K氏は七十二歳、一昨年リタイアされ悠々自適の生活をされている。「お変わりないですか」に、「あんまり暇も良くないね」と苦笑いで答えられる。前回の血液検査の結果を説明する。尿酸が7.6mgとやや高い。カルテのメモ欄にアルコールを嗜むという記載があったので、
「ビールも飲まれますか」。
「いや、大した量じゃないよ」。
「ああ、そうでしたか。缶ビール一本位ならいいんですが」。
「酒は弱いんだよ、女には強いんだがね」。
「えー、おーそうでしたか」と思わず大きな声を出してしまった。
「いや、強かった」。と横を向かれる。ここで看護師が半畳を入れると面白いのだが、Aさんは有能なのだが口が重いせいかこの話には乗ってこず、「それでは、お大事に」とお終いになってしまった。
K氏は小さな会社の社長で、若い時にはそちらの方で活躍の場もあったのだろうと思う。いや、ついこないだまでかも知れない。
広く浅く診る医者として、初診では必ず酒煙草をどの程度やるか確かめるのだが、ギャンブルや異性関係までは聞かない。全く病気に無関係ではないだろうが、そうした習慣がないので内科では聞きにくい。
勿論、中には聞いていないの告白したり、時には元気を出したい相談もあるのだが、あっさり出来る範囲で対応している。