現代児童文学

国内外の現代児童文学史や現代児童文学論についての考察や論文及び作品論や創作や参考文献を、できれば毎日記載します。

きどのりこ「ファンタジーは現実とどう関わるか(上)」日本児童文学2016年9-10月号所収

2017-01-17 12:04:22 | 参考文献
 「異世界と現実世界」という副題のついた今回は、以下のような作品やファンタジー論を紹介しつつ、著者の現実世界に対する問題意識との関係性を論じています。

 レイ・ブラッドベリ「火星年代記」
 ダイアナ・ウィン・ジョーンズ「ファンタジーを書く」
 ラルフ・イーザウ「ネシャン・サーガ」シリーズ
 フィリップ・ブルマン「ライラの冒険」シリーズ
 ロイス・ローリー「ザ・ギバー 記憶を伝える者」
 ポール・スチュワート「崖の国物語」シリーズ
 シルヴィア・ウォー「オーミンガット」三部作
 タウンゼント「未知の来訪者」
 アレックス・シアラー「あの雲を追いかけて」
 ブランドン・サンダース「ミストボーン」シリーズ
 上橋菜穂子「守り人」シリーズ
 バーナード・ベケット「創世の島」
 小野不由美「十二国記」シリーズ
 ジャン=クロード・ムルルヴァ「抵抗のディーバ」
 ル・グウィン「天のろくろ」

 さすがに、長年、日本児童文学者協会のファンタジー研究会を主宰している著者だけに、豪華なラインアップになっていて、ちょっとしたファンタジーのブックリストのようです。
 一方で、著者の現実世界に対する問題意識をリストアップしてみると、アンドロイドや人工知能、日本の近代史(著者の言葉を借りると忘却して、改竄しようとしている)、戦争による大虐殺(アウシュビッツ、広島・長崎、日本のアジア侵略)、現代世界の多様性、戦争や病気、ヘイトスピーチ・デモ、階級/階層社会、独裁政治、人口過剰、環境汚染、核軍拡、日本の平和憲法の危機などです。
 こうした著者の問題意識に対応する作品は、上記に挙げた作品リストの中ではほとんどが外国の作品ばかりで、日本の二作品は間接的にしか関連が述べられていません。
 また、作者の問題意識のリストの中で半数近くを占める日本固有の問題に対しては、それに対応する作品があげられていません(おそらく、あげられるような優れた作品がないのでしょう)。
 日本の二作品はいずれも卓抜なストーリー性を持っていてベストセラーになっていますが、現実世界との関わりという点では、外国の作品に比べて弱いと思われます。
 他の作品も含めて、なぜ日本では現実世界の問題に対応するような問題意識を持ったファンタジー作品が生まれないのかも、簡単でいいので著者は論ずるべきだったと思います。
 そうでないと、著者の問題意識(特に日本固有の問題)とファンタジーが描く世界とでは、すれ違ったままで終わってしまいます。

日本児童文学 2016年 12 月号 [雑誌]
クリエーター情報なし
小峰書店
 
 
 
 
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ウルズラ・ヴェルフェル「灰色の畑と緑の畑」灰色の畑と緑の畑所収

2017-01-17 08:48:24 | 作品論
 南アメリカに二人のフワニータがいました。
 一人は貧しい家の子で、何も育たない山の灰色の畑しかない村で暮らしています。
 もう一人は裕福な家の子で、谷の緑の畑やそのほか沢山の物を持って町で暮らしています。
 二人は三回しか会ったことがないけれど、その格差のためにお互いに憎しみ合っています。
 子どもたちが属する階級により、お互いが理解しあえない不合理な世界が描かれています。
 ラストで貧しいフワニータが学校へ通う決意を示すのは、そういった階級社会への挑戦を意味します。
 これは遠い昔の話ではありません。
 現在でも、世界では多くの子どもたちが、階級や格差によって学校へも通えず搾取されています。
 そして、この日本でも格差は広がっていますし、いろいろなところで新たな階級制(朝井リョウのいうところの教室カースト制はその一例です)が生まれています。
 そういった現状を告発し、搾取され差別される側の子どもたちや若者たちの立場に立った文学(児童文学に限らず)が必要とされていますが、商業主義が蔓延している現状では通常の方法では難しいでしょう。

灰色の畑と緑の畑 (岩波少年文庫 (565))
クリエーター情報なし
岩波書店
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