駅前糸脈

町医者をしながら世の中最前線の動きを感知、駅前から所見を発信。

最強の人

2016年07月05日 | 世の中

     

 まるで真夏のようなというより、真夏そのものの日が続いている。異例の早さだが、梅雨が明けたと極小の私設気象庁から独断で発表しておこう。まだ土砂降りが時にあるだろうがそれはゲリラ豪雨ないし夕立で、梅雨前線は萎んできたと観測している。

 T夫妻は通院し始めて十年目だから当院では古参とまではゆかないが、中堅どころの定期通院患者さんだ。通院し始めの頃はご主人が五十キロで奥さんが四十キロだった。当初から奥さんには軽い認知があり食欲も減退気味で、ご主人が心配され、半年ほどかけていろいろ調べたのだが、特別の内臓疾患は見つからなかった。平凡な胃薬が効いたか、認知が進行したせいか五、六年前から奥さんは太りだし、逆に眉間にしわを寄せたご主人は痩せ始めた。遂に昨年の暮れ奥さんが45キロを超え、ご主人が45キロを切ってしまい、攻守が変わった。

 神経質できめ細かいご主人は奥さんの世話でへとへとになってしまい、もう限界ですと嘆かれる。奥さんは所謂動けるボケで、目を離せない。勿論、病識はなく自分の置かれた状況は全く理解できていない。幸い?多幸感があり、不安心配が皆無で、機嫌よくご主人に付いてこられる。診察室の椅子にもここに座れと手で教えないと座れない。

 先日、受診時にご主人が家内は最強です、怖いものがありませんと半泣きで苦笑いされた。冷蔵庫に靴や下駄を入れ、廊下で用を足し 頭が変になりそうですと報告された。どうもうまく言葉の掛けようもなく、最強の人に良い解決策を持たない医者はただ頷くばかりだった。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする