大林さんの持ってるピンクの手提げ袋の中には、
芝居で使用する小道具が一式入っている。
毎日稽古場が変わるので、置いておくわけには行かないから
いちいち持ち運ばなければならない。
彼女はいつも仕事帰りに自宅へ寄り、このピンクの手提げを持って、
稽古場へ自転車でやってくる。
「自転車だしすぐだから」と、いとも簡単に言ってのけるが、
一時間ほどの自転車の道のりは、決してすぐではないだろう。
先日会場の下見に下北沢へいった時も、彼女は自転車でやってきた。
仕事場からは一時間半ほどの距離、でも一回家に寄ったそうで、
「考えてみたら今日一日で50キロ近く走ってた」と、笑っていた。
東京23区を自転車で制覇した時は、さすがに感慨深かったという。
「……何のために?」とは聞けなかった。
そんな彼女に、なぜ電車に乗らないの? と尋ねると
満員の人を想像するだけで気分が悪くなると、怒っていた。
雨の日は? と聞くと「カッパがある」と満足そうに見せてくれた。
いよいよ本番まで一週間。
当日は乗らないで欲しいけど、きっと彼女は自転車で下北沢に現れるだろう。
ならばせめて雨だけは……カッパ運転だけはやめて欲しい。
お客様の為にも大林さんの身の安全のためにも、当日の「晴れ」を願うばかりだ。
※公演会場が変わりました。
下北沢「ESCAFE/dining」
ご注意ください。