、眠れぬ夜を過ごしていた。
「天気は大丈夫かなぁ~」
「そんなこと、私に訊(き)かれても…」
 奥さんは迷惑そうな顔で言った。
「しかしなぁ~。晴れてもらわないと予定が狂うんだよっ!」
「子供達は、もうとっくに眠ってるわよっ! そんなに気がかりなら、雨でもいいところにすれば?」
「だってな、キャンプ村にはもう予約を入れてるんだぜ!」
「知らないわよ、そんなのっ! あなたの都合で天気が変わるってことはないんだからさ…」
「… まあ、それもそうだが…」
「そんなに気がかりなら、照る照る坊主でも作れば!?」
「ああ! その手があったな…」
 ご主人は、何を思ったのか、ベッドから抜け出た。
「じょ、冗談よっ! 馬鹿(ばっか)ねぇ!!」
「おいっ! 針と糸?」
「針と糸? 針と糸は向こうの部屋だけど…」
 ご主人は、本気でそう思ったらしく、寝室から出ていった。
 次の日の早朝、天気は雲一つない快晴となった。ところが、ご主人は気がかりが祟(たた)ったのか、照る照る坊主を吊るした下で眠りこけ、風邪を引いていた。
 気がかりなことは無視した方が楽しい結果が生まれるようだ。^^

                                


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楽しいユーモア短編集 (80)挨拶(あいさつ)

2019年12月15日 00時00分00秒 | #小説

 挨拶(あいさつ)というのは、別にしなければ悪いとか罰(ばっ)せられるといった性質のものではない。^^ ただ、した方が相手との接触感、スキンシップと日常で使われる言葉だが、その感覚が膨(ふく)らんで楽しい気分となり、お互い和(なご)みやすいことは確かなようだ。相手が挨拶したとき、そ知らぬ態(てい)で無視した場合、『なんだっ!? お高く留(と)まりやがって!!』などと思われ、返って関係が拗(こじ)れることにもなる厄介(やっかい)な儀礼(ぎれい)である。
 どこにでも見られるとある駅の、朝の通勤風景である。
「やあ! おはようございます、番傘(ばんがさ)さんっ!」
「おお、これはこれは、お珍しいっ! 蝙蝠(こうもり)さんっ!」
「ですなっ! ははは…」
 蝙蝠は珍しいと言われ、『いつも乗ってるけど出会わないだけだろっ!』と、心で突っ込んだが、挨拶で関係が拗れるのも…と、笑って思うに留(とど)めた。
「いやぁ~随分、寒くなりましたな」
「ですなっ! ははは…」
 蝙蝠は寒いと言われ、『そうでもないがな…』と思ったが、挨拶で主張するのもな…と、ふたたび笑って思うに留めた。
「先ほどから笑っておられますが、体調の方は大丈夫ですか?」
「まあ、ですな。ははは…」
 蝙蝠は『大丈夫に決まってんだろっ!』とは思ったが、楽しい気分が…と、三度(みたび)、思うに留めた。
 このように、挨拶をしたからといって、相手が必ずしも楽しい気分になる訳ではない・・という、欠伸(あくび)が出るようなお話である。^^ 

                                


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楽しいユーモア短編集 (79)欲の程度

2019年12月14日 00時00分00秒 | #小説

 欲が満たされれば人は楽しい気分になる。これは誰しも言えることだが、欲を満たして楽しくない者は、正直なところ、余程(よほど)の欲張りかウスラ馬鹿だろう。まあ、この文章を読んで腹を立てる人は、その傾向があるかも知れない。^^ ただ、欲はその程度にもよる。意欲がない者はダメで、有り過ぎる強欲(ごうよく)者もダメだから程度が難(むずか)しい。
 ここは、とある旅行社である。
「あの…もう少し何とかならないでしょうか?」
「お客様、そう申されますが、この額(がく)じゃ、この程度でございますよ」
「そこを、なんとかもう一声(ひとこえ)っ!」
「…仕方がないっ! 清水(きよみず)の舞台から飛び降りたつもりで、この額に、しちゃいましょ!!」
「このコースで、ですよね? あとから追加料金・・なんて欲張ったことは?」
「ははは…楽しい旅を提供する我が社に限ってそんなっ! それにお客様、三泊四日で¥6,200の格安料金でございますよっ!? 程度ってもんがっ!」
「これ以下は無理と?」
「はい、もちろんっ!! 完全な出血大サービス! これ以下だと、うちは破産しちゃいますっ!」
「さすがに、破産はしないでしょう…」
「ええまあ、破産はしませんが…」
「私も欲を出し過ぎました。程度ってもんがありますよね?」
「はい! お客様じゃなかったら、私、あなたをブン殴(なぐ)ってるかも…」
「ははは…ブン殴られなくてよかった! 今までの話は冗談、冗談ですよっ! 最初の料金で、結構です」
「お、お客様!! …」
 旅行者の係員は、客の手を取り、急に涙目(なみだめ)になった。
「そんな大げさなっ! この程度で…」
 最初の料金は¥6,700だった。もちろん、キャンセルされたチケットである。^^
 欲の程度によって楽しいものも楽しくなくなったり、楽しくないものも楽しくなったりするのが人の世・・ということになる。^^

                                


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楽しいユーモア短編集 (78)裏目(うらめ)

2019年12月13日 00時00分00秒 | #小説

 どんなことでも、思っている真逆(まぎゃく)の結果となれば、楽しいものも楽しくなくなるだろう。これは誰しも同じで、人はこれを、裏目(うらめ)に出る・・などと表現する。
「スリーカードだっ! お前さんの手はなんでぇ~~!!」
 西部劇映画の酒場で行われているポーカーの一場面である。訊(き)かれた格好いい主役のカウボーイは、徐(おもむろ)に自分の手札(てふだ)を相手カウボーイに見せる。ローヤル・ストレート・フラッシュである。
「オッ!! きっ! 貴様(きさま)ぁ~~!! イカサマしやがってっ!!!」
 とかいう場合を裏目と呼ぶ。訊いた相手役のカウボーイは自分が勝つと信じていたからで、結果がその逆になったからだ。こんなのもある。日本の時代劇の賭場(とば)の一場面である。かなり勝っている格好いい主役の旅烏(たびがらす)が、スゥ~~っと半(はん)の木札(きふだ)を置く。
「[両腕を広げて]どちらさんも、ようござんすねっ!! 丁半(ちょうはん)、駒(こま)、そろいやしたっ! 入りますっ!! [壷(つぼ)へ賽(さい)を二つ、馴(な)れた仕草(しぐさ)で入れ、閉じ、勢いよく畳上(たたみうえ)へと伏(ふ)せ] … [静かに壷を開け] … 五二(ぐに)の半っ!!!」
「フフフ…また、勝たせてもらったか…[呟(つぶや)くように]」
「貴様ぁ~~! イカサマしやがってっ!!」
「さあ~て、どちらさんがイカサマだろうなっ?」
 格好いい主役の旅烏は居合いで刀を畳下(たたみした)へと突き刺す。畳下から、男の悲鳴が…。みたいな裏目もある。^^
 孰(いず)れにしろ裏目は、それまでの展開を大逆転させる結果を齎(もたら)す。因(ちな)みに、野球の「ぎゃっ! 逆転サヨナラですっ!!」とか、競馬の「ゴール直前、さし切りましたっ! 万馬券ですっ!!」とかの裏目もある。
 まあ、いい結果となる楽しい裏目はいいだろうが、概(がい)して、裏目に出るのは悪い場合が多い。日々、楽しい気分で過ごすには、裏目には出て欲しくないものだ。^^

                                


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楽しいユーモア短編集 (77)感覚(かんかく)

2019年12月12日 00時00分00秒 | #小説

 人には暖かい方がいい人と寒い方がいい人の二(ふた)通りがある。好みの違いというよりは体質による感覚(かんかく)の差だが、自分の体質に合った気候だと、やる事なす事すべてが快適で楽しい気分になる。その逆だと楽しいことでも楽しくなくなるから不思議だ。
 とある温泉の旅館である。二人の旅行客が泊まっている。どうも夫婦らしい。あんなことや、こんなことをするのだろうが、その場面はムラムラするから割愛(かつあい)したい。^^
「俺はもう少し寒い旅の方がよかったよ。寒い日に温(あたた)かいお湯に浸(つ)かる・・これがいいんだよなっ!」
「あらっ! 私は今日のような暖かい日の方がいいわっ! 風邪を引きやすいタイプだから…」
「そうかっ!? 俺は絶対、寒い日の温泉旅の方が楽しいよ」
「私とは真逆ねっ!」
 そこへ旅館の仲居が料理を携(たずさ)えて入ってきた。
「失礼いたします。どちらでもよろしゅうございましょう? 旅が出来る・・これだけで十分、楽しいのでは? ほほほ…」
「…」「…」
 二人は仲居の言葉に押し黙った。
 感覚に関係なく、旅に出られるという境遇(きょうぐう)は十分、楽しいと有り難く思う必要があるのかも知れない。^^

                                


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