現代児童文学

国内外の現代児童文学史や現代児童文学論についての考察や論文及び作品論や創作や参考文献を、できれば毎日記載します。

内海 健「双極Ⅱ型障害という病」

2018-11-07 09:39:24 | 参考文献
 2013年に出版された、内海がその7年前に発表した「うつ病新時代」(その記事を参照してください)の改訂版です。
 旧版がこの種の専門書としては異例の再版を重ねたことと、「双極Ⅱ型障害」(軽躁とうつを反復する気分障害)がますます社会においても注目を集めるようになったこともあって、改訂版として出版されました。
 旧版では「治療覚書」となっていた第四章は、改訂版では「治療の指針」としてより具体的で新しい情報に書き換えられていますが、内海自身も認めているように「研究費の獲得しやすい」薬物療法が中心で、同じぐらい有効であると考えられている「適度な作業や運動」による療法についてはほとんど述べられていません。
 また、すでに確立されていると思われる光トポグラフィー検査による診断に、全く触れていないのも物足りません。
 旧版では「躁と鬱―その根源に向けて」となっていた第六章は、改訂版では「混合状態―交錯する躁と鬱」として症例も追加されて、より躁と鬱が循環するのではなく混合する(あるいは速い波で反復する)ことが明確化されています。
 全体として、期待していたほど新しい情報はなく、特に旧版が出た後に起こったリーマンショック(2008年)や東日本大震災と福島第一原発事故(2011年)などの社会現象と双極Ⅱ型うつ病の関連についての考察がぜんぜんなくて残念でした。
 やはりこのあたりは、医者や医学研究者ではなく、社会学への視点も持った文学者の仕事なのかなとも思いました。

双極II型障害という病 -改訂版うつ病新時代-
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勉誠出版
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内海 健、高田知二「インタビュー 双極Ⅱ型」うつ病論 双極Ⅱ型とその周辺所収

2018-11-07 09:37:31 | 参考文献
「うつ病新時代 双極Ⅱ型障害という病」(その記事を参照してください)という本で、双極Ⅱ型の総合的な論文を初めて書いた内海 健に、同業者の高田知二がインタビューしています。
 主として双極Ⅱ型の臨床面での現状が語られていますが、内海の本から二年がたっていますので若干の進展(特に薬物療法において)は見られますが、相変わらず正しい診断は難しいようで、うつ病だけでなく統合失調症や発達障害と誤診されることも多いようです。
 患者側としては、一人の医師の診断に頼るのではなく、セカンドオピニオン(場合によってはもっと多くの)が重要なようです。
 また、この分野ですでに実用化されている光トポグラフィー検査による診断にまったく触れていないのは、まだこの時期には一般化していなかったのかもしれません。
 双極Ⅱ型障害の人物を作品の中で描くときには、決めつけになって読者に誤解を与えないようにしなければならないなと肝に銘じる必要があります。

うつ病論―双極2型障害とその周辺 (メンタルヘルス・ライブラリー)
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ストーリ展開か、シーンの面白さか

2018-11-04 15:33:34 | 考察
 現在の児童文学では、ストーリー展開の面白さよりも、 個々のシーンの面白さの方が優先されることが多くなっています。
 読者の子どもたちが長い物語を読み通す集中力を維持できなくなっている面もありますが、テレビやネット、ゲームなどの世の中の風潮が、その傾向を加速しています。
 そのため、個々のシーンが面白くないと、読者が途中で読むのをやめてしまう恐れが強くなります。
 特に、書き出しで読者を強くひきつけないと、作品世界に入り込んでくれないでしょう。
 仮に話が途中から本線から脱線してしまっても、物語の一貫性を保つより面白いシーンを描くことの方が優先されます。
 また、シーンの面白さを保証するために、話の本筋に関係なくても、いわくありげな魅力的なキャラクターをたくさん登場させることも重要です。
 ようは、作品のモチーフ、登場人物、、小物のネタなどに、どんどんアイデアをだして、面白いシーンをたくさん作りだす必要があります。

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6才のボクが、大人になるまで

2018-11-03 09:18:23 | 映画
 6才の少年が大学に入るまでを、ドキュメンタリータッチで描いています。
 主要な登場人物(主人公、姉、母、離婚した父など)を同じ俳優が演じて、12年間かけて撮影したところがこの作品の新しいアイデアでしょう。
 12年間にわたって、登場人物の成長や変化を描きつつ、その時その時のアメリカの代表的な風俗(ハリー・ポッター、野球選手のメジャー・クレメンス、スマホ、SNS、オバマブーム、DV、マリファナ、銃、アルコール依存症など)を盛り込んで時代性を表しています。
 しかし、この作品はあくまでもフィクションなのですから、それだけでは不十分です。
 物語性の弱さ、特に大人に近づいていく後半が類型的で陳腐です。
 舞台がかつて十年ぐらいの間、私がひんぱんに通ったテキサスなので、個人的には懐かしかったのですが、後半はかなり退屈でした。
 

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朝倉かすみ「てらさふ」

2018-11-01 08:15:56 | 参考文献
 女子中学生(途中で高校生になります)の二人組が、チームを組んで芥川賞作家になる話です。
 美人の最年少受賞者(かなり綿矢りさを意識しています)、ゴーストライター、盗作など、現在話題になっているようなネタをうまく組み合わせています。
 三十年以上前に書かれた地方の同人誌の会員の未発表作を、美少女の高校一年生という作家のキャラクターだけで、芥川賞を取らせてしまうのは、現在の文芸誌や賞の実態を笑い飛ばすようで痛快なのですが、最後はお決まりの三角関係のもつれによるチーム解散では、いくらエンターテインメント作品だとしても、たわいなさすぎます。
 児童文学の世界でも、作者のキャラクターが先行して出版されるのはよくある話なのですが、こういった作品にはもっと業界や作家たちを敵に回すような毒が必要です。
 作者やこの作品自体が、笑い飛ばしているはずの出版業界に深く絡め取られているのに、どこまで自覚的なのか疑問に思いました。

 
てらさふ
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文藝春秋
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