ブログ仙岩

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幻のタクト大石邦子

2020-08-09 05:11:21 | 問題
美しい満月を見た。
月を見るたびに思い出して、ふっと可笑しくなるのは、明治の文豪・夏目漱石の名言と言われる名言だ。大学で教えていた英語の授業で、
「I Love You」を、「われ君を愛す」と訳した学生に、漱石が言ったという。「日本人がそんなことを言うか、つまらん。{月がきれいですね}とでもいっておけ」と言ったとか、言わなかったとか。面白い逸話で忘れがたい。
この頃、ちょっと、一人夜を楽しんでいる。この数か月、コロナ、コロナで明け暮れて、何を見ても喜べるような心境にはなれなかったが、5月の末だったか、知り合いの奥様にCDをプレゼントされた。古関裕而の「古関メロデイーベスト30」である。
私は倒れて以来、音楽には縁なく生きてきた。コンサートにもいかないし、カラオケも知らない。あえて避けてきたのかもしれない。いつもラジオを聞きながら眠るのだが、折角なのでCDを静かに聞きながら眠ることにした。
一曲目がベスト30の1位「高原列車は行く」、次が「長崎の鐘」、次が「イヨマンテの夜」だった。私は無性に悲しくなってベットにうつ伏して泣いた。込み上げるものを耐えながら聞く歌の、生まれるはるか以前の歌一つ除き、1枚目の16曲を全て知っていた。すべてが健康だった歩ける時代の歌だった。当時が甦り、ラジオ時代の家族が、卓袱台を囲んで聞いていた姿を思い出した。
それらが半世紀を経て尚、新鮮さを失わず、軽やかな、ある時は豪快に、クラシックを聴いているような前奏、間奏の格調高い流れに惹かれ、愛され歌われ続けてきたのだと思う。
以来、夜毎CDを聞いているのだが、CDの2枚目にも驚いた。早稲田の応援歌「紺碧の空」、阪神の「六甲おろし」・・・私はいつからか、真っ暗な寝室で、仰向けに寝たまま、CDに合わせ、オーケストラの指揮者さながらに幻のタクトを振っていた。手振り身振り宜しく闇に向って振っていた。楽しかった。眠りは飛んでしまうが、肩の痛みはやわらぎ、これもリハビリと独り呟く。今夜もこの原稿を終えて12時にはベットに入ろう。・・・、一人思い出に浸る孤独の味わい、邦子さん歩けるときの思い出幸せだね。