地図を傍らに一冊の本を読んだ。鎌田悠介著「オーストラリア自転車旅」である。
地名が出て来ると分からないので、地図に花丸を赤マジックでつけるので真っ赤になった。ページをめくるたびに胸がときめいた。
森で犬にかまれた?荷物が全部なくなった?ジムに4か月も通うの、それじゃ留学じゃない。
読みながらいちいち反応してしまう。
オーストラリアは日本の国土の22倍もある。私も一度だけ行ったことがある。シドニーの船着き場で思いがけない日の丸をつけた南極観測船「しらせ」に出あった。
遥かな地で肉親に逢ったような親しみを覚え思わず手を振ると、乗組員たちも大きく手を振ってくれた。
この船の名は、明治43年小さな木造船で臨んだ日本人探検家・白瀬矗(のぶ)の名だと思った。
鎌田さんが独りで、自転車でオーストラリア大陸を一周する旅の本に、何故か白瀬さんを思い出していた。
時代も何もかも違うが、目的に向って突き進む現代の冒険家の爽やかな心意気が、痛々しさが、雄々しく迫ってくる。
表紙には「アラサーサラリーマン格闘家がテントサイルで野宿しながらオーストラリア武者修行」と書いてある。
1年の旅、その半分は野宿、半分はモーテルかホステルに泊まり、走り続けた距離18,801キロ。その間の悲喜交々の記録である。
自転車の重さは荷物を積んで40㎏。山を越え果てなき原野を走るのだ。夢が委んでゆかないよう読みながら念じていた。
彼は新潟大学工学部卒の総合格闘家、28歳でプロデビュー、翌年には新人王をとり、長年の夢だった31才でオーストラリアに渡った。
彼のお母さんは県立葵高校の教師で知っている鎌田郁子先生で吃驚した。どんなにこの一年を案じておられたかと母の心を思う。
やはり、著者は女心に思う子への愛の言葉であった。感動!写真は小学館「世界大地図館」より。