ケパとドルカス

『肝心なことは目では見えない』
これは星の王子さまの友達になったきつねの言葉。

アルツハイマーの母との思い出

2017年03月21日 | 随想
数日前の夜、ドルカスと話していて、急に母のことを思い出した。
母はちょうど二年前のこの時期に亡くなった。母は長く一人住まいで、亡くなる十五年ぐらい前からアルツハイマーを発症していた。 その診断があって後、しばらくすると近所や介護支援専門員からの相談やら苦情、協力の要請が子である私の耳にも届くようになった。
ちょうどその頃、私は妻の病のために家族と別居することになり、それを機に私は母の介護を兼ねて実家に戻った。望んでではなかったが、こういう成り行きで母との同居生活が始まった。

同居してすぐ分かったのは、母が高額な訪問販売の餌食になっていた事だ。それもアルバム制作販売、全く必要の無い大量の座布団や布団販売などなどであった。はじめ、彼らは私の顔を見るなり母との契約をたてにして、けんか腰というか、いい加減な書類を見せ、脅してきた。応じないと私の職場まで押しかけるとも言ってきた。

大学を出て、社会人として会社勤め始めた三年目、私は営業に回され、そこで得難い経験をした。ある時、上得意様優先のしわ寄せで、少しだけ納期遅れとなった製品を零細な得意先に届けた。ままある程度の遅れであっても、店主が木刀を持って出てきたことがある。

だから私は、この程度で怯むことはない。かえってファイトを燃やし、あらゆる対抗をした。先ず診断書を見せ、アルツハイマー症ゆえの責任能力欠如により契約無効と、親権者代行としての破棄を通告した。応じなければ警察や消費者センターへ、老人を狙う悪辣な業者として訴えるぞ、出る所へ出て行こうじゃないか、と逆襲した。何人かとこうしてやりあったが、結果として一円の金も払うことがなかった。するとまるで潮が引くように、鴨リストから外されたのであろう、彼らは全く来なくなった。

数年後、葬儀の席で久しぶりに会った従兄弟も、私の経験と同じようなことを言っていたので、独居老人を食い物にする悪徳業者について、どうにかならないものだろうか、と思った。田舎に親を一人置いている方、注意して下さい。

ところで本題は、母のアルツハイマー症のことである。
またしても私の慣れない家事が始まった。妻の入院中にも短期間、家事をしたが、今度は遅く帰るとお腹を空かせた母が待っていた。火事を恐れてガスの元栓を締めるなどをしたためである。
1年経つと病が進行し、母は息子の私を「秀樹やぁ」と名を呼ぶことが少なくなって、私の名をすぐ下の弟の名(私にとっては叔父)で呼んだり、最終的は実父の名で呼んだりする記憶の混濁が進行した。
夕食は茶碗をはしで「チンチン」と叩いて催促する。外を歩くときには私のズボンのベルトに手をかけ、それで付いて行けるという感じだった。私は母の保護者になっていた。

そうしたアルツハイマー症の進行の速さに、私の情緒の方がついて行けない感じだった。子なのに、親のようになってしまった立場に戸惑った。「母の、こんな姿を見たくなかった」とか、「人間の尊厳を奪う、何て恐ろしい病なんだろうか!」とどうしようもない怒りとかが、話す相手もいない中、一人頭の中をぐるぐる行き来した。

結局母との同居生活は二年と少しだけで、突然のように病院へ、ホームへと母が落ち着くことで終わりを告げた。見るに見かねた?ケアマネたちの配慮であった。「解放された!」と思ったのもつかの間、私は家族を失った喪失感に今回もとらわれた。子どものようになった母でも、いつの間にか居ることが私の生き甲斐にもなっていたのだ。
(施設暮らしにも慣れた晩年の母)

この後、田舎の実家でのひとり暮らしで、私は本当におかしくなって行くことになった。そのどん底で悔い改め、神を知り体験することになったのだが、それはまたの機会に譲りたい。


ケパ







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