-Episode_4/沖田幸洋の場合-
ぼんやりと歩いていたわけではない。けれ
ど不意に前方へ目線を送ると、女性の背中が
映る。それは紛れもない見知った女性の背中
だった。追いかけていいのだろうか。そう思
いながらも行動は相反している。
そして見知らぬ男にその行動を制止させら
れるというあり得ない行為に阻まれる。が、
その男の無意識の行動には感謝している。
歩き始めた僕の目線がまた女性を捉える。
彼女は怯え切った表情をしている。そんなに
険しい顔だったのだろう。察しはすぐについ
てしまう。横を通りすぎる瞬間「驚かせてご
めん」ささやくように耳打ちをする。
彼女の反応はまったく気にしない。それが
ルールでもある。と勝手に決めつけていく自
分がいる。
今日の空。それはどうでもよかった。あの
男が見上げた空なんて見たくもないと思った。
それでも降り注ぐ光を感じるのだから。
僕は振り返る。そして女性の背中を見る。