最近の傾向として、春のクラシックホースが、次の目標として、菊花賞を選ばずに、天皇賞秋あるいは海外遠征を選択するケースが散見するようになってきました。
1995年に皐月賞馬ジェニュインが、天皇賞秋に挑戦してハナ差2着となったことには驚きましたが、その翌年の1996年には、朝日杯の勝ち馬バブルガムフェローが3歳時に天皇賞秋を制覇。2002年には、ダービー2着馬のシンボリクリスエスが天皇賞秋を制覇して、強い3歳馬が出てくれば勝負になることは一般的に認められるようになりましたが、まだこの頃は、3歳春のクラシックを賑わした馬の多くが菊花賞を目指すのが当たり前でありました。
しかし、2004年のキングカメハメハ、2008年のディープスカイが、秋に神戸新聞杯を圧勝したにも関わらず、菊花賞へは向かわず、天皇賞秋を選択(キングカメハメハは故障発生で引退)したあたりから、流れが変わってきました。もちろん、春二冠を達成した馬は三冠を目指して菊花賞を目標にしますが、そうでなければ、菊花賞ではなく、敢えて別の目標を立てることが当たり前になって参りました。
キズナ、マカヒキ、ドウデュースは凱旋門賞へ。サートゥルナーリア、エフフォーリア、ワグネリアン(不出走)は天皇賞秋へ。シャフリヤールはジャパンカップへ。
このような傾向が強くなったのは、理由が2つあります。
第1に、菊花賞馬の価値が、種牡馬としては、あまり高く評価されない状況になってしまったこと。これは天皇賞春も同様です。
第2に、芝3000mの菊花賞が高速化して激しい消耗戦になってきたため、菊花賞出走後に長い休息期間が必要になってきたこと。
でも本当に、この傾向が正しい方向なのでしょうか。最近になって、個人的には疑問を持つようになってきました。
確かに、2000年代の菊花賞馬を見てみると、マンハッタンカフェとディープインパクト以外は、ヒシミラクル、デルタブルース、ソングオブウインド、アサクサキングス、オウケンブルースリ、スリーロイス、ビックウィークですから、種牡馬としても冴えない名前が連なっています。こうなると、菊花賞自体の価値が下がるのも仕方がなかった気がいたします。
しかし、2011年以降の菊花賞馬を見て下さい。オルフェーヴル、ゴールドシップ、エピファネイア、キタサンブラック、サトノダイヤモンド、フィエールマン、コントレイル、タイトルホルダー。
フィエールマンやコントレイル、タイトルホルダーはまだ産駒がデビューしていませんが、エピファネイアは、今やディープとキンカメ亡き後の日本の生産界を支えるトップ種牡馬として君臨。またゴールドシップも日高の生産界を救う救世主のような種牡馬となっており、勢いのある血脈に溢れています。さらに、昨年が第一世代のキタサンブラック、今年が第一世代のサトノダイヤモンドは、産駒数はまだそれほど多くはありませんが、クラシックを賑わせる有力馬を何頭も出す期待の種牡馬となっています。そして何と言っても三冠馬コントレイルは、社台SSが命運をかけて世界の繁殖系を集めて成功を確実なものへ全力を尽くしていますし、タイトルホルダーは生産者の岡田牧雄氏がビッグレッドファームの威信をかけて必ず成功させると今から宣言されています。
ここへ来て、生産界にとっても菊花賞馬の価値は復活していると思います。
それでも、今年の3歳陣は、ダービー馬ドウデュースは凱旋門賞、そして皐月賞馬ジオグリフとダービー2着馬イクイノックスが菊花賞へは向かわずに、天皇賞秋を目標としています。これはこれで、彼らの適性を考えてのことですから仕方がありませんが、それによって菊花賞の価値が下がるということではないと思います。
トライアルの神戸新聞杯を圧勝して復活を遂げた⑰ジャスティンパレス。その神戸新聞杯で大外を回して最速の上りで3着へ入った④ボルトグフーシュ。トライアルのセントライト記念で抜群のスピード持久力を見せた①ガイアフォース。そのセントライト記念で2着となったダービー3着馬の⑭アスクビクターモア。春のダービートライアル青葉賞の勝ち馬③プラダリア。夏の上り馬でドゥラメンテ産駒の⑪ドゥラドーレス。
将来、エピファネイア、キタサンブラック、ゴールドシップと同じく、価値ある種牡馬となる菊花賞馬が必ずこの中にいるのだと思います。今年の菊花賞も、菊花賞および菊花賞馬の復権を象徴するような素晴らしいレースであることを期待いたします。