二月も後一週間になった。陽射しはどこか春めいているが吹く風はまだ冷たい。東風が吹いたかどうか知らないが梅が咲いてきた。
なぜ居るのが分かるかと言えば騒がしいからだ。待合室と診察室は7-8m離れているのだが、何時も大きな声で誰彼となく話しかけてしゃべらずにおられない人が居る。四、五十人に一人くらいの感じで、以外に男性の方がやや多い。何を話しているかまでは分からないが声の感じで、また来ているなというのがわかる。話し相手の声は聞こえない。相手の声が小さいのか、返事なぞしていないのか。どちらにしても、そんなことはお構いなしに話し続けてしまう。考えていることが次から次と言葉になって出てきてしまうらしい。
我が医院を褒めるのも貶すのも、話す前にちょっと考えるということがないから、お構いなしだ。慣れない事務員や看護師は薬がちっとも効かないだの、女房が朝飯を食べさせてくれないだの、聞き捨てならないことをいかつい男が大声で話すものだから、びっくりする。慣れた職員は馬耳東風に聞き流している。
そうした患者の一人、Sさんが来なくなって久しい。交通事故を起こし、骨折で通院できなくなったのだ。退院しても、息子が運転させないと言っているので、もう来れないだろう。待合室が静かになったが、なんとなく淋しい。