平成26年度 千歳村文学講座 徳冨蘆花を知る
【第9回】講座「兄弟の確執」―蘆花と兄・蘇峰― レジュメ 講師渡邊勲氏(財団法人「蘇峰会」評議員)
虚説、巷説と事実(人物にたいする理解と認識)
(1)柾目にたつか板目にたつか
(2)作品と人格の乖離(葛西善蔵・林扶美子・坂口安吾・竹久夢二・永井荷風・太宰治)
賢兄・異弟(天才の兄と弟)
(1)毀誉褒貶の「知」の巨人
①20歳で開塾~講義は全て原書
②25歳で民友社を創立、雑誌「国民の友」28歳で「国民新聞」を創刊
③明治・大正・昭和の国論をリード
④数々の栄誉~貴族院議員、学士院会員・芸術院会員・文化勲章受賞(昭和18年)
⑤不朽の名作「近世日本国民史」(全・100巻)ギネスブックに掲載
⑥A級戦争犯罪人(戦犯)で自宅軟禁
(2)有名な「蘆花」、忘れられた「蘆花」
①満都の婦女子が落涙した「不如帰」、照憲皇太后もハラハラと落涙、漱石の娘
②自然文学の傑作~「自然と人生」「みみずのたはこと」
③教科書の掲載作品数が、群をぬいて随一
④社会的にあまりにも有名な「兄弟の確執」
即行・奇行・愚考・蛮行(性格障害かパラノイアか)
一蘆花と云う人間について-〝これほど興味深い人間はいない〝
およそ、これほど矛盾、撞着、欠点だらけの我儘我な人間はいない。
癇癪持ち、女好き、衝動的、嫉妬深く、まったくと云っていいはど抑制が利かぬ。
一方、弱虫、卑屈で劣等感が強い、常識外れの人間。
―中野好夫「蘆花徳富健次郎第一巻の「あとがき」より―
(1)奇妙で奇っ怪な行動の数々
①幼少時代~嘉悦孝子に助けられる毎日
②幼小時に多様な性の体験(少年時代余を犯した女42人、余を誘った女68人)
「蘆花日記」(大正3年8月4日)(あの永井荷風でさえ16人なのに)
(日本におけるポルノのはしり~佐伯彰一氏・前世田谷文学館長)
③勝海舟邸での新婚当初~女中が首吊り自殺
④勝海舟の言~鍋釜俎板包丁お櫃
⑤卓袱台破損(片貝海岸~中西月華邸)
⑥書斎の大机の傷~鉈で壊す
⑦「吾が名を『犬』に代えたい」ほどの犬好きの蘆花が、二度にわたり飼い犬撲殺
⑧闘病八ヶ月で、看護婦80人を馘首
⑨文壇・文士とはすべて没交渉(ミザントロープ)
逆巻く波と疾風迅雷(小説「黒潮」事件)
(1)小説「黒潮」事件と「告別の辞」
①「国民新開」の記者、外電の翻訳などで「うだつ」があがらぬ存在
②明治31年、小説「不如帰」で一躍有名に。「自然と人生」で文名たかまる
③〝 35年1月、小説「黒潮」の連載、6月末、突如、中止」
④〝 36年12月生活雑記「霜枯日記」の無断削除、またも激高
⑤〝 36年1月、「告別の辞」を送付、原稿はボツ
⑥退社、自宅に「黒潮社」を興す
⑦「黒潮」巻頭の「告別の辞」が反響をよぶ
⑧明治38年8月、日露講和条約に反対の群衆が暴動。国民新聞社を焼き討ち
⑨〝 〝12月、兄・蘇峰を訪ねて謝罪、「黒潮」の公開は卑怯であった
(2)小説が挫折、再び激浪が
①明治45年8月~第二次桂内閣が退陣、瓦解
②西園寺内閣発足~四ヶ月で瓦解、第三次桂内閣が発足
③大正2年2月2日~憲政擁護国民運動が起こり、数万の群衆がデモと抗議
「やまと新聞」「報知新聞」「国民新聞」が焼き討ちに
二日間の攻防で刀折れ失つきた兄・蘇峰を見舞い、小説連載を申し出る
④大正2年6月8日小説「十年」連載開始
〝 〝 〝20日11回で休載。25日、突如、中止の「社告」
⑤〝 〝 9月2日家族4人で、本州、九州、満州、朝鮮など3ケ月の旅
⑥〝 〝 10月26日「京城駅頭」で、無言のまま別れ以後、死の当日まで14年間、疎遠、断絶、絶交
「血をま水よりも濃し」 (覆水、盆に戻る)
(1)死の直前に劇的な和解
①昭和2年2月、狭心症の発作で倒れ病床
②〝 〝 〝急を聞いて粕谷に駆け付けた蘇峰を門前払い
③〝 〝 7月、車六台を列ねて「伊香保」へ
④看護についている姪・静子との会話から蘇峰への再会に
(2)「朝日新開」によって報道された〝劇的な再会〝と〝黄泉への旅立ち〝
①朝日新聞のスクープで、朝日の独占記事(浅沼一枝)
②18日深夜の死去が、翌、朝刊に微細に報じられた不思議
蘇峰の桎梏(しっこく)、蘆花の柵(しがらみ) (相性近し習い相遠し)
「兄弟は他人のはじまり」なり
①二人の生い立ちの違い~待望の出産と孫の出産
②儒学の家系と家族制度、総庄屋代官の家柄
③親譲りの異質の性格
④世俗と処世、不器用な人間関係
⑤思想と生き方~兄「権威」を許容、弟「権威」に反発
兄弟墻(かき)に鬩(せめ)ぐも外(そと)其の務(あなど)りを禦(ふせ)ぐ(詩経)
アップされたお話とレジュメだけ見ても楽しそうですね。
著作権が許す限り(笑)アップ願います。