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テロ事件とインテリジェンス

2005年03月20日 18時36分01秒 | 外交問題
読売新聞に「政治の現場」という欄がある。以前、主に北朝鮮外交について興味深い連載があったのだが、今はその続編として「続 小泉外交」というタイトルでイラク戦争に関わる連載が続いている。前のシリーズも良かったのだが、今のシリーズも私的には面白く読んでいる。いつの時代の出来事も、人間の考えや行動が歴史に結びついていると思うと、それぞれ物語があってとても面白いのです。はやりフィクション以上に、真実の物語というか出来事の舞台裏は興味が尽きない。

これは、女性週刊誌とか低俗なテレビ番組(こんなことを言うと非難されるかもしれませんが、私の中での興味ランキングが”低い”という意味です)などに見られる、読者や一般人出演者が語る実話に、多くの人の興味が惹きつけられるのと同じです。真実の方が想像を超えた物語であることが多く、だいたい「えーっ!信じられない」的反応となってしまうのですね。私などはほとんどそうです。関係ない話に脱線しました。


さて、先程の「続 小泉外交」ですが、3/18日付の第7回の記事は特筆するべき内容でした。これを取材した記者を褒めてあげたいです。以下に、一部分だけ抜粋したいと思います。



米同時テロ後に米政府から非常に頼りにされた1人の日本人外交官がいた。

・・・中略・・・
今も情報の最前線にいるため、外交官の名前を明かすことはできない。ここでは、彼をXと呼ぶ。

・・・中略・・・
Xは事件当日の夜に、複数のルートからマスードの死亡を確認し、東京の外務省に打電した。「世界で最も早かった」と言われる。同時に不安を覚えた。

・・・中略・・・
マスード暗殺が現実となり、Xは「今後、とんでもない事件が起こるのではないか」と心配した。予感は的中した。2日後、遠く離れた米東海岸で、最悪の形となって。

・・・中略・・・
同時テロの直後、Xの名前を挙げて日本政府に協力要請した。米国の情報機関にはアフガン国内の人的情報(HUMINT)が決定的に不足していた。

・・・中略・・・
日米間の情報協力では、日本が米国に依存する割合が圧倒的に高い。米国同時テロにおける今回のような情報提供は極めて異例だ。隠れた対米支援だった。




こんな感じで、情報の意義が外交と絡めて書かれていました。ここで重要なことは、同時テロ前の情報の意味でした。この重要性がもっと認識されており、米国側が掴んでいた情報と考え合せれば、何かの形が見えたかもしれません。そして、米国が推進してきたSIGINT(signal intelligence)重視には限界があることを示していました。結局のところ、テロリストも人間なのですね。人の繋がり、人脈というものが、必ずあるということですね。satellite+SIGINT は万能ではない、HUMINTとの組み合わせが有効、ということでしょう。冷戦終結後、昔で言うスパイたちの多くは用済みにされてしまったり、長年作り上げてきたネットワーク組織は崩壊(引退したり予算がなくなったりでしょう)したりで、大きく偏りが出来てしまったことが、米国のHUMINT弱体化の原因かもしれません。


日本は元々情報組織も、特別なSIGINTも持たないですから、概ね外国頼みであると思っていましたが、外務省には優れた人材がひっそりと存在していたということでしょう。戦前の外交官は、有名になった『ちうね』の活躍ばかりではなく、多くの優秀な人材がいました(と、私は評価していますが)。日本の為に活躍した人達は、今よりもずっと多かったと思います。最近の外交官たちの体たらくぶりには(公金を好き放題使う、裏金にする、絵画や家具を公金で増やす等、きりがないな)無念を通り越えていましたが、Xのような活躍を見せる人がまだいたんだな、と心強く思いました。同時に、このような人材育成を外務省はきちんとやってくれ、とも思います。前から書いてきましたが、外交・防衛政策は表裏一体であり、インテリジェンスを重要視する意味が理解される出来事であると思うし、また、これを紹介したこの記事に本当に感心しました。


地下鉄サリン事件後丁度10年ということで、当時の事件の反省やその後のテロ対策の取り組みとか、安全性確保への問題提起なども行われています。このような時期ですから、もう一度行政側も国民側も、日常の中にある危機とか万が一の事態への対応とかを考えてみるよい機会かもしれません。

過去記事:
防衛政策への提言
統合情報会議
安全保障あれこれ
防衛情報とインテリジェンス



郵政民営化の考察9

2005年03月20日 12時27分09秒 | 社会全般
見直し条項の検討に入った模様であるが、この条項には制限を付けておいた方がよい。具体的、客観的に誰が見ても分る指標だ。この条項は、交渉戦術の為の、単なる反対派抑制の「ノボリ」かもしれないが、法案として決ってしまったら後からは取り返しがつかない場合があるからね。


自民党側が出している大きな理由として、「コンピューターのシステム構築が間に合わない」場合に、民営化が厳しいという意見だと思うが、これ自体が民営化とは直結しない理由なのは確かだろうと思う。普通に考えれば、企業間や銀行間のやり取りが不便というだけであり、収益性の問題はあるだろうが、民営化の進捗度の問題とは本質的に違う。当面持株会社の傘下に入って、段階的に株式の市場放出が行われることになっている。見直し条項を盾に取られて、常套手段の「先送り」を許してしまえば禍根を残すことになりかねない。その為には出来るだけ客観的な指標があった方がよいと思うのである。「民営化開始時期は2年後から」でこれは組織形態の違いによるだけですから、全く問題ないですね。昨日まで、とーちゃん、かーちゃん、などの同族商店だったものを、今日から有限会社のような法人化した会社組織に形態を整えたとしても、商店がすぐにどうにかなってしまうとかではありませんし、実質的に大きな影響をそれほど受けるものでもありませんね。


株式売出に環境が良くない場合もある。当然政府保有であれば、高く売れて利益が多い方が望ましい。ですから、仮に日経平均の12ヶ月の終値変動率がマイナス20%を超える場合(要は、過去一年間の終値の変動が、20%以上の下落ということですね。仮に昨年3月の終値が1万円で今年3月時点で7800円なら、大幅な下落環境となり株式放出のタイミングとしては悪いですね。このような事態を回避するという意味です)には売出はしない、といった制限を設けるということです。完全民営化しようが政府が一部保有していようが、民営化会社の収益構造や業務には違いがありませんから(まさに株主が誰かの違いだけ)、それで民営化会社が助かるとか市場競争力が変わるとかということではありませんね。


それと、見直し条項の客観的指標としては、競争力が十分備わっていなくて、民営化会社が連続赤字続きとかですと、当然株式放出しょうにも買い手がいないということになりますから(若しくは非常に安い値段になってしまいますね)、客観的指標としては例えば「最終利益が3期以上連続黒字になり、かつ、未処分利益(積立金)が10億円以上」とか東証1部上場基準でもいいと思います。それが見直し条項の意味なのではないか、と思っています。これくらいの基準であれば、自由競争でも何とかやって行けるでしょう。このようなメルクマールがないような条項であれば、時の政権が勝手に「もう少し先延ばししようよ」と考え、民営化が実行されなくなる畏れがあります。そういう「後でどうにでもなる」というような条件は残すべきではありません。


平ちゃんも、そういう条件なら、妥協してもいいと言うのではないかと思いますが。どうなんでしょうか。



人権擁護法案擁護論への疑問3

2005年03月20日 01時41分48秒 | 法関係
前回まで、率直な疑問とか危惧について書いてきた。小倉先生からもTB頂いたので、また少し考えてみたい。国民の権利についての制限を加える法案ですから、十分慎重な議論がなされることが必要かと思っています。私は法学の専門家でもありませんので、大したことは分かりませんが、行政庁の権力行使については、かなり慎重な手続き上の制約とか安全装置は確保されるべきではないかと思います。


小倉先生、an accused さんやbewaad さんの記事を読んでみて、「勧告」と「公表」の問題が確かにあるのかな、と考えます。この点について、ちょこっと考えてみます。


唐突ですが、比べる法律として独占禁止法を挙げてみたいと思います。これは何故かというと、公正取引委員会は皆さんが検討されているように、人権委員会との対比として構造的に似ており分かりやすい、実際に「勧告」が行われていること、そして「公表」が行われていることです。


時々独禁法に抵触する不当事項のある企業について、公取が「排除勧告を行った」というふうに報道されます。これは、公取が意図して「公表」するのか、単に報道機関が取材して入手した情報として「報道」しているのか、正確に分かりません。ですが、公取が公示するとか、報道機関に敢えて公表するかしなければ、報道機関は情報を知り得ません。もしも、意図的に守秘義務のあるものについて漏らしたとなれば、「守秘義務違反」ということになるでしょう。独禁法における「勧告」は、「公表」を伴ってもよい、という判断が現状かと思います。


追記:3/21 16時ころ
公示規定は独禁法上に探せませんでした。どのような法令に基づいて公表しているかはちょっとわかりません。しかし、ネット上でも公取の勧告は公表されているようです。つまり、「公表」という手続きは法に規定しなくてもよい行政側の行為と判断でき、同時に行政指導は「公表する」か、「公表してもよい」内容ということになりますね。以前書いたドンキホーテの記事には、間違えて書いてしまっているということになります。因みに消防法では、公示が条文に規定されて(第5条)います。


「勧告」については、独禁法第48条に規定されておりますが、「公表」とか公示というような規定はありません(47条には46条規定―これは以下に書きます―の処分を行った時は、その結果を「明らかにして置かなければならない」と規定されているが、これは文書等の記録として第三者が明確に分かるようにしておく、ということであって「公表」を意味するものでないと思われます)。つまり、不当事項の排除「勧告」を行った、という情報は公取が独自判断として報道機関に対して「公表」しているということになります。独禁法は行政手続法の第2、3章については、適用除外となっており、申請に対する処分や不利益処分は除外ということになります。独禁法における処分とは、大まかに言って、出頭・審訊、意見・報告徴収、鑑定人の出頭・鑑定、書類・物件の提出・留保、立入検査です。これも行政手続法の適用除外となっています。行政手続法での行政指導に該当する「勧告」は、独禁法において強力な権限として存在することが言えますし、行政指導の内容や対象企業の公表が同時に行われることになります。また、独禁法は、行政不服審査法や行政手続法に規定される不服申し立てや聴聞・弁明機会の附与が出来ない代わりに、審判手続きが存在します。これによって、公取の判断に対する再検討の機会が設けられております。


流れとしては、公取が調査等を行い、改善すべき不当事項のある企業に対してまず「勧告」を行います。この時点では、単なる行政指導に過ぎず、命令とか行政処分には該当しません。この段階が通常「公表」されています。この「勧告」を受け入れる場合には、企業は応諾の旨公取に通知して審決となります。しかし、応諾しない場合には審判手続に入っていくことになります。審判官は公取が任命した専門家(法や経済の)で、彼らによって審理され(裁判みたいなもの)ます。課徴金の納付命令についても、納付命令前に意見陳述機会の附与や審判手続があります。公取は主務大臣に対して、措置を行おうとする前に通知したり(45条)、審判手続開始前に協議したり(49条)しなければなりません。また、法律の施行状況について、内閣総理大臣を通じて国会に毎年報告しなければならない(第44条)ことになっていますから、国会や大臣の監視監督は細かく行われることになります。


審判は原則公開で行われ(事業者の機密保持等の理由がある場合には非公開でもよい)、審判終了後委員会の審決(委員長と委員の合議)をもって命令とか課徴金納付が決められる。審決のうち独占的状態の改善措置は3名以上の合意が必要である。審決の命令とか行政処分については、これが確定するまで裁判所の決定する保証金等を供託することで執行を免れ、この裁判は非訴事件手続法により行う(第62条)ことになっています。独占的状態の改善措置をとらせる場合(第8条の四第一項)の審判手続開始前には公聴会の開催が義務付けられています(第72条)。審決の取消の訴えは裁判所が証拠有無などを判断し、証拠がない(不十分)とか法令違反と認められれば、審決が取り消されたり差し戻しされたりします。


このように、最終的な審決に到るまでの過程で、幾つかの安全装置が作られています。勿論強制力が大きいから、という考え方もあるかもしれませんが。人権擁護法案での「勧告」についてはこの決定の適否について争う術がありません。独禁法では、従わない旨、意思表示を行い、審判にかけてみることも可能です。その審判(この結果から導かれる審決)の適否についても裁判所に提訴して、司法判断を仰ぐことも可能です。また、委員会の行為の監視として、措置前の主務大臣への通知義務や協議、公聴会開催、国会への報告などもあります。人権擁護法案は似ている部分は少しありますが、独禁法の方が行政側にハードルが多く作られていると思います。


独禁法における「勧告」と「公表」の一体的運用はよくわかりません。謎のままです。公取は法の規定がないにも係わらず、勝手に公表しているのでしょうか(笑)。そんなことではないと思いますが、条文からは「公表」が見えてきませんね。ここで独禁法の検討を目的としているわけではありませんので、すごく重要かと聞かれるとなんとも言えないのですが。