現代児童文学

国内外の現代児童文学史や現代児童文学論についての考察や論文及び作品論や創作や参考文献を、できれば毎日記載します。

桐野夏生「天使に見捨てられた夜」

2020-05-17 09:25:33 | ツイッター
 1994年に刊行された、女性探偵村野ミロが活躍するハードボイルド小説の第二弾です。
 前作の江戸川乱歩賞を受賞した「顔に降りかかる雨」(その記事を参照してください)の続編ですが、残念ながら前作を上回る出来ではないです。
 理由は、出版を急がされたために、取材や執筆にかける時間が不足したからではないでしょうか。
 今作でも、同性愛、アダルト・ビデオ、裏ビデオ、それに対抗するフェミニズム系運動家、チーマー、セレブ系カリスマ主婦、かつての人気歌手など、読者の興味を引く多くの素材をふんだんに持ち込んでいますが、それらへのツッコミが浅く、これらの分野に門外漢の私でも知っているあるいは容易に想像がつく内容ばかりで驚かされません。
 また、今作では、精神的には主人公を満足させる同性愛者のバー経営者と、肉体的には満足させるアダルト・ビデオ制作会社の社長という二人の男性が登場しますが、どちらも作者が思っているほどは魅力的でも個性的でもなく、なぜ主人公がここまで惹かれるのか、説得力を持ちません。
 解説の松浦理英子が指摘しているように、主人公は性愛的な失敗を前作に続いて今作でも犯すのですが、前述したように性愛の対象者が前作に比べて魅力がないので、ストーリーと有機的に結びついていません。
 また、今作に登場する女性たち(養護施設で育った自己破壊的性向(自殺未遂事件を犯したり、自傷したり、レイプまがいのAVに出演したりしています)のある若い女性、官僚の娘でセレブ婚をした若い女性たちの憧れの対象、フェミニズム系の運動家だが実際は自分の運動の存続に躍起になっている独身女性など)も、前作の登場人物にに比べて人物造形がパターン化しています。
 さらに、前作から引き続いて登場している人物たち(主人公、元探偵の父親、父親の友人の弁護士など)も、前作からの人物像の深化はされておらず、読んでいて物足りません。
 それにしても、前作に引き続いて、今作の題名もすごくかっこいいですね(商業的には非常に大大事です)。



コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする