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神宮外苑再開発の陰で蠢く政治家たち

2022年06月24日 | 東京都政・東京五輪・新国立競技場・神宮外苑開発

友人の川口重雄さんからのメールを転載します。

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神宮外苑再開発の陰で蠢く政治家たち<ノンフィクション作家・山岡淳一郎氏>(日刊APA!)220621
―― 明治神宮外苑の再開発に伴い、東京都が約1000本の樹木を伐採しようとしていることが明らかになりました。山岡さんはこの問題を取材し、YouTubeの番組「山岡淳一郎のニッポンの崖っぷち」で解説されていますが、再開発の背景について教えてください。
山岡淳一郎氏(以下、山岡) 事の発端は2003年まで遡ります。この年にJEM・PFI共同機構という団体が「東京都防災まちづくり計画事業提案書」なるものを作成します。この団体は平田篤胤を祀った平田神社の中に事務所があり、ゼネコンなどが加盟していました。彼らは神宮外苑を防災拠点にするために再開発を行うように求め、周辺に高層マンションを建設することを計画していました。
 この提案は小泉内閣が推進した規制緩和の流れの中から出てきたものです。当時、不動産や建設業界はバブル崩壊のあおりを受け、大量の不良債権を抱え込んでいました。
そこで、小泉内閣は都市再生を掲げ、建築物の高さや容積率の規制などをどんどん緩和していきます。高い建物を建築できるようになれば、新たに保留床が生まれ、それを事業者に売ったり貸したりすることができます。それによって不良債権の処理を進めようと考えたわけです。
 当時、神宮外苑は風致地区に指定されており、建物の高さの上限は15メートルとされていました。そのため、高さ制限を緩和して高層ビルを建てれば、多くの利益を生み出すことができるとして、再開発にとって格好の場所と見られていたのです。
 翌2004年、今度は電通が「GAIEN PROJECT『21世紀の杜』企画提案書」というものを作成します。これは外苑竣工100周年を見据えて東京にオリンピックを招致し、それにあわせて老朽化した神宮球場をドーム化するといった企画でした。予算は300億円を見積り、100億は国、100億は不動産や建設業などの事業者、100億は外苑の地権者である明治神宮に負担してもらう計画だったとされています。
 ここからもわかるように、東京オリンピックと外苑再開発は一体のものであり、むしろ再開発の口実としてオリンピックが利用されていると言ったほうが真相に近いと思います。
 同じころ、明治神宮が神社本庁からの離脱を表明します。これには外苑再開発問題が関係していると見られ、多くの批判が集まりました。
 明治神宮は明治天皇と昭憲皇太后の遺徳を末永く伝えるためにつくられたものです。
そこを再開発の対象にし、あの静謐な場所を破壊しようというわけですから、批判されるのは当然だと思います。
森喜朗と石原慎太郎の暗躍
―― 外苑再開発では巨額のお金が動いていますが、政治家は関わっていますか。
山岡 キーパーソンは森喜朗元首相と、先日亡くなった石原慎太郎元都知事です。
 JEM・PFI共同機構があった平田神社の6代目当主は、米田勝安氏という人でした。彼はすでに鬼籍に入っていますが、森氏とは早稲田大学時代から親交があり、雄弁会というサークルの仲間だったと報道されています。また、石原氏は1999年から東京都知事を務めており、明治神宮が神社本庁を離脱したころ、明治神宮の総代でした。
 東京都がこの問題に本格的に関わるようになったのは2005年からです。元都庁幹部で石原氏のスピーチライターでもあった澤章氏によれば、2005年夏に森氏が突然石原氏のところに訪ねてきます。いったい何のために来たのだろうと不思議に思っていたところ、石原知事が突如、東京に2回目のオリンピックを招致するとぶち上げたのだそうです。まさに電通の提案書に沿ったような動きです。
 翌2006年、都庁に五輪招致本部ができ、メインスタジアムの建設が計画されます。このときはまだ外苑が風致地区に指定されていたこともあり、メインスタジアムは晴海につくることになっていました。今回のオリンピックで選手村になったところです。
 しかし、2009年のIOC総会で東京は落選し、開催地はリオデジャネイロに決まります。石原氏の落胆ぶりは相当のものだったそうです。
 これで外苑再開発も立ち消えになるかと思われましたが、2010年に「ラグビーワールドカップ2019日本大会成功議員連盟」が結成されます。よく知られているように、ラグビー界は森氏と非常に深い関係にあります。そして翌年、この議連が国立競技場をワールドカップのために8万人規模に改築する案をぶち上げたのです。
 同じころ石原氏が都知事に4選し、再び東京へのオリンピック招致に意欲を示します。2012年になると、オリンピックのメインスタジアムとして新国立競技場をつくろうという話が出てきます。

 東京都もこの動きをアシストします。2013年に国立競技場の周辺一帯を再開発等促進区とすることで、それまで15メートルだった高さ制限を最大80メートルにまで緩和したのです。
 同年2013年のIOC総会でついにオリンピックの東京開催が決定します。これを受けて、再開発の動きが本格化します。
 2015年には東京都とJSC(日本スポーツ振興センター)、明治神宮、伊藤忠、三井不動産などが「神宮外苑地区まちづくりに係る基本覚書」を締結します。翌2016年には都営霞ヶ丘アパートの解体工事が始まり、住民が強引に立ち退きを求められるなど、大きな問題となりました。
 そして昨年2021年に東京オリンピックが開催されました。オリンピックが終わったあと、再開発がどうなるか注目されていましたが、そうした中、今年になって1000本の樹木を伐採する計画が明らかになったのです。しかし、事業者たちは2021年7月の段階で、どれだけの樹木を切るかを把握していました。都民に情報を隠したまま、再開発を進めようとしていたと見られます。
ラグビー場と野球場を入れ替える理由
―― 現在の再開発計画では、いま明治神宮第二球場がある場所にラグビー場をつくり、秩父宮ラグビー場があるところに新たに野球場をつくることになっています。つまり、ラグビー場と野球場の場所を入れ替えるということです。なぜわざわざこんなことをする必要があるのでしょうか。
山岡 神宮球場の集客力をあげるためだと思います。明治神宮野球場や第二球場はJR千駄ヶ谷駅や信濃町駅に近く、秩父宮ラグビー場は東京メトロ外苑前駅や青山一丁目駅の近くにあります。これを入れ替えると、野球場が外苑前駅や青山一丁目駅に近づき、ラグビー場が千駄ヶ谷駅や信濃町駅の近くに位置することになります。
 野球場とラグビー場を比べた場合、野球場のほうが人をたくさん集めることができます。外苑前駅や青山一丁目駅は複数の路線が乗り入れており、アクセスが良いので、場所を入れ替えればさらに多くの人が野球場にやってくると見込めます。
 しかも、再開発に伴い、さらに高層のビルを建設することが容認されたため、野球場のそばには約190メートルと約185メートルのビルが建つことになりました。ここにはオフィスや商業施設が入るので、青山一帯と連動させて集客を期待できるわけです。
 明治神宮野球場や第二球場は明治神宮が所有しており、ドル箱中のドル箱です。明治神宮にとって非常に都合のいい計画になっていると思います。
―― ユネスコの諮問機関である「イコモス」という組織の日本国内委員会が、樹木伐採を回避する代替案を出しています。それによれば、樹木は2本しか伐採せずに済むそうです。こちらのほうが魅力的です。
山岡 日本イコモスの案は野球場とラグビー場を入れ替えず、現在地やその近くで再建するというものです。野球場にしてもラグビー場にしても、その場で建て替えれば大規模な工事は必要ないですから、伐採する樹木もわずかで済むのです。
 しかし、ディベロッパー側からすれば、大規模な工事をしなくていいということは、それだけ旨味が少ないということになります。また、野球場やラグビー場を現地で建て替える場合、競技ができない期間が延びる。他方、場所を入れ替え、順番に建て替えれば、競技を継続しながら工事を行うことができます。明治神宮としては、競技場が使えない期間が長引くことは何としても避けたいということだと思います。
政官業で利権を分け合う構図
―― 老朽化した設備の補修や建て替えは必要だと思います。しかし、地球温暖化対策やSDGs(持続可能な開発目標)の重要性が叫ばれている今日、大規模な再開発はあまりにも時代遅れです。
山岡 日本のGDPに占める建設投資額の割合は、この20年間ほとんど変化していません。2002年の数字を見ると、GDPは485兆円、建設投資額は57兆円、GDPに占める割合は約12%でした。2021年の数字を見ると、GDPが536兆円、建設投資額は63兆円なので、やはり12%程度です。
 しかしこの間、建設業界では大きな変化が起こっています。建設業の就業者数を見ると、2002年は620万人ほどでしたが、いまは500万人を割り込んでいます。建設会社の数も減っています。
 それにもかかわらず、建設投資の対GDP比が維持されているのはなぜか。それは、大手ゼネコンにこれまで以上に利益が集中しているからです。実際、大手ゼネコンの経営状況を調べてみると、010年には大手29社の売り上げの合計は10兆円を割っていましたが、2017年には13・9兆円、2019年も12・6兆円となっており、大幅な増加が見られます。
 官が大規模プロジェクトを企画し、それを大手ゼネコンが受注して利益をあげ、政界や官界に還流させる。まさに土建国家そのものです。一昔前の日本では、官主導で地方の土木建築や住宅開発などが行われ、その利益を政官業で分け合うという構図が見られました。最近は土建国家という言葉はあまり使われなくなりましたが、都市再開発という形に変わっただけで、この構図自体は何も変わっていないのです。
 最近の例をあげると、東京オリンピックの選手村の建物は「HARUMI FLAG(晴海フラッグ)」という分譲マンションに転用されていますが、ここには三井不動産を筆頭に大手ディベロッパー11社が関わっています。東京都はこの土地を時価の10分の1程度の値段で払い下げましたが、実はこれらの事業者に東京都の局長クラスなど21人のOBが天下りしているのです。これは結局、仲間内で利益を分け合っているだけですから、こんなやり方を続けている限り、日本経済が発展することはないでしょう。
小池知事はストップをかけるか
―― 小池百合子都知事は環境政策を重視していますが、外苑を破壊する再開発に待ったをかけるつもりはないのでしょうか。
山岡 新聞報道によれば、小池氏は5月27日の記者会見で「多くの都民の共感と参画を得ながら進めていくことが鍵だ」と述べ、三井不動産などの事業者に対して必要な資料をしっかりと提出し、真摯に対応するように要請したことを明らかにしました。しかし、この再開発計画は都知事が承認したからこそここまで進んできたのであり、いまさら共感と参画などと言っても説得力がありません。これでは単なるガス抜きと見られても仕方ありません。
 本当に都民の共感と参画を得ようと思っているなら、いったん再開発を中止し、都民と事業者、地権者が公開で討論するような場を設けるべきです。これこそあるべき都市づくりの姿でしょう。
 小池知事にはそれをやれるだけの力があります。現に、小池氏が築地市場移転問題に対処した際は、すでに豊洲市場の開場日が決まっていたにもかかわらず、それにストップをかけました。そこから考えれば、小池氏が外苑再開発をいったん中止することは決して難しくないはずです。
 おそらく小池氏は、外苑再開発に伴って1000本の樹木が伐採されることが最初に報じられたとき、この問題はそれほど大きくならないだろうと甘く見ていたと思います。しかし、都民の間でだんだんと関心が高まり、批判の声が強まっているので、小池氏も内心焦っているはずです。
 7月には参院選が予定されています。東京選挙区からは、小池氏が国政に送り込もうとしているファーストの会の荒木ちはる氏が出馬することになっています。東京選挙区は大混戦が予想されており、荒木氏が落選すれば、小池氏の政治力にも影響を与えます。そのため、小池氏が参院選への影響を見据え、再開発にいったんストップをかけることも考えられます。今後も小池氏の言動を注視していく必要があります。
(6月4日 聞き手・構成 中村友哉 初出:月刊日本7月号>)
やまおかじゅんいちろう●ノンフィクション作家。著書に『コロナ戦記 医療現場と政治の700日』岩波書店、『ドキュメント感染症利権』、『原発と権力』ともにちくま新書ほか多数。時事番組司会、コメンテーターも

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(了)

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