自身の持つ古典や歴史、和歌などの知識を駆使した
いくつかの曲の意訳物語。
役者の所作や謡の懸詞、暗喩などから
場所や登場人物の気持ちや風景に置き換えて
わかりやすい短編の物語にしている。
この本を読むことで、能の魅力は
謡と演技と舞の総合芸術というだけではなく
台詞や謡の歌詞の表現にあると改めて感じた。
まともに能を見たことはないが
この「意訳」により
実際の能は直接的に表現されていない
言葉や気持ちを汲み取ることが必要と理解。
深いなぁ。
たったあれだけの舞台装置と数人の役者だけで
あれぼどの物語を語らせる能おそるべし。
それにしても白州さん、
本当に美しい日本語を書く。
夏草の茂みをわけ入ったところには
寂光の静かな光がたゆたい
松の枝にかかる藤の花房も
法皇の御幸を待つかのように
美しく咲き匂っている。
ことに青葉がくれの遅桜は
さながら女院の姿に似て
初花よりもめずらしく
あわれなものに映るのであった。
(「大原御幸」より)