佐藤允彦がレコーディング・デビューしたのは1968年に録音された「パラジウム」で、ボストンのバークリー・スクール・オブ・ミュージックを同年8月に卒業し、帰国してすぐのことです。(LP発売は翌年)
同時期にバークリーで学んだベースの荒川康男と組んで、デュオで活動を始め、やがてドラマーの富樫雅彦の参加によりトリオとなって、当時としてはジャズ界屈指のピアノ・トリオとなりました。
このアルバムではレノン=マッカートニーのコンビが作った「ミッシェル」が演奏されており、ベースの導入部から始まってピアノが1コーラステーマを弾きアドリブに入りますが、その演奏はカッコいいです。
途中でベースのフリーなソロに絡んでドラムとの掛け合いもあり、14分51秒が長さを感じず、あっという間に終わります。
このようにビートルズの曲をジャズ化したものは他にも沢山ありますが、この曲に関してはこれがベスト・プレイであると思います。
今回このパラジウムを取り上げたのは、3月20日にレコード盤が再発売され、チョッと話題になったことで、当時の佐藤允彦のアルバムを改めて聴いてみたからです。
この再発盤のセールス・ポイントを販売元のチラシから記載すると…
1)オリジナル・マスターテープからのデジタルを一切介さずにカッティング
2)マスター盤から直接プレスする「マスター盤プレッシング」
3)オリジナル盤同様の「赤盤」を再現
そして、マスター盤プレッシングについては…
通常のレコードは、カッテイングされたラッカー盤からマスター盤 ⇒ マザー盤 ⇒ スタンパー盤という製造工程でプレスされるが、今回はマザー盤、スタンパー盤を製作せずにマスター盤から直接プレスし、2度のコピーを省くことからカッティング時に近い溝が形成され、よりダイレクトでリアルな音の再生ができる。
デジタルを一切介さず、オリジナル・マスターテープから全工程アナログ処理でカッティングしている。
ということで、録音当時から40年以上経過しているためドロップ等の問題はありますが、オリジナルテープが残っていること自体が素晴らしいことでもあり、再発盤の意義もあるため、早速購入し聴き比べてみました。
「PALLADIUM」 東芝 EP-8004
(再発盤はEMIとなっていて、レーベルの上部の文字が当時のものと異なります。一方ジャケットは再発盤のほうが少し色濃く、反対にレーベルの色は薄いです。)

1. OPENING
2. MITCHELLE
3. DER ZWEIG VON SALZBURG (ザルツブルグの小枝)
4. PALLADIUM
5. SCROLLIN’
6. CLOSING
佐藤允彦(p) 荒川康男(b) 富樫雅彦(ds) 1968年録音
私が以前から所有していたLPは、最初に発売された時期のものですが、黒盤であるからして全くのオリジナル盤ではありません。
オリジナル盤は、静脈血のようにドス黒い血の色の赤盤です。
また再発盤は、当時の染料がないため動脈血のような鮮血な赤盤であるとの断りがありました。
よって全くのオリジナル盤と再発盤との比較という訳にはいきませんでしたが、再発盤の音の全てがとてもクリアで、特にピアノの音が素晴らしく、40年以上に前にこのような録音がされていたことに改めて驚きました。
このアルバムは、発売当初から好んで聴いていたので、CDで発売された時も購入していました。
最初は1996年に東芝EMIから、次は2005年にブリッジから…

こうして色々比較してみましたが、今回の再発盤LPが最も好みの音でした。
またこのLPの再発売を記念して、6月1日に秋葉原のTUCで「パラジウム・セッション」というライブがあります。
残念ながら富樫雅彦はここに参加できないので、代わりに村上寛が出演することになっています。

それから上記のパラジウムと、以下に紹介するドイツでの2枚のアルバムを繋ぐものとして、下記のアルバムも録音されています。(写真はCDです)
「TRANSFORMATION ’69/’71」

1. TIGRIS
2. ON A CLEAR DAY
3. TRANSFORMATION / PART 1 & PART 2
佐藤允彦(P) 荒川康男(b) 富樫雅彦(ds) 1969年3月17、20日 1971年3月2日録音
このアルバムは、69年と71年の演奏がLPの片面ずつに収めされていて、A面は上記のパラジウムに、B面は下記のベルリンのライブに似た内容となっています。
佐藤允彦は、以前紹介した山下洋輔や日野皓正と同じように、1971年と72年にヨーロッパで演奏しています。
当時の演奏がLPで発売されていますので、その内の2枚を紹介します。
「PENETRATION(透徹)」 東芝 TP-9521Z

佐藤允彦(p) 荒川康男(b) 小津昌彦(ds) 1971年11月9日録音
1. POISE (21分44秒)
2. ROUTE 29E (18分41秒)
この作品は、1971年のベルリン・ジャズ・フェスティバルの実況録音で、A面、B面各1曲の演奏ですが、始まるまでには色々スッタモンダがあったようです。
その辺の経緯と演奏会の内容は、油井正一さんの解説書と、当時佐藤の伴侶であった中山千夏さんの両名が熱く語っていますので、一緒に掲載しました。
ところで中山千夏さんをご存知ですか?
彼女は作家ですが、「あなたの心に」という歌を唄っていた時代もあるし、NHKの「ひょっこりひょうたん島」の博士の声の主でもありました。
「TRINITY」 enja 2008

1. TRINITY (22分40秒)
2. FAR TRIP (22分45秒)
佐藤允彦(p) PETER WARREN(b) PIERRE FAVRE(ds) 1971年11月3日
LIVE AT THE 「STUDIO 70」MUNICH
こちらは上記のベルリン・ジャズ・フェスティバルに出演する前に、ミュンヘンのスタジオで少人数のオーディエンスの中で録音されたもので、メンバー紹介と拍手の後に演奏が始まります。
米国国籍のベーシストと、スイス国籍のドラマーはフリー・ジャズ関連のアルバムにも登場する人たちで、このアルバムは2曲とも無調のフリー・ジャズです。
フリー・ジャズのピアニストと言えばセシル・テイラーや山下洋輔が有名で、いずれも破壊的?なピアノ演奏が多いですが、このアルバムの大半は「静」の演奏で、当時のヨーロッパのフリー・ジャズにはこのようなサウンドのものが多くありました。きっと流行っていたのでしょう。
しかしその現場にいたらそうでもないのでしょうが、両面45分をしっかり聴くにはチョットしんどいです。
また1972年6月には同じenjaから、ヴァイブラフォン奏者のカール・ベルガーを始めとしたヨーロッパの人達と「WITH SILENCE (enja 2022)」というアルバムも製作していて、これもフリー・ジャズに近い内容です。
その後の佐藤允彦は、ソロや、オーケストラと共演したり、ジャズ以外の音楽にも取り組んだり多彩な面を見せていましたが、最近はまたピアノ・トリオで演奏する機会が多くなっているようです。
同時期にバークリーで学んだベースの荒川康男と組んで、デュオで活動を始め、やがてドラマーの富樫雅彦の参加によりトリオとなって、当時としてはジャズ界屈指のピアノ・トリオとなりました。
このアルバムではレノン=マッカートニーのコンビが作った「ミッシェル」が演奏されており、ベースの導入部から始まってピアノが1コーラステーマを弾きアドリブに入りますが、その演奏はカッコいいです。
途中でベースのフリーなソロに絡んでドラムとの掛け合いもあり、14分51秒が長さを感じず、あっという間に終わります。
このようにビートルズの曲をジャズ化したものは他にも沢山ありますが、この曲に関してはこれがベスト・プレイであると思います。
今回このパラジウムを取り上げたのは、3月20日にレコード盤が再発売され、チョッと話題になったことで、当時の佐藤允彦のアルバムを改めて聴いてみたからです。
この再発盤のセールス・ポイントを販売元のチラシから記載すると…
1)オリジナル・マスターテープからのデジタルを一切介さずにカッティング
2)マスター盤から直接プレスする「マスター盤プレッシング」
3)オリジナル盤同様の「赤盤」を再現
そして、マスター盤プレッシングについては…
通常のレコードは、カッテイングされたラッカー盤からマスター盤 ⇒ マザー盤 ⇒ スタンパー盤という製造工程でプレスされるが、今回はマザー盤、スタンパー盤を製作せずにマスター盤から直接プレスし、2度のコピーを省くことからカッティング時に近い溝が形成され、よりダイレクトでリアルな音の再生ができる。
デジタルを一切介さず、オリジナル・マスターテープから全工程アナログ処理でカッティングしている。
ということで、録音当時から40年以上経過しているためドロップ等の問題はありますが、オリジナルテープが残っていること自体が素晴らしいことでもあり、再発盤の意義もあるため、早速購入し聴き比べてみました。
「PALLADIUM」 東芝 EP-8004
(再発盤はEMIとなっていて、レーベルの上部の文字が当時のものと異なります。一方ジャケットは再発盤のほうが少し色濃く、反対にレーベルの色は薄いです。)




1. OPENING
2. MITCHELLE
3. DER ZWEIG VON SALZBURG (ザルツブルグの小枝)
4. PALLADIUM
5. SCROLLIN’
6. CLOSING
佐藤允彦(p) 荒川康男(b) 富樫雅彦(ds) 1968年録音
私が以前から所有していたLPは、最初に発売された時期のものですが、黒盤であるからして全くのオリジナル盤ではありません。
オリジナル盤は、静脈血のようにドス黒い血の色の赤盤です。
また再発盤は、当時の染料がないため動脈血のような鮮血な赤盤であるとの断りがありました。
よって全くのオリジナル盤と再発盤との比較という訳にはいきませんでしたが、再発盤の音の全てがとてもクリアで、特にピアノの音が素晴らしく、40年以上に前にこのような録音がされていたことに改めて驚きました。
このアルバムは、発売当初から好んで聴いていたので、CDで発売された時も購入していました。
最初は1996年に東芝EMIから、次は2005年にブリッジから…


こうして色々比較してみましたが、今回の再発盤LPが最も好みの音でした。
またこのLPの再発売を記念して、6月1日に秋葉原のTUCで「パラジウム・セッション」というライブがあります。
残念ながら富樫雅彦はここに参加できないので、代わりに村上寛が出演することになっています。

それから上記のパラジウムと、以下に紹介するドイツでの2枚のアルバムを繋ぐものとして、下記のアルバムも録音されています。(写真はCDです)
「TRANSFORMATION ’69/’71」

1. TIGRIS
2. ON A CLEAR DAY
3. TRANSFORMATION / PART 1 & PART 2
佐藤允彦(P) 荒川康男(b) 富樫雅彦(ds) 1969年3月17、20日 1971年3月2日録音
このアルバムは、69年と71年の演奏がLPの片面ずつに収めされていて、A面は上記のパラジウムに、B面は下記のベルリンのライブに似た内容となっています。
佐藤允彦は、以前紹介した山下洋輔や日野皓正と同じように、1971年と72年にヨーロッパで演奏しています。
当時の演奏がLPで発売されていますので、その内の2枚を紹介します。
「PENETRATION(透徹)」 東芝 TP-9521Z




佐藤允彦(p) 荒川康男(b) 小津昌彦(ds) 1971年11月9日録音
1. POISE (21分44秒)
2. ROUTE 29E (18分41秒)
この作品は、1971年のベルリン・ジャズ・フェスティバルの実況録音で、A面、B面各1曲の演奏ですが、始まるまでには色々スッタモンダがあったようです。
その辺の経緯と演奏会の内容は、油井正一さんの解説書と、当時佐藤の伴侶であった中山千夏さんの両名が熱く語っていますので、一緒に掲載しました。
ところで中山千夏さんをご存知ですか?
彼女は作家ですが、「あなたの心に」という歌を唄っていた時代もあるし、NHKの「ひょっこりひょうたん島」の博士の声の主でもありました。
「TRINITY」 enja 2008


1. TRINITY (22分40秒)
2. FAR TRIP (22分45秒)
佐藤允彦(p) PETER WARREN(b) PIERRE FAVRE(ds) 1971年11月3日
LIVE AT THE 「STUDIO 70」MUNICH
こちらは上記のベルリン・ジャズ・フェスティバルに出演する前に、ミュンヘンのスタジオで少人数のオーディエンスの中で録音されたもので、メンバー紹介と拍手の後に演奏が始まります。
米国国籍のベーシストと、スイス国籍のドラマーはフリー・ジャズ関連のアルバムにも登場する人たちで、このアルバムは2曲とも無調のフリー・ジャズです。
フリー・ジャズのピアニストと言えばセシル・テイラーや山下洋輔が有名で、いずれも破壊的?なピアノ演奏が多いですが、このアルバムの大半は「静」の演奏で、当時のヨーロッパのフリー・ジャズにはこのようなサウンドのものが多くありました。きっと流行っていたのでしょう。
しかしその現場にいたらそうでもないのでしょうが、両面45分をしっかり聴くにはチョットしんどいです。
また1972年6月には同じenjaから、ヴァイブラフォン奏者のカール・ベルガーを始めとしたヨーロッパの人達と「WITH SILENCE (enja 2022)」というアルバムも製作していて、これもフリー・ジャズに近い内容です。
その後の佐藤允彦は、ソロや、オーケストラと共演したり、ジャズ以外の音楽にも取り組んだり多彩な面を見せていましたが、最近はまたピアノ・トリオで演奏する機会が多くなっているようです。