あの青い空のように

限りなく澄んだ青空は、憧れそのものです。

詩 『便所掃除』 について

2010-08-26 08:48:02 | インポート

高速道路のパーキングのトイレに こんな貼り紙がありました。

『いつも きれいに トイレを使っていただき、ありがとうございます!』

「~への協力をお願いします」 といった お願い形式のメッセージはよく見ますが、感謝のメッ

セージはめったに見ません。

利用する側からすれば、どちらが気持ちのよいメッセージと感じるでしょうか?

利用者への信頼の思いを込めたメッセージは、やわらかに心に止まります。

お願いは、利用者への要求といった強いメッセージとして心に止まる場合があります。

私はそのメッセージを見て、気持ちが和み、改めてきれいに使おうという思いがしました。

トイレに関しては、心に残る詩があります。

国鉄職員の浜口国雄さんが書いた詩(JRが国鉄だった頃に「第5回国鉄詩人賞」を受賞した

詩:1955年作)です。※出典:岩波新書の『真壁仁編:詩の中にめざめる日本』より

    

    便所掃除             浜口 国雄

扉をあけます。/頭のしんまでくさくなります。/まともに見ることが出来ません。

神経までしびれる悲しいよごしかたです。/澄んだ夜明けの空気もくさくします。

掃除がいっぺんにいやになります。/むかつくようなババ糞がかけてあります。

どうして落着いてくれないのでしょう。/けつの穴でも曲がっているのでしょう。

それともよっぽどあわてたのでしょう。/おこったところで美しくなりません。

美しくするのが僕らの務です。/美しい世の中もこんな所から出発するのでしょう。

くちびるを噛みしめ、戸のさんに足をかけます。/静かに水を流します。

ババ糞に、おそるおそる箒をあてます。/ポトン、ポトン、便壺に落ちます。

ガス弾が、鼻の頭で破裂したほど、苦しい空気が発散します。

心臓、爪の先までくさくします。/落すたびに糞がはね上って弱ります。

かわいた糞はなかなかとれません。/たわしに砂をつけます。

手を突き入れて磨きます。/汚水が顔にかかります。

くちびるにもつきます。/そんなことにかまっていられません。

ゴリゴリ美しくするのが目的です。/その手でエロ文、ぬりつけた糞も落します。

大きな性器も落します。

朝風が壺から顔をなぜ上げます。/心も糞になれて来ます。

水を流します。/心に、しみた臭みを流すほど、流します。

雑巾でふきます。/キンカクシのウラまで丁寧にふきます。

社会悪をふきとる思いで、力いっぱいふきます。

もう一度水をかけます。/雑巾で仕上げをいたします。

クレゾール液をまきます。/白い乳液から新鮮な一瞬が流れます。

静かなうれしい気持ですわってみます。/朝の光が便器に反射します。

クレゾール液が、糞壺の中から、七色の光で照します。

便所を美しくする娘は、

美しい子どもをうむ、といった母を思い出します。

僕は男です。

美しい妻に会えるかも知れません。

『美しくするのが僕らの務』『美しい世の中もこんな所から出発するのでしょう』という思いが汚れたものをきれいにする便所掃除に立ち向かう心意気なんですね。掃除の様子がリアルに描かれていますが、『社会悪をふきとる思い』で一生懸命掃除する作者の姿が強い迫力で伝わってきます。掃除を終えた後の『朝の光が便器に反射する』様子や『七色の光』が目に見えるようです。一つ一つの小さなできることから、美しい世の中にするための一歩を刻んでいきたいものです。

最後の四行が心に残ります。きっと、作者は美しい妻に会い、美しい子どもを得ることができたのではないかと思います。美しい妻になった女性は、作者と同様に汚いものをきれいにすることにためらいなく取り組むことのできる内面からあふれる美しさを持った女性だと思います。

美しいものの意味や大切さ、汚いものを美しくすることの意味や価値について改めて考え、美しい世の中にする小さな一歩を実践できたらと思います。

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