「神か、リアリズムか?19世紀ロシアの芸術文化における“救い”の探求」
亀山郁夫先生によるレーピン展記念講演会の様子
亀山郁夫先生によるレーピン展記念講演会の様子
26日日曜日、Bunkamuraザ・ミュージアム展示室内にて、ロシア文学者の亀山郁夫先生による講演会が開催されました。
「芸術家は何らかの“救い”を求めて制作をしているのだろうか」という問いかけから始まり、レーピンをクラムスコイやムソルグスキー、トルストイなど、1861年の「農奴解放」以降に活躍した「革命家世代」の芸術家に位置づけて、時代背景や文学的な出来事と絡めてお話下さいました。
まずは1879年、ドストエフスキーが『カラマーゾフの兄弟』を書き上げたのと同じ年に制作された《皇女ソフィヤ》より。
@The State Tretyakov Gallery
皇女ソフィヤは同母弟イワン5世と異母弟ピョートルの摂政として権力を握りましたが、後に修道院に幽閉されます。その後銃兵隊がソフィヤを擁して暴動を起こしましたが鎮圧され、遺体はソフィヤの左手奥の窓から見える位置に吊るされました。
この作品が制作された1879年は露土戦争終結の翌年にあたり、革命グループ「人民の意志」が結成された年でもあります。
講演では、レーピンの作品が持つ特徴として
・歴史の酷薄さへのまなざし
・人間のドラマに対する想像力
・複雑なテクスト構造
・無力性の自覚:全体性の表現とカーニバル感覚
・隠された天性:リアリズムの威力と幻想性の融合
の5つを取り上げていらっしゃいましたが、『皇女ソフィヤ』はまさにこの「人間のドラマに対する想像力」を最大限掻き立てて描かれた作品といえるでしょう。
そして1881年に起きたアレクサンドル2世暗殺の衝撃が抜け切らない、「たそがれの時代」に制作された作品群のなかでも、特に危険を伴ったのが《1581年11月16日のイワン雷帝とその息子イワン》。本展ではその習作が出品されています。
@The State Tretyakov Gallery
暴君として知られるイワン雷帝が些細な諍いから実の息子を撃ち殺したあと、激しい後悔の念に襲われている場面です。上述の時代背景を受け、あまりにも衝撃的なこの作品は、当初展覧会での公開禁止処分まで受けました。肖像画家として知られるレーピンの鋭い一面に、「歴史の酷薄さへのまなざし」「人間ドラマに対する想像力」を重ね合わせることの出来る作品です。
他にも、レーピンの出世作である《ヴォルガの船曵き》について、ドストエフスキーが評した
「船曵きたちの誰一人として哀れみを乞わず、寧ろそのしたたかな一面までも表現している」
というリアリズムの威力など、まるで歴史物語の一編として作品が浮かび上がってくるようでした。
講演会の後で観る展覧会は、こうした物語をひとつひとつ確認するような、再発見の時間になりました。
改めてありがとうございました。
また、今回の講演会を聞き逃してしまった方に朗報です!
会場入り口で貸出しされているオーディオガイドでは、スペシャルトラックとして亀山先生の解説も収録しています。レーピンと同時代の音楽も合わせてお楽しみ頂けますので、是非ご利用下さい。
Bunkamura ザ・ミュージアム
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