現代児童文学

国内外の現代児童文学史や現代児童文学論についての考察や論文及び作品論や創作や参考文献を、できれば毎日記載します。

椋鳩十「動物ども」

2017-02-02 09:31:01 | 参考文献
 1943年5月1日に発行された作者の最初の子ども向けの本です(大人向けとしては1933年に「山窩調」という小説集を出しています)。
 作者の代表作の一つである「大造爺さんと雁」も含まれています。
 作者は、四十年後の1973年に「日本児童文学」8月号で、「興味本位のものならば、無事通過したが、こっちのねらったものを発表すると、XXXという、記号だらけの、作品になってしまうのだ」と、1935年をすぎてからの思想統一の状況を書いています。
 そして、少年倶楽部の編集者の熱心な勧めを受けて、
「そうだ。動物の生態を描きながら、愛情をいのちの問題を、扱ってみよう。この不安な時代に生き、戦地に送られている若者の背後には、愛情の火が、命へのいつくしみが、燃えながら、幾重にもとりまいていることを、閉じ込めた物語を、若い人たちと、その母たちに、ささげよう。動物の生態なら、何とか、こういう時代にも、お目こぼしにあずかれそうだ」
 この文章の前半には、作者のヒューマンな部分が語られていますが、最後には意外に抜け目ない体制順応的な側面ものぞかせています。
 当時、戦争を賛美する作品を多く載せていた少年倶楽部という媒体に対しても、まったく無批判なのにも少々驚かされます。
 この本の広告にも、戦争賛美の子ども向けの本がずらりと並んでいます。
 著者略歴には日本少国民文化協会文学部会員との肩書きが堂々と載っており、作者の四十年後の文章は、当時の自分の執筆動機を戦後の民主主義に合わせて少々美化しているように思えてしまいます。
 作者は、戦後も作家活動だけでなく、全国の図書館の整備や読書運動などに優れた実績を残しているので、作品から受けるイメージからすると意外ですが、実際は実務能力の高いリアリストなのでしょう。
 こういった実務能力を持った児童文学者は、ビジネスとして子どもの本に関わっている出版社と互角に渡り合うために、ともすれば商業主義に流されている現在においては、日本児童文学者協会などにはもっと必要なのかもしれません。

大造じいさんとガン―椋鳩十名作選 (椋鳩十名作選 1)
クリエーター情報なし
理論社

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