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貸金業の上限金利問題~その12

2006年05月07日 21時43分11秒 | 社会全般
すみすさんからコメント頂いて、大変参考になるアドバイスであったと思います。有難うございます。

特に「逆選択」の部分から考えてみました。また、「情報の非対称性」について書くと前に言いましたので、まずはそこから。


・情報の非対称性

貸金市場では、一般に融資審査が行われるが、現在の審査制度ではあらゆる信用情報などが貸出側に揃っている訳ではない。おおよそ業界毎に存在してきた信用情報システムは、現在4つに分かれているとされる。それらの間での信用情報の共有化が進んでいるわけではない、ということである。例えば銀行系、クレジット系、貸金業系、と別々な借入を行われてしまうと、貸し手には把握できない情報が存在することになる。事故情報も知らない場合や、延滞等の情報に基準が異なる面もある。業者間での情報の非対称性も存在している。


また、返済行為自体は借り手にとっては努力(コスト)の必要なことであり、正確なモニタリングがあれば貸し手が努力を怠っているかどうかを監視することが可能であるし、突然の収入減少(ボーナスカットとか失業とか)などの状況も知ることが可能であるが、現実にはそういった借り手の状況を貸し手が全て知ることはできない。借り手側の返済努力というのは、個人の行動要因に影響を受けると思われる部分もあるため、個人差を事前に予想することは難しい。

参考:月刊ESP12月号


一方、借り手もまた貸出業者についての全ての情報を知っているわけでない。特に「金利」(返済内容)や「取り立て」に関して、事前の区別が困難な(十分理解して判断できない)ことがある。さらに、整理屋・買取屋・紹介屋などの単なる悪質業者であったり、闇金・違法取立て業者などであることもある。


日本での特徴的なこととして、破産者は借入業者数が多いことが指摘されており、その傾向は近年でも依然観察されている。多重債務者というのは、まさにこの状態であって、借入先が多いことが特徴的である(それに伴って債務額も増えている)。これが可能なのは、貸し出す業者が存在しているからである。返済がかなり困難と考えられるような状態になっているにも関わらず、貸し出す業者がいる限り、貸出先を捜し求める債務者が借り続けようとすることを防ぐことはできない。


「回収」業務(=取立て)に比較優位にある貸金業者は、たとえハイリスクグループに貸し込みを行っても、他の業者たちなどに比べれば「取立て」で早期に回収できる可能性があるため、返済能力の限界に達している(或いは超えている)としても、貸し出すことは合理的となり得ます。違法か違法ギリギリの取立てであっても、回収できたもの勝ちですので。しかも、貸出業者数が増えれば増えるほど破綻リスクは分散され、優良業者とそうした複数の「貸し込み業者」とがリスクを分担することになってしまう。なので、複数業者からの借入がある債務者にさらに貸し込むのは、回収に自信のある「貸し込み業者」にとって都合のよい戦略で、「最後の貸出業者」にならない限り回収可能性はあると言える。一定の水準までは、「貸し込み参加者」が増えれば増えるほど、貸出リスクは過小評価されやすくなる。


初めの頃に貸し出す業者は、これらの貸し込みを予測することは難しい。どの債務者が、こうした多重債務に陥るかを、現在の信用情報システムでは知ることはできない。モニタリングも効果的に行われているとは言えない。


・逆選択

民間金融機関やクレジット業者の信用供与額は90年代半ば以降、経年的に減少した。通常、銀行の貸出金利は貸金業に比べて低いことが多い。目的別の住宅ローン、自動車ローン、教育ローン等は金利水準は10%以下の低いものが大半で、フリーローン(結婚・海外旅行・高額商品購入等)などが続き、最も高いカードローン(全くの自由な使用が可能)でも、10~15%程度である。顧客にとってみれば、こうした低金利での借入の方が望ましいが、審査要件や審査日数、即時性(申し込み時に融資が実行されるかどうか)などで貸金業には劣る面があると思われる。しかし、審査が厳しいということで、貸出金利水準の低い商品となっていると考えられなくもない。


また、クレジットカードによる信用供与も減少傾向であり、目的の決まっている販売代金は15%前後の金利で、キャッシングではそれよりもやや高い金利設定が多く見られるが、それでも18%程度である。流通系のカードなどでは、キャッシング金利が12~15%と割と有利な条件設定になっているようなこともある。主に優良顧客向けカードローンは金利が低いものが多く、10%以下のものも見られる。


これらの貸出市場規模で言えば、減少傾向であることは先に述べた通りである。特に銀行の減少が大きい。12兆円もの減少額となっていることは注目すべきであろう。この同時期に貸金業では信用供与額は増加を続け、決して低くない伸び率で増加してきた。以前の記事(その8)にも書いたように、94年の4.5兆円から今の10兆円超のまで増加を続けてきた。


これはどのようなことが考えられるのか。
上述したように、銀行・クレジット系は市場から退出していく一方で、この減少と反比例するように、自己破産申請件数は増加していった。更に、貸金業者数全体では減少しているが、大手は貸出・業者数とも増加した。少なくない利用者がこうした大手貸金業者へとシフトしていったと思われる。


情報の非対称性の部分で述べたように、貸出業者間での情報にも非対称が存在し、多重債務者という特殊な要因が比較的低金利の貸出市場の信用供与額を減らすこととなった可能性があるのではないかと思われる。


多重債務者は、あちこちから借りるのだが、当初から業者数が多い訳ではない。初めは少ない業者からスタートするのが普通で、仮に銀行やクレジットが貸し出して、そこから返済負担が厳しくなったハイリスク層が貸金業者から借入を次々に増額すると、銀行やクレジット、初期貸出を行った比較的優良な貸金業者たちは、返済が続けられている限り、直ぐに借り手の破綻危険性については知ることができない。しかし、実態としては、借り手が個人の負担能力の限界に近づいていて、比較的優良な貸金業者からの借入を断られてしまうとしても、他の貸し手が現れれば、借入することが出来てしまうため、破綻までの時間稼ぎが行われることになる。「取立て」での比較優位にある不良業者などは、その間に他の優良な貸し手よりも先んじて回収できてしまうのである(そもそも貸出金利も高いので)。その結果、自己破産の増加と一件当たりの債務額の膨張が生じ、なおかつ破産にともなう損失は優良業者にも及ぶこととなる。


このような状況によって、比較的低金利の貸出はリスク管理を厳しくせざるを得ず信用供与額を経年的に減らすことになり、それよりも金利水準の高い貸金業では貸出競争が行われ(恐らく貸金業者数減少がその結果であろうと思われる)、概ね大手業者に顧客は集まっていったものの、優良顧客を多く持たない貸金業者は「貸し込み業者」となって、更に多重債務者の破産リスクを高めたであろうと思われる(そのため自己破産件数は増加していったのではないか)。すなわち、消費者金融市場においては、「逆選択」を生ずることとなったのではないかと考える。

このような逆選択によって、低利の銀行系やクレジット系の利用率は減少し、貸金業者の信用供与が一貫して増加しつつ、貸出競争での比較優位にある大手が伸び、取立て優位にある「貸し込み業者」が多くなるということになったと考えられる。


・金利規制

このような逆選択を生じている場合、金利上限規制というのが有効な政策となり得るか、というのは、正確には評価できないが、個別に貸出規制が可能とも思えず(仮に貸出総額を規制したとしても、将来時点の減収要因を審査時には判断できず、予見可能性の判定は難しいのではないか)、融資審査の強化については間接的に効果がないとも言えない。かつて、融資審査に必要な信用情報の共有化が業界枠を超えて検討されたこともあったが、不十分に終わり、今のような4系統の分立となっている。「情報の非対称性」を改善する方法としては、一本化が最も望ましいが、業界間の軋轢などがあるのであれば、それを早急に実現することは難しいと思われる。


よって、間接的に融資審査強化が期待できる上限引き下げは、暫定的であっても意味があると思われる。もしも、将来時点で金利規制を外すとしても、今のような消費者金融市場では競争が不十分であり、情報の非対称性も解消が進んでおらず、完全競争市場からは程遠いと考える。もっと、銀行・ノンバンク・クレジット・貸金業等の各業界枠を超えるような競争が実現し、信用情報を含む融資審査が改善され、貸出業者の法令遵守、「貸し込み業者」の排除などが実現しない限り、適正な金利水準は望めないと思われる。さらに利用者側への啓蒙等、金融・経済教育(内閣府がやると言ってたヤツですね)が浸透して、ある程度の判断能力を持つようになることが必要であろう。今のような「騙され具合」では、利用者にとって圧倒的に不利となるのではないか(悪質業者に簡単に引っかかる程度ですので)。


将来時点での規制撤廃を望むのであれば、当面、悪質な闇金業者の摘発が一定以上に進められることも必須要件であろう。完全自由化では、利用者が悪質業者かどうかの区別がつかず、再び情報の非対称性を生んでしまいかねないのではないかと思われるからである。