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貸金業の上限金利問題~その10

2006年05月04日 23時54分10秒 | 社会全般
「ふぉーりん・あとにーの憂鬱」の47th氏からお答えを頂きました。

試験でお忙しい中、お答えを頂いて有難うございます。貴重なお時間を取らせてしまったことにお詫び申し上げます。また、不適切な表現の記事についても、お詫び致します。ただ、特に非難することを目的としているわけではありません。

「経済学の理屈に従えば、金利上限の引下げは不当である。なぜなら・・・」に続く理由の部分というのは、件のペーパーを基に理解されている面が見受けられ、それが本当にそうなのだろうか?という疑問から記事を書いていきました。私が引下げ派代表でも何でもありませんし、あえて反論するべき理由はないのですが・・・。少なくとも妥当性の高い「経済学理論」に沿って、引下げ論者の論点を批判するのであれば、それも当然だろうと思いますが、一部には疑問と思える部分がある為、そのまま受け入れるのは抵抗があったのです。ですので、論文の内容について、反論を試みることにしました。


記事を拝読させて頂きまして、統計分析の妥当性については、記事の通りではないかと思いました。しかし、モデルの設定自体の当否というのは依然解決されていないのではないか、とも思います。


借金のたとえとして麻薬が取り上げられたりしますが、麻薬のような薬物と副作用との因果関係の特定やリスクの評価というのは、借金のような現象とは異なり、不確定要素がずっと多いと思います。その為、何かの結論を得ようと思えば、不確定な要素の影響をできるだけ排除したモデルで検討しなければなりません。また、生体というのは個体自身の持つ不確定要素の影響力が大きくて、実は個体差というのがかなりの影響を及ぼすことは普通だろうと思います(一般的にin vivoというのは、in vitroに比べて条件設定は難しいことが多いと思います)。一般に薬剤の効果にかなりの影響を与えるのは、まさしく「個体差」であり、薬物代謝や薬物動態などの変動要因として作用し、個体間の違いを見れば、薬物効果や分解能などに数倍程度の違いがあったりすることは普通です(たとえ同性・同体重の人だけで比べたりしても)。さらに同一個体であっても、変動は少なからず存在しています(病院などの血液検査で、測定日や時間の違いによって検査結果が異なっていたり正常範囲を超えていたりすることがありますよね?)。そういう変動要因を排除せずに、何かの調査・分析を試みたとしても、「個体差」にマスクされてしまって検出できない、ということはしばしば起こりえると思います。従って、より厳密な条件設定を行う必要が出てくるのだろうと思われます。


因みに、製薬会社というのは、健康保険制度においてかなり厳格な価格統制を受けてしまいます。診療報酬改定では、マイナス改定によって数千億円規模で薬剤の売上高を失います。これらの規制を完全撤廃せよ、という主張はあまり見かけないですけれども。

医療に関する規制が完全撤廃されていると仮定しましょう。ある疾患に効果のある薬品Xを使う場合、治療効果は必ずあるが予見されている重篤な副作用が毎年1500人程度に発生するとして(現在の制度では多分厚生労働省の承認がおりないと思いますけど、とりあえず)、Xの販売で得られる利益が年間3000億円、重篤な副作用の補償にかかる費用が1人1億円である時、販売した方が1500億円の利益を得られる為、経済学的には得である、ということになるかと思います。しかし、現実にはこのような選択を製薬会社がするとは思われません。それは恐らく―社会的な「信用」「信頼」を失う、ということが大きな要因なのではないか、と思います(「信用」というのは経済学用語ではなく、一般的な言葉としてです)。このような社会的「信用」「信頼」というのが、経済価値に換算・評価するのが難しいからなのかな、と思います。

身近な例としては、三菱自動車のようなケースが考えられると思います。欠陥隠し発覚による現実損としては、補償額が膨大であった訳ではなく、リコールに伴う費用はそれなりにかかってしまったとは思いますが、その損失よりも「信用」を失ったことによる「非買運動」的な売上高減少の方が、はるかに痛手となったのではないかと思われます。同様に製薬会社としても、補償が必要となるような副作用が一定水準で発生する場合には、その発生率や件数が割りと少なくても「販売せずに回収」という措置を選択することが多いであろうな、と推測します。製薬会社は承認を通す為という側面はあるものの、かなりの注意義務を課せられている、と言えるかもしれません。薬物の副作用というのは、リスク評価が難しい一方で、その発生が必ず想定されているが故に厳格な規制を受けている、ということかもしれません。


大きく脱線しましたが、借金の場合には、薬剤と比べれば変動要因というのは少ないモデルであると考えられます(破産との因果関係についても、特定されていますし)。それは、基本的に「借金」というのが、「借入額」「金利」「期間」(「返済方法」も関係ありますね)という特定の数値で決定できる性質のものであり、それは普通であれば初期条件が決まれば将来時点での数値が機械的に決定(予測)でき、不規則な変動がない数値であることが多いからです(変動金利という場合もありますが、それはとりあえず考えないものとします)。ある程度、単純な理論モデルで検討することも可能ではないかと思えます。


次のように借金モデルを決めることとします。


風呂オケのような容器を想定します。
・ここに水が入っており、「入っている水」とは「現在保有現金」を表わす
(資産は無視(ゼロと仮定)、通常は今持っている現金と預貯金の合計額ということになりますが、日常的に使うものとして区別せずに考えるものとします)

・容器に水を注ぐ「蛇口1」があり、これは「収入」を表わす
(賃金などがあれば、容器にその分量の水が注入される)
・容器には排水「ポンプ1」があって、これは普段の「支出」を表わす
・借金をすると「蛇口2」から容器に一気にその分の水を入れる
・返済用に排水ポンプ2、3、4・・・が借金ごとに設置される


収入や支出が変動する為に、容器内の水の量は変動します。住宅ローンや自動車ローンのような場合には、一瞬だけ水が入れられますが、直ぐにポンプ1から同量が排出され、住宅や自動車といった実物に換えられます。返済用のポンプは返済終了まで設置されたままになります。容器が空になり、他からの注水が不可能となれば、破産ということになると思います。消費者金融などからの借入では蛇口2から注水され、容器内の水が一時的に増加しますが、返済の為の排水ポンプが設置されて、そこから排水(返済)されていくということになります。

具体的に考えてみましょう。
いま容器に現金20の水が入っていて、単位時間当たり蛇口1から収入20が注水され、ポンプ1からは20排水されるとなれば現金20が残ったままで、一定状態が維持されます。ここで、排水量(支出)が50だけ一時的に増加して水のin-outバランスが保てないということが予想される時、借入50を行ったとします。この返済の為の排出「ポンプ2」が設置されます。50の借入を行い、その分は直ぐに排水されてしまえば、残る水が20となります。借入後にポンプ1からの排水量が減少せず20のままであると、収入が20で一定であれば、返済用のポンプ2からの排水分だけ残っている水が減少していきます。しかし、ポンプ1のからの排水をポンプ2と同量の分節約で減らせばポンプ1とポンプ2の合計排水量は20となって、容器内の残っている水は減少しません。多重債務は、ポンプ1とポンプ2の合計が蛇口1からの注水量よりも多ければ、必ず容器内の水が空に向かうような場合に、別な借入を行って一時的に容器内の水を増やしますが、新たなポンプ3が設置され、・・・ということが繰り返し起こってしまう、ということになります。


結局、蛇口1-ポンプ1≧ポンプ2+ポンプ3・・・+ポンプn という状態であれば、借金返済は可能と考えられ、不等号が逆向きであれば、いずれ空になるので破綻します。蛇口1の注水量が一定である時、容器が空になるかどうかは、ポンプの排出能力に依存し、ポンプ1(返済以外の支出)の排出能力に大幅な変動がない場合には、残りの返済用ポンプの排出量によって決まります。この返済用ポンプの性能を決定するのは、「借入額」「金利」「期間」などです。

通常、住宅ローンなどのような借入では、「期間」というのはリスク要因となっていると考えられる為、長期間の借入はそれよりも短い借入に比べて金利水準が高く設定されている(貸出側の条件は一定であるとして)と思います。一般に、30年固定金利と20年固定金利では前者の方が金利が高い、ということです。ですので、借金のリスクとして、「期間」に依存してリスクは高くなる、と考えられていると思います(多分、学問的には市場金利の変動確率とか、借入側の収入・支出バランスの変動確率などの要因によって影響されているのだろう、とは思いますが、正確には判りません)。

期間・金利を同一にすると、借入額がポンプの単位時間当たりの排出量(流出速度と言ってもいいかもしれません)を決定することになり、借入額に依存して容器が空になる可能性が高まると考えられます。同様に、期間・借入額を同一にすると、金利水準が流出速度を変えることとなり、金利に依存して容器が空になる可能性が高くなると思われます。


蛇口1を変動させる要因は、賃金低下や失業などがあり、主に経済環境(景気変動など)の影響を受けやすい、と思われます。また、職業などの個人の属性も関係あるかもしれません。公務員や年金生活者などは、他と比較して一定額の収入が予想しやすい、という面があると思いますので。ポンプ1を変動させる要因としては、事故・病気・離婚などの出来事や、個人の消費性向(節約上手、浪費家、借金をしやすいタイプ等々)というような行動要因などがあると思います。収入側への影響を与える要因と、支出側に影響を与える要因とでは、やや意味合いがことなる部分があり、収支バランスの変動リスクというのは、これらが合成された結果であろう、と思います。


また蛇口2からの注水(借入)にもいずれ限界が訪れます。つまり無限には借入できないことになります(寿命がないような場合には理論上では無限期間に渡って借りられるかも?)。蛇口2からの注水量の限界を決める要因というのは、正確には判りませんが、蛇口2は「将来蛇口1に流れ込む量」の一部分に繋がっており、そこから注水されている、ということかな、と思います。蛇口1=「現在収入の大きさ」という要因が関係していそうです。そして、将来獲得が予想される現金のうち、何年か分までは借り入れることができますが、それがどのくらい未来まで可能なのかは不明です(貸出側の判断の差?とも考えられますし)。




容器の水が空になるリスクということで考えれば、次のようなものと思われます。

・蛇口1の変動
・ポンプ1の変動
・他のポンプの要因
(期間、借入額、金利、ひょっとするとポンプの設置個数も?)
・蛇口2の許容量

これらの要因の影響度の大きさ(重み付け)は、条件設定を限定して調べる必要があるように思います。どういった分析手法が妥当なのか、ということは判らないのですけれども。