駅前糸脈

町医者をしながら世の中最前線の動きを感知、駅前から所見を発信。

暗い夜道を曲がると、そこに

2015年04月08日 | 旨い物

                       

 住宅地に本当に暗い道はない。それが、高々四、五十分のドライブで、真っ暗な山間に辿り着く。日本は山国、関東平野や濃尾平野など一部を除けば、どこでも海から三十キロも走れば山の中だ。まばらな街灯の暗い夜道を、これで合っているのだろうかと不安になりながら走らせると、狸か狐の提灯まがいの道案内が現れた。ここを右折かと曲がってくねくねと野道を進むと農家が数軒現れた。右奥に明るい家があり屋号を書いた看板が出ている。やれやれここかと店の前に車を駐める。驚くことに食べログと書いた札が入り口に下がっている。ガタピシの引き戸を開けて入ると原住民と思しき家族づれが五六人、入り口のテーブルで宴会を開いている。見たことのない顔に驚きながら店主らしき婆さんが奥の席に案内して呉れた。

 嫁か娘かが持ってきたお茶を飲みながらメニューを一睨み、焼きそばお好み焼きカツ丼親子丼・・・と十数種類の料理が書かれてある。さほど空腹ではない、物は試しと焼きそばを頼む。

 五、六分ジュージューと音がしていたかと思うと濃厚ソースたっぷりに紅ショウガが添えられた焼きそばが登場した。何を隠そう京料理人に馬鹿にされた尾張の田舎者の英雄の隣町の出身、実はくどい味が大好きなのだ。大きな声では言えないが広島の焼きそばやお好み焼きは見た目ほどくどくなく結構あっさりしていて、美濃尾張の人間にはちょいと物足りない。どういうわけかここの焼きそばはくどい味で堪能した。帰り際「まんだ、これから奥へ行きんさるか」と婆さんがこの人達は何者と興味津々で聞いてきた。「いや、すぐ近くだから」と曖昧に答えたことだ。

 帰り道、女房があのお婆さん岐阜の人じゃないと言う。そういえばそんな言葉遣いだった。果たして夢か真か、狸の出店のような気もするが、いつかもう一度来てみたい。

 

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