須賀敦子さんアゲイン

　須賀さんはわずか５年の結婚生活の後、伴侶を失い、癒し難い苦しみを味わわれた。
その苦しみを淡々とした美しい筆致で描かれている。彼女は『苦しみ』の重みを自主的に抱きしめているように私には思えた。苦しみを丸ごと抱きしめることによって、なにかとても『生きている』実感を持たれたような気がする。

　日常生活を感覚を研ぎすまして暮らすことを、とても大切に思われた方だったのではないかと勝手に想像している。なんの変哲も無い、単純で平凡な日常の中に、どれだけ美しいものや、心を打つものがあるか、彼女のエッセイを読めば再確認できるように思う。

　そしてなにか「救い」のような、ひかりのようなものも、日常の中に、ひっそりと有る。でもきっとそれは、『苦しみ』を持っている人にしか見えないもののような気もする。

　というようなことを、ふと仕事帰りの駅のホームで考えたのでした。