家の用事で駅まで出かけたので、これ幸いと、ランチはリッチなカレーのお店アサノへ。
「また、アサノか?」と呆れることなかれ。 写真をよく見て欲しい。そう、今日は皿の上にアサノご自慢のカツがない。艶やかなゆで玉子の行儀良く置かれたエッグカレーである。二代目になってからはじめての注文だから、何年ぶりだろう?
カツカレーのルーはポークカレー、エッグカレーのそれはチキンであることは自明のことだが、アサノの場合、その味わいは想像以上に違う。脳髄までガツンと痺れるようなポークに対し、チキンは柔らかく優しい味なのだ。この傾向は先代の頃にはもっと著しく、前者=ポークの孤高はムラヴィンスキーの音楽をすら思わせたものである。とすれば、後者=チキンはブルーノ・ワルターとも言えようか。
いまでこそ、カツカレーは自他共に認めるアサノの看板メニューではあるが、ボクが通い始めた20年ほど昔、最も人気のメニューはチキンであった。先代に直接聞いたことだから間違いない。もちろん、先代ははじめからカツカレーに自信を持っていたのだけれど、今のように客の8~9割がカツカレーを注文する、ということもなく、客の半数近くはチキンを食べていたのだ。
あの頃は、まだ、各種ガイドブックに採り上げられることも少なく、テレビの取材もなく、お店もノンビリしていて、ルーを持ち帰りたいと言えば分けてくれたし、漬け物の切れ端をお土産にくれたり、エッグカレー用のゆで玉子が切れれば、おじさんが目玉焼きを焼いてくれたりした。懐かしいな。
さらに、今はメニューにないビーフカレーもあり、これも独特の深い味わいがあった。いまも瞼を閉じるとあの芳しい香りが思い浮かぶ。しかし、狂牛病騒ぎのあと、注文する客がパタリといなくなってメニューから消えた。これも、先代が無念そうに語ったことである。
期間限定で復活してくれないかな?
あのビーフカレー。