このゆびと~まれ!

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日本人の力を発動させるカギは、長い歴史の中で培った「情緒」(後編)

2019年08月21日 | 政治・経済
そもそも関税は一括に決めるべきではない。それぞれの国、共同体の繁栄のために分野ごとに決めて不都合はない。「国民」が豊かになるかどうかを見極める。それが交渉というものである。

安倍首相は、自らの信念を貫けばよい。トランプ大統領の登場は、むしろその環境をつくったと言えるかもしれない。<瑞穂(みずほ)の国には瑞穂の国にふさわしい資本主義があるのだろうと思っています。自由な競争と開かれた経済を重視しつつ、ウォール街から世界を席巻(せっけん)した、強欲を原動力とするような資本主義ではなく、道義を重んじ、真の豊かさを知る、瑞穂の国には瑞穂の国にふさわしい市場主義のかたちがあります。

安倍家のルーツは長門(ながと)市、かつての油谷(ゆや)町です。そこには、棚田(たなだ)があります。日本海に面していて、水を張っているときは、ひとつひとつの棚田に月が映り、遠くの漁火(いさりび)が映り、それは息をのむほど美しい。

棚田は労働生産性も低く、経済合理性からすればナンセンスかもしれません。しかしこの美しい棚田があってこそ、私の故郷なのです。そして、この田園風景があってこそ、麗(うるわ)しい日本ではないかと思います。市場主義の中で、伝統、文化、地域が重んじられる、瑞穂の国にふさわしい経済のあり方を考えていきたいと思います>(安倍晋三『新しい国へ』文春新書)

安倍家の、そして日本の、ストーリーがここにある。
私たちは、歴史の解釈権であれ、政治の自立であれ、また国防の強化であれ、「日本を、取り戻す」政策の推進を安倍首相に託した。それがかなうかどうかは、まずもって国益と名誉を守ろうという日本国民の意志の持続にかかっている。そして、戦略思考とは誰に寄り添うかではなく、自らの望むところに相手を誘導する主体的な意志を持ち、発揮することである。

TPPに限らない。国の歩みは一幕芝居ではない。第二幕、第三幕があるとわきまえ、私たちが自らその筋立てを主導する気概を持って備えることである。対外金融資産は900兆円以上もある。安倍氏が間違えれば、国民が取り返せばよい。

「暗黙知」と「優位戦思考」を兼ね備えた「新しい日本人」には、その力がある。そしてその力を発動させるカギは、長い歴史の中で日本人が培った「情緒」である。

最後に、岡潔(おかきよし)の言葉を読者とともに噛み締めたい。岡潔は日本が生んだ数学の巨人である。「多変数複素関数論」分野における三大問題に独力で解決を与え、その業績は数学界に比類(ひるい)がないといわれる。「数学とは情緒の表現である」と語った岡は晩年、たしかに日本人にとっての「情緒」の大切さを説きつづけた。その真意はどこにあったのか。

昭和38年(1963年)の随筆集『春宵十話』の「一番心配なこと」には、こう綴られている。

<いまの教育制度は進駐軍が師範学校を二段とびに大学にするなど、だいぶん無理をして作ったもので、よくない種子をまいたのは進駐軍だが、しかしそれをはぐくみ育てたのは日本人である。それでも原則から悪くしたのに害がこの程度ですんでいるのは、日本人が情操中心でこれまでやって来た民族だからで、欧米のように意志中心の国なら、すみずみまで原則に支配されるからもっとひどいことになっていたに違いない>

さらに昭和39年(1964年)の随筆集『風蘭』では、こう綴っている。

<たとえば、すみれの花を見るとき、あれはすみれの花だと見るのは理性的、知的な見方です。むらさき色だと見るのは、理性の世界での感覚的な見方です。そして、それをじっさいにあると見るのは実在感として見る見方です。これらに対して、すみれの花はいいなあと見るのが情緒です。これが情緒と見る見方です。情緒と見たばあいのすみれの花はいいなあと思います。芭蕉(ばしょう)もほめています。漱石(そうせき)もほめています。>

岡潔は何を訴えたかったのか。私は、岡が数学研究の道筋でどのように「情緒」を発見したのかは知らない。
だが、日本人が大切にしてきたのは古来より「情緒」で、それこそが人間の土台であり、理性や知性はその土台の上に立つものだと彼は覚(さと)ったのだと思う。「すみれの花はいいなあ」と見る情緒こそが大切で、それがあれば、お互いに「理解する」というよりも、「感じ合い」相争うことなく過ごしていける。
『春宵十話』の「自然に従う」の一節である。

<情緒の中心の調和がそこなわれると人の心は腐敗する。社会も文化もあっという間にとめどもなく悪くなってしまう>

これが日本人の心のあり方の根本ではないか。

---owari---
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