【昨日の続きです】
民主主義を安定させるためには、優秀な政治的リーダーを安定供給させるためにも、教育が行き届いた、ある程度の上層階級の形成が必要になりますが、そのような特権階層を一般市民に是認させるための前提条件が、この階層の「リーダーとしての矜持や自己犠牲の精神」、すなわち「ノブレス・オブリージュ」であると前回述べました。
実際、19世紀の英国やフランスの貴族の若者たちは、世界各地で発生する紛争に対して、自ら進んで従軍し多数の戦死者を出しています。また、ついこの間まで、アメリカの大統領候補になるためには従軍経験が必須でした。父ブッシュは太平洋戦争でグラマンのパイロットであり、ゼロ戦に撃墜されたにも拘らず、無事生還したエピソードが有名でした。共和党候補になったマケイン上院議員はベトナム戦争時に捕虜になり、長期にわたる拷問を受けたながら、これもまた無事生還した国家の英雄でした。
しかし、現在の世界各国の政治リーダーや官僚・企業経営者・富裕層はどういう状況でしょうか?
従軍経験の乏しさはもちろんのこと、資本市場の合理性の帰結として、あまりに行き過ぎた格差拡大を是認するばかりで、「取り残された人々」への配慮に欠ける国家リーダーが多数になっています。
取り残された人々の閉塞感とは、「真面目にコツコツ働き」、「戦争があれば国のために命を懸けて戦い」、「国外で苦労する人々がいれば、積極的に移民として受け入れ」、「それなのに、自分たちは、親よりも子が、子よりも孫が、豊かになっていくことが実感できない」というもの。正義の最前線で闘っていたのに、その人々を取り残したばかりか、ウォール街の強欲者たちばかりを持てはやしていると、不満が溜まりに溜まっている感じ。
一方で、特権階層ともいえるリーダー層・富裕層には、いざとなったら命を懸けて自分たちを守ろうというノブレス・オブリージュの精神が見えないばかりか、ぜいたくな暮らしをただ満喫しているだけの存在に見える。それなら既存のエリートの言うことなんか信じるものか、となって、ヒラリー・クリントンは負けた訳ですし、この不満を煽るだけ煽って、大統領になったのがトランプ。さすがに、ボロが出て1期で終わりましたが、国民の分断を利用した「ポピュリズム政権」の代表的事例となりました。
民主主義の賞味期限を延ばしていくためには、時間がかかっても、ノブレス・オブリージュの精神が溢れるリーダー層を育てていくしかありません。それが間に合わなければ、過去の歴史と同様、独裁的な帝政の時代へ向かうことになると思います。民主主義と一党独裁の国家主義、現在、分が悪いのは民主主義の方です。共産党一党独裁の中国国家資本主義が、世界を支配する次のスーパーパワーになるのかもしれません。この危機感が、絶対的に日本人には足りないのです。
ちなみに、ポピュリズムにより民主主義が壊れかけている危険地帯は、世界中に幾つかありますが、我々にとって最も身近な地域が朝鮮半島です。民主主義の最前線が38度線のままか、対馬沖になるのか、ここは改めてテーマにしたいと思います。(続く)