現代児童文学

国内外の現代児童文学史や現代児童文学論についての考察や論文及び作品論や創作や参考文献を、できれば毎日記載します。

タンポポ

2021-05-05 13:54:50 | 映画

  1985年公開の伊丹十三監督のコメディです。

 はやっていないラーメン屋を、行列のできるような人気店にしていく過程を、なぜか西部劇調で描いています。

 本編(宮本信子、山崎努という、伊丹映画おなじみの二人が主演しています)はまあまあのでき(それにしても伊丹監督は、妻の宮本信子を、この映画でもなんと魅力的に撮っていることか)ですが、その周辺で描かれている本編とは直接関係ない食に関するコント(役所広司、中村伸郎、津川雅彦などの名優たちが大まじめに演じています)の数々が秀逸で、そちらの方が強く印象に残ります。

 グルメ、アンチグルメ、皮肉、批判、シュール、エロス、コミカルなどの様々なテイストを持ったそれぞれのシーンで、伊丹監督の唯一無二の才能がきらめいています。

 

 

 

 

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エーリヒ・ケストナー「ふたりのロッテ」

2021-05-05 11:41:45 | 参考文献

 1949年に出版された児童文学の古典です。
 出版は戦後ですが、実際には第二次世界大戦中に映画のシナリオとして書かれました。
 執筆当時、ケストナーは、ナチスドイツによって出版を禁止されていたので、映画のシナリオとして書いたのです。
 その後、ケストナーは執筆自体を禁止されたので、実際に西ドイツで映画化されたのは1950年のことです。
 ナチスドイツの弾圧のもとで書かれたせいもあって、ケストナーの五冊の少年少女小説の中では一番エンターテインメント寄りの書き方がされていますし、もともと映画のシナリオだったせいもあって、その後も世界中でたびたび映画化されています。
 日本では美空ひばり、アメリカではヘイリー・ミルズといった当時の人気子役が、一人二役で主人公の双子、ロッテとルイーズを演じています。
 作品が書かれてからすでに70年以上がたち、子どもたちを取り巻く環境やジェンダー観もずいぶん変わりました。
 現在読んでみると違和感を覚える個所もありますし、高橋健二の訳文もずいぶん古めかしい感じですが、児童文学の古典としての普遍性を備えていることは再確認できました。
 この作品を特に有名にしたのは、双子の特性(外見や声がそっくりで他の人たちには区別がつかない)を生かしたストーリー展開と、逆に二人に対照的な性格や行動パターンを与えたことによる面白さです。
 これらの設定は、その後夥しい追随者を生み出しましたが、いまだにこの作品を超えるものはないでしょう。
 また、両親の離婚という、子どもにとっては非常に大きな事件を取り扱ったことも重要です。
 それも、たんに「両親の離婚は子どもたちにとって不幸である」といった紋切り型のものではなく、逆に「両親が離婚しないことによって不幸になっている子どもたちがいる」ことも視野に入れた作品になっているところが、特に優れた点でしょう。
 この作品では、「ふたりのロッテ」の機転と策略によって、これ以上は望めないほどのハッピーエンドで終わります。
 実社会の離婚家庭では、このようにはうまくいかないでしょう。
 そんなことは、筋金入りのリアリストのケストナー(もともとは社会風刺詩人です)は重々承知しているのです。
 しかし、あくまでも子どもたちの側に立って、機智とユーモアで作品を書いて、大人社会に対する子どもたちの勝利を描くことによって、現実を生きる子どもたちにエールをおくっています。

ふたりのロッテ (岩波少年文庫)
クリエーター情報なし
岩波書店
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