じじい日記

日々の雑感と戯言を綴っております

お休みです!

2018-01-27 20:53:02 | 日記的雑談
本日は然したる理由も無く日課のスキー場通いを休みまして、思いつきで床屋に行き、1ヶ月半ぶりに筋トレに出向いた訳であります。

いやぁ~・・・スキーをしていたので足腰は衰えていなかったんですが上半身が痩せていました。
腰から上が細くなって自慢の背中は逆三角形が崩れておりました。
全体的にほっそりとした身体は・・・嗚呼、ジジイっぽいなと、溜息さえ出る始末。

で、体重が変わってないと言う事は・・・筋肉が落ちて脂肪がついていると解釈するべきでありましょうか?
筋肉と貯金はすぐに減るのに、脂肪と借金は溜まり易い・・・これ、真理であります。

今日は筋トレと言っても激しいのは出来ませんでどっちかと言うとストレッチが主でありました。

で、ストレッチマットに横になっていると・・・何処からとも無くトロピカルと言いますか、もっと分かり易く言うと免税店の香がそこはかと無く漂って来まして、目を閉じてマットに横になっていた私はその匂いに刺激され記憶の扉が開き妄想の世界に入ったのでありました。

以下、やや長文の駄文であります。
御用とお急ぎでない方は読んでって下さい。




成田空港でPR433の出発時刻を待っていた。

手持ち無沙汰の暇潰しに免税店を冷やかしていたら普段は絶対に入り込まない化粧品のコーナーに紛れ込んでいた。
そして、香水の売り場で販売員の女性に「プレゼントですか」と声を掛けられた。
私は予期せぬ事にどぎまぎし、咄嗟に「二十歳くらいのフィリピンの娘なんだけど」と答えてしまっていた。
すると販売員は「南の国の明るい雰囲気の女性には軽い香が良いでしょう」と、間髪を入れずに薄いピンクの小瓶から小さな紙にスプレーを一吹きして私に手渡した。
その紙片からは、ココナツミルクの甘い香がほのかに漂っていた。

私はガラスケースのプライスカードに目をやり大した値段ではない事を確かめそれを買った。

日が暮れても熱帯の空気は熱かった。
マクタン空港を出ると送迎の人がごった返すエリアにキュートがいた。
ここでいつも不思議に思うだが、大勢の人混みの中で小柄なキュートを何故すぐに見つけるのだろう、と。

キュートは私の手を取りドメスティックのタクシー乗り場に向って歩き出した。
国際線ゲート前のチケットタクシーは料金が高いので少し歩いてメタータクシーを拾うのだった。

人混みから抜けたところでキュートが「深夜のバスは疲れるからセブに泊まっていきたい」と言った。
私はキュートのビサヤ語をしっかり聞き取ったのだが分からなかったふりをして「なに?」と聞き返した。
キュートが小さな声で「ガーゴ」(ばーか)と言った。

この時刻にマクタン空港に来るには昼頃のバスで街を出なければならない。
乗り換え無しでフェリーに接続するバスでも片道6時間近く掛かるのだ。
今から急げば8時頃のバスに乗れる筈だが、それでも到着は午前一時過ぎになる。
その往復は若いキュートでも嫌なのだろう。

ドメスティックゲート前もタクシー待ちの人が多く空車は居なかった。
しかしキュートが目敏く客を降ろしたタクシーを捕まえた。
行き先を尋ねる運転手にキュートが「サウス バスターミナル」と言った。
私はすぐに「ダウンタウン、オスメニアサークル」と言い直した。

キュートが私の手を握った。

「腹減ってないか」と尋ねると「ゴートム カァーヨ」と小声で言った。

セブプラザホテルで降ろしてもらいキュートの手を引いてフロントに向った。
タクシーの中からメールで予約を入れてあった。

部屋に入るとキュートはTVのスイッチを入れ冷蔵庫を覗いた。
答えは分かっていたが「ホテルのレストランが良いか、それとも外のバーベキューが良いか」と尋ねた。
案の定ご所望は屋台のバーベキューだった。

私はホテル脇の小径のサリサリストアーでサンミゲールのグランディーを1本買い豚肉の串焼きを食べさせる屋台に向った。
薄暗く埃っぽい路地には野良犬がたむろしていてキュートが少し怖がった。
私の影に隠れるようにして手を強く握り犬の横を抜け屋台の明かりを目指した。

どれ程食べても料金はたかが知れているのだが勘定を気にしたのか、キュートはスプライトと少しの串焼きを注文しただけだった。
私は持ち込みのビールを飲みながら豚肉の串焼きと鶏のレバーとチョリソーを適当に頼んだ。
「イカウ イノム カ」(呑むか?)とビールを勧めると「ディリ」(要らない)と言って野良犬に食べ残した串焼きの肉を投げていた。
私はキュートに「餌をやるから野良犬が集まるんじゃないか」と嗜めた。

私たちは会話も無く、キュートはトシーノ(豚の串焼き)を食べ飽き弄んでいた。
グランディーを飲み干し勘定を聞くと300ペソ(当時約600円)だった。

ホテルへの戻り道でサリサリに立ち寄りグランディーの空き瓶を返しサンミゲールのピルスンを3本買った。

部屋に入ったキュートはベットに腰掛けケーブルテレビのリモコンを忙しく動かしていた。
私はディパックの中から小さな包みを取り出しベットに放り投げた。
そうしながら、どーうして気持ち良くて渡せないのかと悔やむ自分がいた。

キュートは包みに目をやり「私に」と目で訴えた。
「オー オー」(yes)と言ったのにキュートは手を伸ばさなかった。
私は冷蔵庫からサンミゲールビールを取り出し机の角で栓を抜いた。
少ししくじって泡が漏れて床にこぼれた。

キュートが強い語気のビサヤ語で何かを言ったのが気に障って、イングリッシュ ナランと言い返した。
所々聞き取れた単語から大凡の事は推測できた。
たぶん、どうしてやさしい言葉が一つもないのかと、そんな事だったと思う。

私はビールの瓶を手に持ってTVを眺めるふりをしていた。

キュートは今年二十歳になるモスリムの娘だった。
大学へ通う為にミンダナオから出て来ていたのだが学資が乏しく、夜は街のレストランでアルバイトをしていた。
レストランのオーナーと呑み友達だった私はフィリピン娘にしては控え目な彼女に惹かれ
英語の先生と言う名目で紹介してもらい一年近くが経っていた。

今日の出迎えはキュートが勝手に来ていた。
とは言っても来ているかもしれないと期待する自分はその姿を探すのだが。
そこには隠し切れない思いがあるのだが、日本に妻子のある中年男はそれを口にする事はできなかった。

着替えの入った小さなバッグ持ってキュートはバスルームのドアを締めた。
気がつくとベッドの上の包みが消えていた。

バスタオルで身体を隠し、髪もバスタオルで巻いてキュートが出できた。
私が「俺のバスタオルが無くなったじゃないか」と言うと「ベッドに入るから電気を消して」とキュートが言った。
私は黙って明かりとテレビを消し、部屋を真っ暗にしてバスルームに入った。

シャワーを浴びドアを開けるとブランケットから顔だけ出してTVを見ていたキュートが少し湿ったバスタオルをドアに向って投げつけた。
私はそれを身体に巻き付け、キングサイズベッドの反対側の端に潜り込もうとしてブランケットを捲った。
すると、キュートの体温で温まったパフュームが鼻腔から私の体内に広がった。
それはブーゲンビリアの花の様な甘い香になっていた。

私はブランケットに潜り込みベットの中を泳ぎ彼女を抱きしめた。
水のシャワーで冷えていたのか、キュートの肌は少し冷たかった。

抱きしめられたキュートは「私は愛しているのに」と嗚咽をこらえて言った。
卑怯者の私は彼女の唇を塞ぎ、あとの言葉を遮った。



翌年キュートは大学を卒業しミンダナオはダバオの貿易会社に就職した。(彼の国では20歳か21歳で卒業になる)
彼女は新しい土地で始めた生活に忙しいのか私への連絡も少なくなり、やがてミンダナオへ尋ねて来いとも言わなくなっていた。

卑怯者の免税店の匂い・・・おしまい。






















コメント (4)
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